23,しにがみの承認ついて
光先は神世界にログインしていた。
メイから用事があるとメッセージがきていた。
いったいなんだろうか、とりあえずいつものメイの仕事場に向かう。
イザナギ邸に入ると双子姉妹が今日は出迎えてくれた。自分より年下、妹のような雰囲気があり可愛い2人、頭を撫でたくなる。
そして応接間に入り、メイがいる部屋へ、
「光先です、お邪魔します」
「あ、光先。来たのね、ちょっと……はい、オッケー!」
メイはいつものようにバリバリ仕事していたのか、キリのいいところで中断したようだ。
「それで用事って?」
「今からイザナギさんのところに行くわよ」
「行く?どこか向かうの?」
「そう、会議所にね。一緒にいくよ」
「うん」
メイは立ち上がり、手を引かれる。
「なんで?」
ただついていけばいいだけなのに手を繋がれる理由が光先には分からない。
「いいじゃない、たまにはこうしてお出かけしましょ!」
「なんか変じゃない?」
「そんなことないよ、行きましょう!」
光先はそのまま外に連れていかれた。クラ姉妹に恥ずかしいところをがっつり見られてしまった。
確かにこの神世界に誰かと一緒に行くことは初めてだ。それにイザナギ邸以外のところに初めて出かける。手を繋ぐことさえなければ何もかも新鮮に思えて良かった。
恥ずかしい、なのか光先自身よくわかっていないがむずむずする。かゆいような暖かいような、とりあえず慣れることにしよう。メイは楽しそうだし。
と思ったら表情が引き締まり、
「仕事モードのイザナギさん、光先は知らないよね?」
「うん?うん。なんか違うの?」
イザナギさんは神様のリーダーであることは知っているが、普段どんな仕事をしているかまでは知らない。
「かなり厳しい人に、神様に変わるの。きっと光先は真意をきっちり聞くために今回は仕事場の方に呼んだのよね」
メイのニュアンス的に雰囲気が違うようだ。優しくほんわかなおじさんという印象が強いが、仕事の時はそうではないということ。イメージは出来ないが粗相がないようにピシッとしようと思う。
「真意って?」
「あ、肝心なところ言ってなかったね。例の追跡する件よ」
「ああ、なるほど」
確かにそのことについてイザナギさんに確認するとメイは言っていて、そのことが進んだ結果本人から直接声明を聞きたいということだろうか。
「いい?別にしっかりした言葉じゃなくていいから、想いをしっかり伝えるのよ?」
「分かってるって」
言わなくてもそうつもりだ。手をにぎにぎしてそんな真剣に言わないで欲しい、余計に恥ずかしくなる。
そんなメイとやりとりしている間に会議所に到着する。
「ここ?大きいね」
「そう、この世界の建物はみんな大きく作られているわ」
中に入れば圧巻だった。
「……」
「光先、進んで進んで」
神社の中というよりは豪勢なお寺の中のような煌びやかとした内装、それなのに静けさを感じる雰囲気。和の造りを最大限に活かしたあの世だから出来るものだった。
そのまま階段に進み、下に降りていく。
この階は和室が何個も分けて作られている。きっとここが神様たちの作業場所なのだろう。
「ここよ」
メイは小声で光先に耳打ちしながら和室の前に立ち止まる。
「入るよ、準備はいい?」
「うん」
特にこれといった準備は必要ないように思ったがとりあえず頷く。
「メイと光先、来ました。入ってもよろしいですか?」
メイのハキハキとした声、光先もそれでピシッとした雰囲気にスイッチを切り替える。
「入れ」
「失礼します」
一言、イザナギさんからただその一言が聞こえただけなのに威圧感を感じた。口調の問題ではない、ニュアンスが違うのだ。
それにメイは慣れているのか怖気ることなく中に入るので光先も続く。
「失礼します」
こういう時は変にビビってはダメだ。平然を装い、声を改める。
「座っていいぞ」
「失礼します」
「失礼します」
メイ、光先の順番で座る。
光先は座りながらイザナギさんを見る。
目つきが違う、雰囲気が違う。真っ先に思った。これが出来る大人の態度なのか。
「早速だが、光先。転生者を追跡、死ぬまでの間を観察したいという思いは変わらないのだな?」
光先は息を小さく吸い、
「はい。人間、それぞれがどのように生き、どのように暮らし、どのように死ぬのか。今はその最後しか分からないから、もっと前から自分の目で直接見たいです」
「どうしてそう思った?」
「なんとなく……というか……そうしたいと自分の中、心が想っているんです。色々な人生を見て学びたいんです。今の自分は記憶がないので参考にしたいというのもあります」
一番最後の理由、本来ならそれがメインになるだろう。でも違う、光先の中に何かがあるような、いるような、そうしたいとどこか想っている自分がいる。それをうまく説明することはできない。
だからこそそれを知るために、あらゆることをしてみたい、その一環なのだ。
「そうか。人間には様々な生き方がある。もしかしたら参考にならない者も現れるかもしれないが、それでもいいのか?」
「はい、それでも構いません。世の中、どんな人々がいるのかしっかり見てみたいんです」
「辛いことを経験するかもしれんが」
「はい。だけどそれから逃げたくありません。過去の自分が良い人生出なかったことは、記憶のない今でも何となく分かります。だからこそ向き合って今の自分を、もっといい形にしたいです。
光先の過去、記憶を失って性別も逆転して転生してきたので何もかも分からない。
分からないことは怖いと思った。だから過去も未来も様々なこと、蛇足な部分も含めて本当の自分の糧にしたい。
その思いが伝わったのかイザナギさんは険しい表情から一転、微笑むように、
「そうか、わかった。光先がこんなにしっかり話すことは初めてだから嬉しいな。追跡、頑張るんだぞ」
光先も微笑み返し、
「はい」
こうして光先の仕事は第二ステップに移行する。
光先は一足先に現世に戻り、イザナギさんとメイが残っていた。
「メイ、あの子の気持ちにしっかり応えてやるのだぞ」
「はい、頑張ります」
「しかし光先はあそこまでしっかり考えを持っていたんだな。しょうがないとはいえ普段あまり話さないからな」
「そうですね。光先は普段ボーっとしているように見えますが、やっぱり転生の元の魂、根幹がちゃんとあって優しい子だと思います」
「君が言うのだから確かなんだろう。良かったかこれで?」
「はい、まだまだこれからだと思いますが」
イザナギさんの雰囲気が少し柔らかいままなのはきっと光先のおかげだ。光先にはそういう周りを変える力があるとメイは転生前から想っている。ただ前は環境が悪すぎて発揮出来なかったのだ。
メイはイザナギさんに挨拶したのち退室、いつもの応接間隣接の仕事場に戻る。
その道中、これからのことをメイは考える。まずは追跡する人物を探さなくては。メイの人選によって光先の経験値が大きく変わってくる、責任重大だ。
緩くてもいけない、転生に向いている人を選びつつそこらも裁定しないといけないとなると中々大変だ。
ただでさえ、
(壮絶な過去があるから転生に選ぶのよね……)
報われないから、人生をリスタートするために転生する、それが選ばれる人達。
いい過去もあるかもしれないが、どうしても辛い過去や出来事が多くなってしまう、それに光先は耐えることができるだろうか。
今はまだ何も知らないからこそ彼女は純粋でいられるのだが、決まってしまった以上メイがくよくよしていられない。
だがメイはそこらが不安、光先がまた辛い目に遭うのだけは、苦しむのだけは嫌だ。過保護になるかもしれないがどうしてもそう思っている自分もいる。
(これからはもっと光先と話す時間を増やそう)
光先にまだ友達はいない。記憶がない以上、自分から誰かと話すことは苦手なはずだ。
だから自分が率先して。しつこいと思われようとも彼女の気持ちが少しでも整理されてくれるなら、今度は汚れ役をやってみせる。
そのために生きながらえ、一度人生を終えたのだから。