3,しにがみと神世界
(さっぱりした)
後藤光先はシャワーから出る。
体はタオルで粗方拭いた。問題は髪だ。しっかり水気を取るよう髪にタオルをあてる。この瞬間もメイにぴっちり監視されているかもしれない。昨日拭き取りをサボったら普通に注意された。
しかし、面倒なものは面倒だ。それでも注意される方がもっと面倒なので髪の水気をしっかり取る。
長い髪、ピンク色で綺麗な髪。確かに大切に扱った方が良いようにも思える。人間には茶髪にしか見えないらしいが。
ある程度水気がなくなれば、やっと服を着ることができる。といってもブラとパンツ、だぼだぼジャージの3点だけだが。
洗面台に移り、ドライヤーを取り出す。冷風を髪にあてていく。温風は厳禁らしい、その方が早く乾くと思ったのだが髪が痛むから。果たしてこの体はそのような状態になるのかそれも疑問なのだが。メイの言うことは素直に従う。
それ以外の光先独自の考えなんて思いつかないのだから。記憶がないというのは不便である。
それから数十分、やっと髪が乾ききった。忘れてはいけない櫛で最後の整い。今日も櫛がスルスルと髪に入っていく。しっかり丁寧に施した結果だ。素直に嬉しい。
気づけば帰ってきてから随分と経ってしまった。こうして身支度を済ませるだけでも時間は消費されてしまう。もっと楽をしたいが監視がある、そうもいかない。
(やっと、ベッドにありつける)
光先はベッドに沈み込む。ぽふっと優しくベッドが沈む。
メイが光先のために頼んだ特注ベッド、今日もふかふかだ。
先ほどできなかった下半身のストレッチを始める。足を伸ばし、体を倒す。体は正直に倒れ込む。足と胸の隙間はない。
今度は開脚ストレッチ、右、左とこなしてから最後に真ん中に沈み込む。これもベッドとの隙間はゼロ。本当に柔らかい体。
光先は一息つき、ベッドの下をまさぐる。
(あった)
探してしたものは、VRゴーグル。
早速コンセントをさし、横になりVRゴーグルを装着する。
(スタート!)
これで神様のいる世界に簡単にログインできるのだから、便利な代物だ。
光先は目を開ける。
そこは星空が満点に咲いている世界、宇宙に飛び立ったように宙に浮いているような場所。それなのに足はしっかり地についているような不思議な感覚。
光先には神様のいる世界はそう見える。
今の現実世界は夜だから、星空の下に見える何とも安直な光先の感性だが、とても綺麗なのでそれでいい。
見渡せば、神様たちが歩いている。
神は基本的に睡眠を必要としない、本日もせっせと人間界のために働いている。
あの赤い装束の神はどこに向かうのだろうか、何を司る神なのだろう。あっちの緑の装束の神は走りながら目的地に向かっているのだろうか、忙しそうだ。
こうしてずっと景色と神の様子を永遠と観察したくなる欲求が止まらないのだが、それだと今日の仕事が終わらない。
(メイに報告しないと)
光先は歩き始める。
宙に浮いているような背景でも、建物は平面にある。
日本家屋、または神社にも見える建物が各所に散りばめられている。シンプルな和風建築なもの。朱色を軸にした寺のようなもの。中には黄金を基調とした五重塔もある。
日本と違い、神の世界の土地は無限、ひとつひとつの土地が悠々と広がっている。
それが神の世界、光先は触れて感触を確かめたいところだがそれは感じることはできない。あくまで体は現実世界にあるため、精神があのVRゴーグルっぽいもので運ばれてきているに過ぎないからだ。
神の世界と人間世界の行き来は、神様の力を借りないといけない。
光先は神ではない。
神の使いとしてここにくることを許されている。いちいち神様を呼び出し、行き来しては面倒が過ぎる。神様にもやらなければならない仕事がある。そのための便利道具、神の世界行き来用VRゴーグルだ。
光先はやっと慣れてきた道を辿り、目的地に到着する。
大きな大きな神社、しかし催し色は使われておらず、シンプルな木目調がメイン。中央には溜池があり、取り囲むようにそれは作られている。
「光先です。入ります」
挨拶をし中に入る。これもマナー、忘れるといつの間にか入口に返されてしまう。神様パワー怖い。
光先は奥に進む襖を開ける。通り道は風を感じる。熱くもなく寒くもない、ただ心地良い風がふわりとふき続ける。
目的地最後の襖の前に到着する。この先は大きい応接間だ。どうしてかここに来ると緊張する。分かっていえ、どえらい神様がメイの隣にいるかもしれないのだ。メイだけならまだしも、日本の創造神とその妻が団欒していることもある。光先は固唾を吞む。
「し、失礼します」
光先はゆっくりと襖を開ける。
「あ、光先お帰り」
真っ先に写るはメイ。微笑みながら出迎える。
メイ、光先が使える神。正確に言えば今のメイはまだ神様の見習い。そのため光先もまたその見習い、天使のようなもの。
その証拠に彼女の髪色は黒。それが神様の決まりのならわしらしい。見習い神様の髪色は黒、その後一定期間修行し見習いが解かれた時、自分で好きな髪色を決まられるとか。
光先は関係のないことだが、ついつい覚えてしまった。
メイは成人女性の平均身長とほぼ同じ、顔たちは神らしく整っており、目元はスッキリした印象。
光先はその下を見る。うらめしく。
彼女は女性が欲しいラインを欲しいがままに持っていた。胸は平均身長に不釣り合いに大きく存在し、くびれも平均的にある。ヒップもこれまたたまらない。世の男性はこの女を現実世界で見かけたら必ず凝視するレベルだろう。うらめしい。
青と白をメインにした和服ともドレスとも取れる美しい恰好している。これが神の正装だ。
「あら、光先ちゃん帰ってきたのね。おかえりなさい」
「あ、イザナミさん。ただいまです」
光先は隣の存在に気づき、慌てて挨拶をした。
イザナミ、メイを召喚した神様の妻だ。
彼女はザ・母性の塊という佇まいである。身長は170cmを超えているだろうか、青髪のロングストレートが印象。それだけなくもちろん母性に見合わせた体躯をお持ちである。さすが神様といえばいいのだろうか、光先もそれが欲しい。
銀色の装飾を髪に、体に施してある。そこから僅かに見える水色がワンポイントの正装だ。
「光先、おかえり!」
「カクヅチさん、ただいまです」
光先は声のする方へ体を向き、急いで挨拶する。
カクヅチ、イザナミの子供。
しかし見た目は立派な大人、というより少しチャラそうにも見える。赤色の和服が少しはだけている。
髪型も明るい赤色でワックスをかけたように髪をはねさせており、イケメンな顔にちょび髭がそれに拍車をかける。
言動もいかにも陽キャという感じで光先にも接してくれるアニキ肌。
そして神世界に行けるVRゴーグルを発明、製造した張本人だ。
「光先が帰ってきたのだな」
背後から声がする。この声に覚えがある。
光先はゆっくりと振り返る。
メイ、光先をこの神世界に召喚し、その中で一番お偉い神様がそこに現れた。