14,しにがみは主に報告
「お疲れ光先、今日は遅かったわね」
「……カクヅチさんのところに行っておりました……」
「そうだったの。なんか疲れてる?」
「き、気のせい!」
光先はメイのいる応接間にへなへなになりながら入ったが、それがカクヅチさんのネーム伝説のせいであることはメイには伏せた方がいいと思い、シャキッと切り替える。
(メイはどう思っているんだろ?)
メイの持っている端末のように見える物もきっとカクヅチさんが作ってくれた代物。渡される時に名前付きで言われるはずだ。
案外すんなり受け入れるのだろうか。メイは光先の前では子供のように表情豊かに話すが、彼女は人生を一度やり終えているおばあちゃんだ。精神年齢は光先よりも相当上のはず。というより自分は記憶がないので実質ゼロ歳みたいなものだ。おんぎゃあ。
といっても物やしきたりの記憶はある。イザナギさんが復活させてくれる時に植え付けてくれたのだろうか。流石神の王である。
王なんてカッコイイことを考えた光先はまたカクヅチさんから言われたネームたちを思い出しかける。たまらずブンブンと頭を振って滅却させる。今は必要ないこと。あれだけで頭がパンクしそうになる。どうして自分はそこまで恥ずかしく思ってしまうのだろう。
「?どうしたの?」
「なんでもないよ!」
「いや、なんかあるでしょ~」
メイはニヤニヤしながら光先に近づく。そして光先の脇を掴みこちょがす。
「なんだ、効かないのか……」
「そう、みたいですね」
「こうなったらデンキアンマするしか」
「なんですかそれ?」
「やってみれば分かる!」
光先は初めて聞く単語が分からなかったがメイのニヤニヤが最高潮に達していたので、危険視号が発動しメイから離れようとする。しかしメイも負けじと力を入れてくる。
「何する気ですか?!」
「いいから!いいから!」
「ちょっとメイ!何はしたないことをしようとしているの!」
「!!」
第三者の声、メイを呼び捨てで呼ぶ者の正体はイザナミ。メイは驚いたのか、力が一瞬ぬける。光先はその隙に離れる。ありがとうまま~。
「なんかはしたないことしようとしていたでしょ!」
光先はここぞとばかりに告げ口する。まま~助けて~。
「あのね、メイが、デンキアンマってのしようとしてきたのー」
「あ!ちょっと!」
メイは聞かれたくない単語だったのか慌てている。
「まったくもうメイったら、しょうがないわね……いい?デンキアンマを仕掛ける神様がいていいと思いますか?」
「……いえ、良くないです……」
しょんぼりし始めるメイ。本当に自分の主は喜怒哀楽が激しい。
「光先ちゃんに構いたいのは分かるけど、節度持ってね?」
「……はい」
「メイの気持ちも分かるけどね。光先ちゃん、メイに撫でて貰って」
「分かりました」
光先はてくてくとメイの元に向かう。メイは優しく光先をホールドし、頭を撫でる。
(今度は喜んでいるんだろうな)
「光先、今日はどうだった?」
「今日は物を大事にする大切さを知りました」
「うん、そうだね」
「ふふ」
イザナミが慈しむように二人を見て微笑んでいる。そのことに光先は気づき少し恥ずかしさを覚えるがメイは気づかないのでこの抱擁は解けそうにない。
「……。メイは生前、物を大切にしていた?」
「そうね、大切にしないといけない仕事だったというか、限りがあったというか、そんな感じだから、物を大切にしていたと思うわ」
「どんなお仕事をしていたの?」
「それは秘密」
「自分は生前どんな人だったの?」
「……。それも秘密です」
「やっぱり教えてくれないの?」
「真理に辿り着いたなら答えるけど、それまでは秘密。特にあなたの記憶は言えない約束になっているの」
「そっか……」
おそらく自分で見つけて欲しい、それがメイの思いなのだろう。神様たちの共通の認識なのだろう。カクヅチさんやタケミカヅチさん、イザナミママに聞いても教えてはくれなかった。
「いつか自分は真理に辿り着ける?」
「それはあなた次第。光先が記憶を思い出したいと考えて行動し続けていればいつか蓋がとれるかもしれないけど……」
メイの体が僅かに強張るのを光先は感じ取る。
「けど?」
「ううん、なんでもないよ。それよりあなたが前に言っていた。転生者の人生を追跡したいって願い、イザナギさんが了承してくれたわ」
「やった」
光先は自分の記憶がない。だから他人に興味を持ったのだ。他人がどのように生き、どのように生活し、そしてどのような経緯で転生してしまうか。
そうして自分の記憶を思い出しつつ、今後の生活の参考にする。今日のように物を大切にする、学校のことについて雰囲気を知れた。以前の目の見えない老人と犬を守った青年のことも。
今までは転生直前の顛末しか知らない。メイからある程度の情報をくれるがやっぱり直接見て確かめたい。もっと長い時間を。
「ただ条件はあるわ。ずっと追跡するわけにもいかないから。追跡期間は三日、決して対象者に直接関与しないこと」
「うん」
「光先なら守ってくれると信じているわ。というより破っても未来は変わらないからね」
「うん。だから守るよ」
もし対象者に関与してもその人の転生するタイミングはコンマも変わらない。ただ、単純に対象者とお話してみたさはあるのだが、そういうルールなら守った方が身のためだろう。これはイザナギさんが決めたことに違いない。懲罰はくらったことはまだないが神の中のリーダーだ、そんな神を怒らせてしまっては相当な罰当たりになるだろう。光先にそこまでの勇気は待ち合わせていない。
「メイ、自分頑張るよ」
そう光先がメイに優しく決意を話しかければ、反応は抱擁の優しさで返すように、
「うん。これからも何かしてみたいこととかあったら、気軽に言ってね。あなたの第二の人生、少しでも楽しんで過ごして欲しいから」
「うん」
「私もまーぜて!」
イザナミママが二人の温かな雰囲気に関与されて我慢できずにぎゅっとする。まま、すきぃ。
この後、タケミカヅチさんがイザナミママに用があったらしく応接間にきてその光景を目撃し、青年な神様にはあまりにも刺激が強い光景に仰天するのだった。