17,しにがみとメイ
お出かけから帰ってきた夜、神世界にインした光先はメイのお膝元に文字通りいた。相変わらず太ももは柔らかく、背中にはこれでもかと質量を感じる。
今はメイの仕事場にいる。大広間からすぐに入ったところに存在する。相変わらず部屋の風景は幻想的だ。
「メイって買い物ってしていた?」
光先は今日あったことをメイに尋ねる予定だ。せっかく人生の一度やり終えた先輩がいるのだ、聞いて今後の参考にしようと思っている。
「どうしたの突然?」
メイは突然の光先の問いかけに首をかしげる。
「今日デパートに行っていた時思ったんだ」
「そういえばお出かけしていたわね、楽しかった?」
「どうしてバレてるの?」
「仕事の片手間光先をずっと見ているからよ」
光先はメイの突然の告白に驚く。まさか見られているとは思わなかった。というより、
「自分って人権あります?」
「何言っているの?あなたは天使じゃない」
会話になっているのかいないのか。
「もしかして今までもずっと?」
光先はよくよく考える。そういえばなんで部屋でだらだら過ごしていることが見透かされていたのか、いつも話の辻褄が説明なしで進むのかやっと理解できたが、
「ずっとってわけじゃないけど、時たま見ているわよ。家の中は流石にプライベートだから見ないようにしているし、何か色々したいこともあるでしょうから」
「色々?」
「そのうち出てくるわよ、今は知らなくていいわ」
「そう。でもこの前家の中で過ごし方注意していたけど」
「それは光先がダラダラ過ごさないように葉っぱをかけたのよ、図星だったみたいだけどね。今も適当な服で過ごしているんじゃないでしょうね?」
「大丈夫ですよ」
平然を装いながら、平然と噓をつく。
「それより買い物だっけ?私は必要なもの、食品ぐらいしか買わなかったわね~」
「どうして?」
「欲しいものそんなに無かったから、仕事も忙しかったし」
「どんな仕事をしていたの?」
「それは秘密です。光先はしつこいわね」
「うっかり言ってくれないかなーって」
「そんなことしません」
メイは光先の頭を優しく撫でながらプリプリと怒っている。
光先は気にせず、
「休みの日は何していたの?これも秘密?」
「休みの日か―。秘密っていうより単純にずっと仕事していたからね~」
「仕事人間だったってこと?」
「そう、中々休める立場じゃなかったというか、それよりも働きたかったてことはあるわね」
「凄い。ずっと働きづめって辛くないの?」
今日みたいに休みがあるからまた次の日の任務ができる。特に人間は体力があるはずだ、ずっと働き続けていたら体力が尽きてしまいそうだ。だからお休みを設けリフレッシュする。
「ううん。そんなことなかったわよ」
「そっか、メイはとっても偉い人だったんだね」
「……。そんなことないわ……」
メイの声色がわずかに低くなったことに、撫でられて満足している光先は気づかず話を続ける。
「そうなの?」
「結局全部を救えなかったからね。さ、この話は終わりにしましょ!」
「分かった。自分はおしゃれ、似合うと思う?」
「基本的に何でも似合うんじゃない?素体がいいし、胸元空いている以外は」
「ケンカを売られた気がした」
メイは胸元に関しては環境トップクラスの武器を保持している。そして光先はスタイルこそすらっとしているが胸元までスッキリしている。そんな対極な相手からそのことについて言われたのだ。光先はむっとする。
「気にし過ぎよ。だいたい15歳の体なんだから発育良かったらそれはそれで変でしょう?」
「メイの時は?」
「学生用じゃちっちゃかったから大人用にわざわざ行って買っていたわ。面倒くさいしジロジロ見られるから嫌だったわ~」
「それは大層なお悩みですね」
もちろん光先は棒読みで言う。
「白々しく言わないで。あったらあったで大変よ、何事もほどほどが一番ね」
「ソウデスカー」
「もう!」
こうしてメイと何気ない会話をするのが楽しい。
メイと話しているときは自分は妹のようにいられる気がする。メイはお姉さん、あれこれ聞いて色々教えてもらう。お姉さんらしく光先の話をしっかりリアクションしながら聞いてくれる。
「メイは兄妹、姉妹っていたの?」
「私は一人っ子だったわ。だから両親から大切に育てられたわ」
「そっか。その割にはお姉ちゃん感が強いと思って」
「だって光先、記憶ないから色々言ってあげないと大変でしょ?」
「ほんとそれ。助かっております」
「分かればいいのよ。これかも何か興味あることは聞いてね?」
「うん」
メイと会話を続ける。時々メイはぎゅっと抱きしめてくれる、その暖かさが心地いい。
そんな時間が光先にとって貴重に思えた。
光先が帰った後、メイの仕事場にイザナミさんが入ってきて、
「メイちゃん、光先ちゃんの調子はどう?」
「あ、イザナミさん、お疲れ様です。光先は順調に色々なことを知っていっております」
イザナギ邸の大広間から戸ごしで隣接している仕事場もとい作業部屋、そこにメイは普段からいる。
流石に寝る時は専用のお部屋があるので移動しているが、ただ仕事好きもとい光先の観察がただ大好きな彼女はここにいることが多いのだ。用事がない限りほとんど入り浸っている。
今日もメイがそうしているところにイザナミさんがやってきた。普段イザナミさんはイザナギさんのフォローする仕事もしつつ、このイザナギ邸の管理をしている。やっぱり皆のお母さんなのだ。
「辛い仕事もあったと思うけど大丈夫そう?」
「はい、今のところは。直接フラッシュバックしていることはなさそうです。それ以外は記憶がないことが幸いして経験として蓄えています」
光先はまだフレッシュな段階、そしてこれから色々な経験と記憶が増えていく。今後は追跡もする予定ならますます人々の良いところと悪いところを知っていく。でもそれが光先のやりたいこと、転生前に出来なかったこと。
「光先ちゃんが充実していっているなら何よりだわ。メイちゃんも仕事順調?」
「はい、今できることを、光先のペースに合わせながら」
「二人で一心同体みたいなところだからね、偉いわ。いいね~、少しずつ成長している、ここに人の子が来るのは初めてだから見ていて微笑ましいわ」
「そうだったんですね」
「うん、うちの子たちはみんな最初から神の子よ。うちの旦那は結構慎重派だから。今回メイちゃんを見つけてやっと踏み切ったんだもの。それまで周りに人の子も雇いなさいよーって言っていたけど、自信が出来ていなかったから負い目に感じて、そんな時にメイちゃんだったから」
「そうなんですね」
確かにイザナギさんは神様のリーダー的なポジション的にいるので保守的な思考が強い。神として厳格に、見た目は優しそうなおじさんだがひとたびスイッチが入れば頑固じじぃのような雰囲気に変わる。それはリーダーの素質としてましてや神様の中のトップ、威厳なくして務まらない。それをサポートしているイザナミさんもまたすご腕なのだ。
そして人の子というのは、輪廻転生で神の世界にやってきた人がそれぞれの神様に選ばれ、
新たなご利益になるべく精進していく。メイもその一人、自身は神になるの程の偉業をしてきたとは思っていないが、イザナギさん直々に選んでもらったのだ。
「メイちゃんも旦那と似ている境遇なところがあるからそこに惹かれたのでしょうね~。詳細まで言われると齟齬があるけど」
「後悔あって初めて進むものですから……」
「メイちゃんはほんと大人よね~。光先ちゃんの前だとはしゃぎすぎなとこあるけど」
「だって……」
「分かっているわよ。久しぶりの再会なんだもんね。ただもうデンキアンマなんかしちゃだめよ?」
「気をつけます……」
メイも神に転生する前はデンキアンマなんてやろうとも思わなかった。
どこかで知った知識が光先の前だと露わになってしまう。それだけ自分は心の中は舞い上がっているのだろう。今度からは節度を持とう。
「ふふふ。本当に今のメイちゃんは楽しそうね」
「はい、光先がいるから楽しいんです」
「今後ますます酷なこともあると思うから、フォローしっかりするんだよ?」
「それが私の責務ですから。今度は逃げたりしません」
「メイちゃんの今の眼差し、旦那に見せてやりたいわ~」
イザナミさんはしみじみ言う。イザナギさんも過去に何かあったのか。言い伝えにある通りのことがあったからなのか、それは当事者にしか分からないことだろう。
イザナミさんはいつも誰かに寄り添っている。今回は自分、本当に嬉しいことだ。イザナミさんがいるから伸び伸びとやらせてもらっている。ついつい光先の前ではしゃぐことも。
本当に恵まれている、メイは神になれたことにやっと少し感謝した。