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16,しにがみの得意なこと

 引き続きデパートを一通り見て歩けば小腹が空いてきた、気がする。実際光先は食べなくても死にはしない。しかし何事も雰囲気が大事なのだ。

 光先は評判高いと自負した看板を出しているフードコートのクレープ屋に立ち寄った。

 お店のディスプレイはお客さんに楽しんでもらえるようにクレープを焼いている様子が見やすい形になっていた。

 光先は行列を待ちながらその様子を興味津々に眺める。お菓子はどう作っているのか、なぜ店員は常に笑顔なのか。

 笑顔なんて気にせずクレープ作りに集中すればいいのに、でもしかめっ面でクレープを焼いていたらそれはそれで美味しいのか怪しくなる。笑顔だからいいのか。

 それにその笑顔は先ほどのおばさま洋服店員と種類が違う気がする。あっちは穏やかな、したたかな笑みが含まれていたが、クレープ屋の笑みは純粋そうな真っ直ぐなスマイルだった。

 笑顔にも種類があるのか、普段あまり表情を変えている気のしない光先にとって新鮮な光景だ。

 クレープが焼いているいい音を奏でながら具材を包み込んでいく。そんな作業を店員は繰り返している。ひとつひとつの動作は丁寧に、だけどできるだけ時短できる所はしている。


「お待たせしました、店内でお召し上がりですか?お持ち帰りですか?」

「店内で」


 光先の順番になり、笑顔の店員に定番を書かれたイチゴクレープを頼む。ほどなくして出来上がりその時も笑顔で渡される、なんか気分が良い。


(笑顔か)


 確かに自分はいつも無表情な気がする。そんなことを思いながら、空いている席を見つけクレープをパクっと食べる。


(美味しい)


 生地の甘さ、クリームの甘さ、イチゴの甘酸っぱさのトリプルパンチが口の中に広がり満たされていく。特に出来立てなので生地が甘く感じるだろうか。光先はそのまま二口、三口とぱくぱくしていく。

 食べながらフードコートを見渡す。各店舗の店員はどこも笑顔だ、あそこのハンバーガー店は行列が終わらず大変そうだが笑顔は崩していない。あっちのうどん屋さんは昼食時間から少し過ぎた時間なので空いているがいつお客が来てもいいように笑顔でいる。

 笑顔とはそういう時にするものなのか。笑顔ってどういう時にするものだろう。

 自分は美味しいクレープを食べても笑顔にならない。メイのような満面の笑みあ到底出せそうにない。メイならこのクレープを食べれば笑顔になるのだろうか。

 店員はきっと喜んで欲しいから笑顔でいるのだろうか、真意は分からない。自分は分からないことだらけだ、特に感情に関して。

 それをひとつずつ紐解いていけたらと思いながら、クレープを食べ終えた。



 その後の光先は夕食の時間までまだ時間があることに気づき、再度デパート内をブラブラする。

 平日の夕方のためか人は空いている気がする。というより一般の学生さんはこの時間はまだ学校にいるはずだ、よく自分は補導されない。というよりもはや目立ちすぎて対象外か。

 空いているといっても人がいないわけではない。ひとりでデパートの中にあるスーパーに向かう主婦、あっちは男友達3人でワイワイしている。向こうはカップルだろうか男が辛そうに洋服の入った荷物を持っている。

 様々な人がいるな、光先は歩きながらあちこちを見渡し、そしてとある場所で足を留める。

 ガチャガチャと喧噪のような音がするエリア、周りに比べLEDのライトが眩しく点滅している。いわゆるゲーセンだった。


(なんか凄いな)


 雰囲気が明らかに違う。なんかこう凄い、伝われ。

 光先は恐る恐るゲーセンの中に入っていく。

 光先はゲーセンを知らないわけではない、そこにはゲームがあり遊ぶということは分かっている。しかし入るのは転生してから初めて、こんなにも騒々しいことに驚きっぱなし。

 ゲーセンの中にも様々な筐体があった、クレーンのようなものがついているもの。あっちはボタンがたくさんついてプレイヤーはヘッドホンをつけている、いったいどんなゲームなのか。今度は太鼓が見えてきた、これは分かる太鼓でドンドコするものだ。


 そして奥に行くと巨大な筐体がある、円形になってよく観察すると中にはコインがたくさん流れていた。お金とは違ういったいこのコインはどこから出てきたのだろうか。

 ただ観察しているだけもいくらでも時間を使えてしまいそうだがせっかくなのでゲームをしたいと思い、初心者の自分でも何かできないか探す。


(あれ、可愛い)


 大きな筐体が周りを占めている中でそのひとつは小さく、ワニが描かれていた。穴の中に何か隠れているのか口のようなものが僅かに見える。

 近づき説明を読むとどうやらモグラ叩きようなことをすればいいのだと理解する。


(これやってみよ)


 早速100円を入れて始める。


(おお、音がなった)


 独特の機械音と共にワニがゆっくりと穴から出てきた。

 光先は端にあるスポンジで柔らかくできたハンマーで、ワニをペコっと叩く。

 すると筐体から「いて!」と声がしてきた。面白い。

 ワニはだんだんスピードを上げて出てくる。そして中にはフェイントようにしてくるワニもいた。ゲームとはこういうものなのか、確かに少しワクワクする。

 すると筐体から再度不気味な音がし「難易度マックス!」と言ってきた、どうやらここからが本番のようだ。一般人はここまでいかないが、光先は初めてのゲームなので気づかないだけで。

 ワニが一気に2体スピードよく出てくる。速い。

 光先は瞬時に叩く、神様のおかけで動体視力は完璧だ。

 今度は3体か、思えばフェイントまみれ、光先は騙されポイントを取りそこなう。

 速いテンポでワニが出てくる、それに対応するようにどんどん自分の間隔が研ぎ澄まされていく。

 周りにギャラリーが出来ていることに気づかないくらいに光先は集中していた。この筐体をここまでガチにそして高得点で遊ぶものは早々いない、そのため珍しそうと誰かが足を止めたら自然とギャラリーの完成だ。

 ブザーがなる、ゲーム終了の合図だ。壊したわけではない。

「ハイスコア更新~!」と言っている。


(思ったりゲームって本格的なんだな)


 光先の特典がスコアボードに飾られた。

 そして周りから拍手があることに気づく。


(いつの間に?!)


 ゲームをやっていると観客がつくのか、まるでスポーツみたいだ、と光先は勘違いし恥ずかしいのでそのままゲーセンを後にした。本当はゲームの凄腕が現れたことに皆が珍しいと感じ拍手していただけだ。

 ゲーセンから出た光先はスマホを確認する。時間は大分経ち帰るには丁度いい感じだった。


(でも楽しかったな)


 自分の口角がわずかに上がっていることに気づかないまま、光先はデパートを後にするのだった。

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