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18,しにがみと6月

 6月、もうすぐ梅雨の季節がやってくるらしい。曖昧なのは光先は記憶を失っているため、転生して初めて訪れる季節になるからだ。

 4月は少し肌寒さが残って風が強くふくこともあった。5月は一気に陽気になり穏やかで気温も暑過ぎず過ごしやすかった。

 今はどうだろうか、最近は曇り空が増えてきた気がする。気温も少しずつ上がっており、湿度もあるのかジメジメとした空気を自宅でも感じる。

 光先の髪は長い、手入れが楽に出来た先月に戻りたく思う。ジメジメし始めると髪があちらこちらにくせ毛がついてくる。渋々であるが手入れを洗面所の写し鏡の前で行う。メイにおかんのように注意されるのは勘弁だ。

 家の中ではぼさぼさ頭でも気にしないが流石に外に出るときは良くないと思う。それがどうしてなのかまでは光先にも分からないが、身だしなみはしっかりした方がいいのだと感じている。女の子だからか。

 それにメイとは楽しい話をしたいとなんとなく思う。使いの神、おかんのようで、お姉ちゃんのようなメイには笑顔でいてもらいたいと想っている。もちろん髪の手入れも面倒だが、ずっと注意される方も面倒だ。

 ある程度整った髪をいじりながら、窓の前に移動し、曇っているそれを眺めながら、


(今日は午後から任務だ)


 任務、光先の任された仕事。光先が仕事のことを任務というのはその方がやる気が出るから。仕事だと責任感持ってぴっちりやらないといけない気がする。光先はそこまで常に緊張感をもってやることはできないし疲れてしまう。

 任務も変わらないかもしれないが気持ちの問題。もちろんおろそかにせずしっかりこなす。というより失敗する要素が少ない、神様の手厚いフォローがあるから。それすらも無碍むげにするわけにはいかない、それぐらいの責任感はある。


(お昼か、何食べよう)


 正午になり光先は冷蔵庫をまさぐる。といってもいつも冷凍食品を置いているところを。

 侮るなかれ、冷凍食品もたくさんの種類がある。最近ではお弁当のように一式入っている物もある。本当に便利だ。

 光先はそんなお弁当冷凍食品を手に取る。ご飯、ポテトサラダ、ハンバーグ、剝かれた枝豆が入っている。

 いつものように食事の準備をし、食べていく。繰り返しな日常もようやく肌に馴染んできた。


(うん、おいしいな。この後どうしよう……)


 光先は食べながら考える。

 任務まではまだ時間がある。といっても光先に他にやることがない。昼間は神様たちは忙しそうに仕事を勤めている。メイもその一人なので邪魔するわけにもいかない。

 かといってこれといったすることもない。この部屋には娯楽がない。

 ゲーム、興味はあるがどれからやればいいか分からない。おすすめをネットで調べてみたがピンとこない。やっぱり実物を見てみるのが一番だが、そんな知り合いはいない。

 メイには普通に人間と交流していいと言われているが、積極的に行っていない。見ず知らずの人とどうやって話したらいいのか光先には分からない。

 神様たちにはすでに光先のことを知っていたので難なく話すことが出来たが、それ以外の人物と関わっていない。そして神様の中でも光先を知っているものみ、神様だってイザナギさん以外にも数多く存在するが用がないので話していない。こうしてみると光先は断然交流が狭い。

 だがどうやって話したらいいか分からない以上無暗に人に接するのも怖い。へい!なんて見知らぬ人にやったらびっくりされるに決まっている。

 でもそれがないからこういう時間の潰し方が分からないでいるのだ。


(掃除でもしようかな)


 光先は弁当を食べ終わり部屋を見渡す。初めてこの部屋に入った時に比べて物は少し増えた。散らかっているものはない。メイには部屋の監視は無いと言われているが実際は嘘で見られている危険性があるので整理整頓はある程度している。しっかりは流石に面倒だが。

 弁当を捨てにキッチンに向かう。キッチンは基本的に冷凍食品を食べているだけなのでそこまで汚れていない。が、シンクは日頃の洗い物のせいか若干汚れている。

 光先はぶかぶかジャージの裾から腕まくりをして食器を洗うのとは別のスポンジに洗剤をつけてシンクを擦る。もちろん傷つけないように優しく。

 ちょっとやればすぐに輝きを戻していく。やった分だけ成果が如実に現れるとやっぱり嬉しい。

 お風呂場は、また今度にしよう。

 光先は支度を始め、今日の現場に向かう。



 今日は都内から少し離れた住宅街、この辺りは都内の密集したような造りとは違い各家には庭が広々とありゆとりがある空間が多く生まれていた。

 街を歩けば規模のある公園もあり、遊具は数多、木々は整列しながら美しく生えて、その下にはたくさんの種類の植物があった。

 その植物たちの名前は分からない、横長く生えている草、ツルのように生えている草、そして綺麗な花があった。

 この花の名前は知っている。紫陽花あじさいだ。青と紫、白のコントラストが非常に可憐、もっと近くで眺めたくなる。

 しかしそうもいかない。今日のターゲットが紫陽花の手入れをしているのかそこにいる。ターゲットには直接関わらない、それがルールだ。

 光先は紫陽花に名残惜しさがあるものの、任務のために一旦離れいつもの準備を始める。もちろん周りから見られることのない、赤色の制服バージョン。

 今日は狙撃位置は滑り台の上、傍から見ればかなりシュールな光景だろう。派手な制服を着た女子中学生くらいの見た目が、滑り台の上でスナイパーライフルを準備しているのだから。

 しばらく子供たちが滑り台にくることはない。なぜなら雨が降り始めているから。

 光先の制服は雨に濡れてもへっちゃら、しっかり伸ばして乾かせば元通り。くしゃっと乾かすとシワが出来てしまうので絶対メイからどやされてしまうことだろう。

 体の方も赤色制服を着ているうちは風邪をひくことはない。神様パワーは流石だ。確か制服にもカクヅチさんが恥ずかしい名前がついていた気がしたが記憶からデリートしている。

 そんなポツポツ降り始めた雨がやがてシトシトに変わり、サーサーとまとまった雨に強くなっていく。

 ターゲットは前もって天気予報えお見ていたのか、バックから雨具のカッパを取り出して着ていた。そして紫陽花の手入れに戻っている。

 雨という化粧をかぶり紫陽花はますます美しく遠くから見える。この季節の風物詩とだけあって心が和んだ。

 そして光先はスナイパーライフルのトリガーをひく

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