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22,主神の仕事内容

 イザナギ邸に戻ってきたメイはいつもの応接間にいた。

 コーヒーをいつも使っている机に置きながら、画面とにらめっこをしている。コーヒーは先日カクヅチさんにコーヒー製造マシンなるものを作ってもらい、そこから抽出したあの世だから楽しめる美味。


(まずは今日の光先の様子はっと……)


 応接間の端に作ってもらったメイの作業場所、何インチあるか分からない大きなディスプレイのような画面、それを操作、作業するための長机、そして高性能ゲーミングチェア。周りは和の作りになっている中、ここだけ異質のひと空間が出来上がっている。これもカクヅチさんに揃えてもらった。

 ディスプレイの操作はスマホのような感覚。タッチ式で操作するのではなく、指を空を描いて画面を動かしていくが出来る。神の世界は現世よりも近未来的だ。

 画面の端に光先の様子を映す。今は自分の部屋でのんびり寝ているようだった。

 まだ光先はこれといった趣味もなく、交友関係もない。単純に仕事以外にやることがないのだろう。

 あとメイはこの前噓をついたが神の目はどこでも監視可能だ。こうして光先の部屋の中も丸わかり、その上で部屋の中では自由にさせている。流石にそこまで注意しては光先もウザイと思うことだろう。ぶかぶかジャージでお腹を出しながら寝ているのは気になるところではあるが。主に可愛いという意味で。


(早く生きがいを見つけて欲しいな)


 だけどそれに焦らないでゆっくり探して欲しい。時間は無限にある。もう狭い生き方に縛られなくていい。


(さぁ、仕事仕事!)


 メイはコーヒーを一口飲み、画面を仕事用に変える。

 メイの仕事、それは転生候補者を見つけること。

 神にはどの人がどの時間にどのタイミングで死ぬのか知ることができる。

 しかしそれを未然に防ぐこと、未来が分かっても変えることはできない。その人の人生を踏みいじることは本来許されない。

 光先が行っている行為は、あの世、こちらの世界に一度来ようとしている魂を別の世界に届けること。

 メイたちが来るまでは、どんな魂も自動的に輪廻転生を繰り返していた。しかし、メイの想いは理不尽だった人生を自分の手でもう一度、記憶のある状態でやり直すチャンスが欲しい。それをイザナギさんの許可を得て今日もやっている。

 選別にはかなりの作業がいる。たくさんの新たな命が生まれてくると同時に、寿命や病気や殺人、事故でなくなる人もいる。それをメイは一人一人チェックしている、どんな人生を送っているのか。

 正直にいって大変な作業だ。ただ自分が辞めれば報われない魂はどうなるのか、光先の生活もどうなってしまうのか、それくらい責任がつく仕事をしている。

 大変な仕事ではあるが、やりがいを持ってやっている。もう光先のような人が少しでも救えることが出来るかもしれないからだ。

 転生した人の未来までは追っていない。その人がどうなるのかはその人の生き方次第。

 それに転生先は完全にランダム。一応その人の人生にまつわる世界飛ばされやすくはなっているようだが、ここにも例外はあり全く関係ない世界に行くこともある。

 これがメイの仕事、こちらから向こうの世界にいく橋渡し。メイはそれを選別している。

 だが仕事はこれだけじゃない、向こうの異世界から召喚、転移させられることもある。選ばれてしまった人は世界を移動するため一度死んで魂になってから向こうの世界へ。このままでは輪廻転生が作用して記憶はリセット、何も分からないままになってしまう。そこを光先にお願いして記憶を保持したまま世界を移動してもらうという算段だ。

 要は天使光先が絡んだ死は記憶を保持したまま次の世界にいける。


(専門職って傍から見るとややこしいよね……)


 生前の仕事もそうだ。一見誰にもできそうなことをしてきたが、いざ深く入ってやってみるとそうではなく難しい。気軽に挑戦する人はいたが長続きしてくれる人は少なかった。

 何事にもそれだけの覚悟と知識がいるのだ。

 メイはイザナギさんから何回も反復学習を施されて今にいたる。脳に叩き込むのは本当に疲れた、慣れてしまえばどうということはないのだが。

 すでにある程度の転生候補者は決めている。今画面でチェックしているのは何ヶ月先の候補者たち。

 メイの仕事は終わることはない、人が生き続ける限り。だからどんどん黙々をやっていく。

 メイは仕事人間、だった。いまは仕事神?こうして何かを任され作業している時が一番生き生きとしていることは自身でも分かっている。生前、趣味というものがなかった、仕事が趣味だったから。

 コーヒーをもう一口飲むと、とっとっととメイの意識外から軽快な足音がこちらに近づいてきた。


「メイさん、遊びにきました」

「お姉ちゃんまって!」


 クラ姉妹がやってきた。クラオカミお姉ちゃんはメイの作業場に表情には出さないようにしているが興味津々で、クラミツハ妹はそんなお姉ちゃんの後ろを一生懸命追いかけている。


「いらっしゃい、ここに来るのは初めてだね」

「イザナミママにせっかくだからって」


 メイの問いにクラオカミは答えながら、ディスプレイを見つめている。クラミツハはお姉ちゃんの側に隠れながら同じようにキラキラした目で見ていた。


「ふふ、やっぱり興味ある?」

「うん。ここはこういうの全然なかったから。父はいつも他のところに作ってばっかりだから。ちょっとミツハ力強いよ」

「ご、ごめんなさい。楽しくて……」


 クラオカミが言っている父とはカクヅチさんのこと。イザナギさんが神のリーダーなだけあってその家族であるカクヅチさんもかなり周りから信頼されており、色々な神様からものづくりの依頼を受けている。そのため自分のところにはそんなに物はなく、メイたちが来て本格的に物が増えているところだ。

 くいくいクラオカミの裾を引っ張って注意されたクラミツハは一瞬しゅんとなったものの、すぐにまたディスプレイ内の動いている光景に目を輝かせる。


「メイは凄いですね。私たちと話しているのに作業を止めないなんて」

「これはもう慣れだからね~。生前からずっとこうしてきたから。もうちょっと待ってね、あと少しでキリがいいから」

「作業は止めなくていいです。仕事の迷惑にはなってはいけないとイザナミママから言われていますので」


 クラオカミも凄いスピードで進む作業光景にポーカーフェイスが崩れ始める。


「そっか。あ、それなら光先の様子でも見る?さっきは寝たままだったけど……」


 そう言ってメイは光先の観察カメラの画面を大きくする。


「あ、起きたみたいね。寝ぼけながらご飯食べてる。寝癖は直してから食べてよ」

「メイさん、人間の世界って楽しいですか?」

「楽しい?」

「私たちはずっとこちらの世界にしかいないので、向こうの世界がどんなものなのか」

「そうねー、住んでいるところによって色々な環境が違ってくるから。楽しいって思う人もいれば、苦しいって人もいるね」

「メイさんは?どうでしたか?」

「うーん。毎日は充実していたと思うけど、楽しいとは違ったかな」

「そうなんですね。光先お姉ちゃんが出かけようとしています」


 指さすクラオカミ、メイは微笑み、


「ほんとね、散歩する気にでもなったのかな?」


 ちらっと横目で光先の様子を確認しながら手は止めない。

 クラ姉妹はこっちの神の世界しか知らない。神は人間世界に安易に行くことは例外がない限り許されない。

 メイも同じ、確かに転生前は人間界にいたが今はもう向こうに世界に行こうとは思っていない。光先がいれば十分、それにメイがあっちの世界でやり残したことはもうないのだから。


「そろそろ戻ります、メイ忙しいところごめんなさいでした」

「ううん、こっちこそちゃんと話せなくてごめんねー。今度ゆっくりしようね」

「はい。行くよミツハ」

「うん……」


 クラミツハはここを離れるのが少し残念そうだ。クラオカミもほんとはもっと観察していたいのだがお姉ちゃんらしく振る舞っている、そんな姿も可愛い。


(さぁ、これも片づけちゃいましょ)


 メイはコーヒーを飲み干し、エンジンをかけた。

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