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20,しにがみと老後

「メイは老後って何していたの?」


 光先はいつものように神世界に入り、メイがいる仕事場に来ていた。

 今日は老後、おばあちゃんおじいちゃんの世界はどう広がっているのか、それを考えさせらる任務だった。

 光先は歳を取らない、取ることができない。そのため想像だけで経験はできないのだが、それでも興味の方が勝った。

 そこでいちばん身近で、一度人生経験を積んできたメイに聞いてみる。

 今日は向かい合って座っている。いつもくっついているわけではない、光先の気分メイの気分でいちゃつきするか変わる。


「変わらず活動していたわよ」

「仕事していたってこと?」

「そう、一般的な仕事なら70も過ぎたらほとんど辞めるけど、私は例外な職だったから」

「そうなんだ。でも体辛くないの?老いるとどんどん鈍くなると思うけど」

「そうね、朝起きたら体のあちこち痛いし、動きも遅くなる。疲れが全然取れないから夜寝るのは早くなるし、大変ね」


 そういうものか、それは辛そうだ。光先は自分が老いた時の想像をしてみる。

 今日みた苗さんの姿を自分にインプットする。シワが増え、体のあちこちが痛み丸まる。動きは遅くなり反応が鈍く、夜はすぐに眠くなる。


(大変そう)


「やっぱり若返りたいって思うものなの?」

「そりゃ誰だって思うわよ。体がいうこときかないんだから。でも私はしょうがないがないことって諦めていたけどね。考えるよりも活動の方が忙しかったし」

「老いるって悪い事なの?」


 今日の苗さんはそのような雰囲気があった。メイはどうだろうか。



「私はそうは思わないけどね。人には思考があって、色々な経験をすることで様々な考え方ができるようになる。若いころは体は元気でも経験がないから水鉄砲のように突っ走っしちゃう、そして失敗して経験する。それが積み重なっていくことが老いることよ」

「なるほど」

「光先も私も明確に歳を取ることがなくなったけど、こうして毎日生きているのだから老いることに変わりないの。色々な人を転生させて、人生を知って、あなたはもっともっと色々な考え方が出来るようになるわ」


 そうか、何も姿形が変わっていくことが老いるというわけではない、経験を得て知識が増えることもまた老いるということをメイは言っているのか。

 光先は姿は変わらない、美しくなることも老けることもない。でも経験はしている、100年後200年後の自分はきっと今より違った価値観になっているのだろうと。それは興味ある。


「でもほんとおばあちゃんになった時は大変だったわー。顔中シワだらけ肉は垂れるし特に乳房なんてだるんだるんよ」


 へっ、ざまぁないぜ!と心の中で思ったことは口には絶対出さない。羨ましいとかそんなんじゃないんだからね!


「自分っておばあちゃんの時、どんな感じだったの?」

「……。光先はそこまで生きていいないわ、それとなるならおじいちゃんね」

「え?どういうこと?」

「今は女の子だけど、生前は男子よ」


 さらっと衝撃的なことを言われている気がする。


「これくらいは教えるわよ、変に誤解されても困るし。光先は天使として男子から女の子に転生したの」

「え?じゃあちんちんついていたの?」

「ええ、もちろんよ」


 光先は、自分でいってだんだん恥ずかしくなってくる。男女の違いは知識として覚えているというより転生した時に刷り込まれている。

 てっきり前も女性だと思っていた。今まで、生前どのように生活していたか想像していたのは女の自分。しかしメイが冗談を言っているように思えないので事実なんだろう。

 それなら尚更、転生前の自分はどんな自分だったのだろう。


「なんか、自分の体が恥ずかしくなってきた」

「なんでよ、今まで通りでいいじゃない。ちんちんの長さ覚えているの?」

「覚えてない」

「ならいいじゃない。前は男だったってだけで今は女の子として生活していけば。それにもしそう思うならどっちの気持ちもしれていいことじゃない」

「そう言われれば」


 異性で思考が変わる、それはこの3ヶ月間の短い中だがなんとなく経験した。色々な人を転生したが、すでに様々な考えかた生き方を見ている。そしてそれが異性によって行動パターンが違うことも分かってきた。

 今まで男女どちらかに肩入れした、ということは特になく俯瞰的に見ていたがそれは当たっていたということになる。

 だが今の状態、女になった自分でちんちんを見たらどう思うのだろう。現状考えられることは特にない、思い浮かばない。だが、実物を眺めてしまったらそうもいっていられないかもしれない。男女の違い、男だけにあるもの、そもそも実物を見る機会があるかは不明だが天使として気高くいかなくては。

 そんな決心をした時、メイは少し伺うように、


「光先、生前の記憶は戻っていないよね?」

「うん、さっぱり。今男だったって知ったくらいだから」

「そう、それならいいわ」

「それとも教えてくれる?」

「ううん。それは自分で見つけるものです」

「残念」


 メイは光先の頭を撫でる。


(誤魔化してる)


 光先でもなんとなく分かる。メイは誤魔化すために頭をなでなでしている。表情は戻りいい子いい子してくれているが手つきはいつもより若干硬い気がする。それに雰囲気もどこか違う。

 自分の過去について何か話したり関係する時、メイの表情は平然を装うとしているが少し暗くなるところを見ている。それが物語っていること、きっといい生き方ができなかったのだろうと理解出来ている。

 だからメイは知って欲しくない、忘れてしまっていいのだと思っているのだろう。

 でも何もないというのも嫌なんだ。やっぱり知りたい、例え良い記憶じゃないと分かっていたそしても、どうして自分は転生したのか。メイとはどんな関係だったのか。どんな人物だったのか。本能的に知りたいと思ってしまう。

 いつか思い出せるのだろうか、この任務を続けていれば何かヒントがあるのだろうか、その悪夢のような事実を知ったとき自分はどうなるか。

 分からない、だからこそ知りたい。

 それが今の後藤光先として生きる糧なんだ。


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