表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/58

2,しにがみの帰り道

 後藤光先は白い大きなバックを背負って思いっきりビルを蹴る。

 これから帰宅するため、ビルの頂上を飛び越えながら自分の部屋があるマンションに帰るため。

 大胆に動いても構いやしない。今の状態であれば人にバレることなんてないのだから。

 こうして移動して改めて分かる、今日の夜風は心地良いと。

 爽やかな風も、春らしい雰囲気も今だけ、存分に感じながらゆったりと光先は帰る。次の季節の風はどんな風に感じるのだろうか。

 今回の依頼は光先の住んでいるマンションから近い、ビルを10軒か20軒くらい飛び越えゴール、光先の住んでいるマンションに到着。

 もちろんマンションは玄関から入る。ここでやっとモードを切り替える。

 光先が住んでいるマンションはごく普通のありふれたマンションと言えばいいだろうか、豪勢でもなく古いただずまいでもない。玄関も普通でエレベーターも普通に完備してある。そこに光先は一人で住んでいる。

 5階、そこに光先の住んでいる部屋がある。

 いつものように鍵をガチャリと開け、暗い部屋が光先を出迎える。

 光先は靴を揃えて脱ぎ、まずは部屋の明かりをつける。LEDのライトが部屋いっぱいに照らす。

 物は少ない。まだここにきて1週間、必要不可欠なものはあるが、それ以外はなく部屋は閑散としている。8畳位のリビングにはテーブルと綺麗なベッドのみ、パッと見えるのはそれくらい。

 光先はひざ上まであるストッキングを脱ぎ、洗濯カゴに入れながらリビングに向かう。


(素足、最高)


 さっさとベッドで横になり、フリーになった足をパタパタして楽しみたいところだが、そうもいかない。制服を脱がなければ。

 スカート、ブレザーはハンガーにかけ、ワイシャツは洗面台に戻り洗濯カゴへ。これで脱ぐ作業は完了。

 あとは。

 ベッドの上に少し雑に置いていた、灰色のジャージを着るだけ。これで光先のお部屋はスタイルは完璧だ。

 ジャージはスーパーに売っていた男もの。ぶかぶかになることは分かっていたが着ることが出来れば良いと思い、直感でこのジャージを購入した。

 下はパンツだけでスースーするかもしれないが、問題はない。この部屋にはエアコンが完備されている。今日もスイッチオン。

 作業はまだ終わらない、キッチンに向かい手洗いうがいを済ませる。手洗いは隅々まで、指の間良く泡立つように。うがいはきっちり3回。こんなことをしなくても風邪になることなんてないのだが、念のためだ。

 さあ、作業ついでに先に済ましてしまおう。夜食を。

 冷蔵庫に向かい、冷凍庫を開ける。今日は何にしようか、たくさんの食品が光先のところにはある。焼きそば、グラタン、ピザ、スパゲッティ。

 光先は一番奥にあったスパゲッティをチョイスする。このスパゲッティは器が最初からある便利な食品、そのまま電子レンジで温める。

 その間にストレッチを始める。前屈、面白いぐらいに良く曲がる、床に手首まで届いてしまいそうな程に。

 今度は軽く後ろに反る。残念ながら光先はまだまだ発育途中の体系、女性のアドバンテージはそんなにない。決してないこともないのだが。そもそもこの体は成長するのだろうか。

 開脚ストレッチはベッドについたときに、それ以外に上半身を中心に右に左に体を反らしながらストレッチを入念に行う。これもわざわざすることもないだが、光先は良く曲がる体が面白くてついつい毎日やっていた。

 ピーピーと電子レンジが合図する。扉を開けて中を取り出し、アチチとリビングのテーブルに持っていく。ふたは忘れずに剝がす。

 そして再度冷蔵庫を開け、オレンジジュースを注ぎ、フォークを持ってくれば今日の夜食の完成だ。


(いい匂い)


 今回チョイスしたスパゲッティはカルボナーラ、クリームの香りが夜ふけというバフをつけて漂う。

 光先はゆっくり味わい深く食べていく。クリームがしっかりスパゲッティ全体に行き届くように優しく混ぜる。ここに追いの生卵を入れたい衝動に駆られたが、生憎あの冷蔵庫には賞味期限が近いものは入っていない。残念だ。

 気づけばあっという間に平らげてしまった。こうして一度何かを食べるともっと食べたくなる欲求が強くなる。


(太るわけじゃないし……)


 首を横にブンブン振る。オレンジジュースを飲み干し口をリセットして忘れる。

 本当はもっとたくさん色々食べたいところだがこの体は特別だ。私利私欲に使い過ぎないように気をつけないと。

 そのまま光先キッチンに向かいスパゲッティが入った容器は捨て、フォークとコップを洗う。これでもう食べることはできない。

 さて、作業の続きだ、今度は大事ところだ。

 シャワーに入らなければ。

 一人暮らしだし、神様たちがここに来ることもないから入る必要はないかもしれないが、汗臭さは自身で感じるのでしっかり入る。

 洗面台の奥がシャワールーム、バスタブももちろん備わっている。まったりくつろげるバスタブもいいが、今日はさっぱりしたいだけなのでシャワーで十分だろう。

 ここまできて思い出す、替えの下着がないではないか。入る気満々でジャージはすでに脱いでしまった。

 下着一丁でリビングに戻り、クローゼットを開ける。自分しかいない、自分だけの部屋なのに少し恥ずかしくなるのは何でだろう。

 やっと落ち着いてシャワーに入る。タオルもしっかり準備完了だ。光先は下着をカゴに入れた。

 光先はシャワーの取手を捻る。心地良い水しぶきが体を包む。


(気持ちいい)


 数分間、体を洗うわけでもなく髪を洗うわけでもなく、ただ全身に水を浴びる。人肌よりも少し高い温度の水を浴びているだけなのにここまで心地良いのはどうしてだろうか、長い髪が腰に触れる


(不思議な色だ)


 光先の髪色は桃色、ピンクだ。一般の人から見られる時は茶髪に見えるようになっているのだが、それにしたって自分の髪がここまで長いのも最初は驚きだった。

 優しく髪に触れる。そうしないとメイに怒られる。女の髪は命だと一昨日注意されたばかりだ。

 普段はツインテールに結んでいる髪、しかし今の光先は降ろしてある。服もない。

 風呂場の鏡をジッと見る。


(本当は男の子なんだっけ)


 どうしてか女の子に変わってしまった。それに男の子だった頃の記憶はない。気づけばあの不思議な世界にいたのだから。

 元男子だからといって今の体で特にドキドキすることはない。胸の近くにほくろがある、くびれというか、体系はスレンダー、スポーツウーマンよりか。それが光先自身の感想である。


(早く洗おう)


 光先は自身の胸を見て一息つき、それから体を洗い始めた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ