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15,しにがみのお出かけ

 光先は都内の近所、巨大なデパートに来ていた。

 転生者を追跡する件、これは決め事なので一度イザナギさんときっちりお話しなくてはいけないらしく、それまで時間がある。イザナギさんは神様の中のリーダーは予定がぎっしり入っていて忙しいのだ。

 そして今日は任務もない、一日フリー。そのため外をブラブラとお出かけしていた。

 普段任務に明け暮れる光先にとってフリーな時間は返って何すればいいかわからない。今まで、転生してから趣味の時間がほとんどなかったからだ。

 生前の時はどんなことをしてこのフリーな時間を費やしていたのだろう。休みの日は何をしていたのだろうか。そんなことを考えるくらいに暇だった、今は外をプラプラと歩いている。


(そもそも学生だったのかな?)


 自分が生前、何歳くらいでどんな見た目でどんな性格で何が得意で何が苦手だったのかもわからない。そもそも性別は女だったのか、まずはそこからだった。

 転生時にイザナギさんから一般教養の知識は携わった。日常の生きていくために必要な常識を、その代わり記憶という経験がゼロからだった。

 そのため、こういう暇な時間何をすればいいか分からない、知識があったとしてもそれを引き出すための経験と記憶がないのだ。


(買い物は済んでいるし……)


 光先は定期的に冷凍食品を近くのスーパーで買いだめしている。料理は作るものだと思うが作れる自信がない。どうやってやるのか調べてもいまいちピンとこない。


(女の子はお菓子作りが好きっていうけど……)


 スマホをたらたらと眺めていたらそういう記事を見つけたことがある。確かに美味しそうなお菓子を自分の手で作れることは嬉しいし楽しいことだと思うが、ひとりでやるのは寂しく感じた。


(あっちの世界に安易に行くわけにもいかないし……)


 神々が集う世界、光先のベッドの下に潜らせているVRゴーグルを使うことで疑似的に行ける世界。本当にいくことができないのはこっちの世界とあっちの世界をそう易々と行き来できないから。イザナギさんや他の神様たちの力を借りれば行けるだろうが、何回も頼むわけにもいかないし、神様たちもそれを良しとしないだろう。神様業界はルールが厳しいのだ、だからカクヅチさんが作ってくれたVRゴーグルで簡易的に行くのだ。

 今メイは仕事中で構ってもらうことはできないだろう。光先の主神、現在は見習いだがそれゆえに結構忙しそうにしている。たまに電話で話そうとかけてみたことはあるのだが、メイは片手間に話してくるので申し訳なさが先に出てしまう。


(暇だ……)


 そのため外に出ている、ブラブラしている。外に出かける用の服は持ち合わせていないのでいつもの制服を着ているため、相変わらず目立つ。15歳くらいの女の子はどんな服を着るのがベストなのか、どんなことして休日を過ごすのか、デパートの中に入ってベンチを見つけて座りスマホで調べる。

 すると服のコーディネートの記事やおススメのデートスポット、今バズっているお店など色々出てきた。

 しかし光先にはどれもピンとこない。ピンときていたら真っ先に行動しているだろう。


(とりあえず一通りやってみますか)


 分からないならやってみればいい。自分なりに自分なりの経験と知識と記憶を加えればいい。

 光先は立ち上がった。



 今光先がいるデパートは都内でもかなりの規模を誇る。そのため一日の時間を費やすには最適だ。それに有名でもあり数多くのおススメスポットもある。それを巡り眺めるのは面白いと思った。

 相変わらず光先が着ている制服が目立つのだろうか、通行人にチラチラ見られる。一般人にも見えるフォームの時は白がメインのコスプレのような制服、そのため派手だ。

 せっかくだしまずは服を探そうか、デパートの中には洋服屋が多くありショーケースに彩られた綺麗な服やマネキンが派手なポーズを取っている。

 いったいどれからどのお店から入ればいいのだろう。そうして一つのお店を通り過ぎようとした時だった。


「お嬢様、良かったらうちはどうですか?」


 光先は話しかけられたのだと気づき、振り返る。

 そこには白髪が少し混じっている女性、だがその白髪も上品にアクセントして流している髪型で眼鏡をかけており、上品なおばさまの雰囲気があった。身なりもきちっとしている。


「自分、ですか?」

「はいそうです。お客様に似合う洋服をぜひ試着して欲しくて」


 おばさま店員は柔和の声色で促してくる。

 ここの店員なのか、光先は店内を観察する。

 女性用の洋服が数多く並んでいる。大人の女性が写った写真や穏やかなBGMがわずかに聞こえる。大人なイメージが強そうなお店、自分にあっているのだろうか。

 しかしおばさま店員はにこやかにこちらを見ている。せっかくの機会、経験しておこう。

 光先は「分かりました」と相槌をうち、おばさま店員に連れられ店内の試着室に入る。


「こちらをどうぞ」

「はい」


 渡された服は夏服のワンピース。紺色を主軸に白い花の模様が散りばめられあちこちがひらひらとしたエレガントな雰囲気。今は5月の中旬、これからの季節にはもってこいだ。

 光先は制服を脱ぎ、ワンピースを着る。

 そして鏡に映る自分はあまりに違った佇まいをしていた。


(凄い)


 おしゃれがなぜ趣味としてあるのか分かる気がした。光先はワンピースを揺らしながら少し動く。

 普段の自分と別の自分になれる感覚、たかが服が変わっただけかもしれないが大きな違いだ。まず光先はワンピースを着ること自体が初めて。腰の締め付けは緩やかでそこから下はスースーとする。雰囲気は穏やかな見た目、胸元はVネックになっており肌が見える。魅せる胸はないのだが。

 回ってみればワンピースがひらひらと揺れながらついてくる。制服のスカートと構造は同じだがやっぱり長さが違う。その感覚は着たものにしか分からない。


「お客様、どうですか?」


 おばさま店員の声で我を思い出し、試着室のカーテンを開ける。


「まぁ!とってもお似合いです!」


 それが典型的なうたい文句だとわかっていても悪い気はしない。


「ぜひそのままお出かけされてはいかがですか?!」


 それも悪くないが、


「流石にちょっと冷えるので」


 ワンピースのみで外を出かけるのは流石に今の時期ではちょっと早い気がする。それに脱いだ制服を持っていくのは面倒だ。


「そうですね、失礼いたしました。では袋にお入れしますね」

「え、買うまでは……」


 試着もし、悪くないと思ったがこれを私生活で着るかといったらどうだろうか。なにより、


「これっていくらですか?」

「こちら四万八千円になります」


(高い)


 やっぱりおしゃれな服、上品な質感だけあって相当な値段だった。

 光先のお小遣いにそこまで出せる金額は持っていない。お願いすればメイは甘いのでいくらでも出してくれそうではあるが、それでは神様に頼ってばかりのだめだめ使い魔になってしまう。確かに今の自分は人間の姿をした天使みたいなポジションではあるが、それを乱用するほどの欲もないしなにより庶民的な暮らしでいいと思っている。今でも十分過ぎるくらい充実している生活をさせてもらっている。

 自分で稼いだ分の相応に使える生活、それが今の光先の理想だ。


「すみません、そこまで持ち合わせていないです」

「そうなんですか?!てっきりあるものだと……上品な服をお召しになられていたので。そちらの制服、コスプレというのでしたっけ?その割にはかなり上品なシルクを使っていそうでしたので」


 なるほど、つまり高そうな服を着ていたから高そうな買い物ができると思われていたのか。確かにカクヅチさんが作った制服は神様お手製、手抜きは一切なく質感も最高。これを売りにかければかなりの値段になりそうだ。

 しかし驚いた、年齢を気にせず話しかけてくるなんて。いや違う、


「親御さんは今どちらにいらっしゃいますか?ぜひうちの商品を……」

「すみません、自分はひとりでここに来たので」

「そうでしたか……」


 店員は残念そうにしている。せっかくのお客が金づるにならなかったのだ、しょうがない。ごめんなさい。

 でも試着は有意義な時間だった。


「ありがとうございます」


 光先はそう言ってお店を後にした。

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