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13,しにがみと名前

 神世界に入った光先は報告任務の前にひとつ寄り道をする。

 カクヅチさんに会うため。

 カクヅチさんはイザナギ邸の奥の工房に籠っていることが多い。光先はてくてくと向かう。

 奥の工房は離れの作りになっており、いかにも日本の工房家屋という見た目だ。綺麗な瓦が屋根を覆い、火を扱うため壁は土で出来ている。冬は大変寒そうだが神世界に暑さも寒さの概念もない。いつだって心地良い気温。


「あ、光先さん!いらっしゃい!」


 出迎えてくれたのはタケミカヅチさんだった。

 彼はカクヅチさんの子供、ミカハヤさん、ヒハヤさん、タケミカヅチさんの三兄弟で末っ子だ。

 髪も緑、服装も緑色がメインでなんとなく彼を見ると抹茶をイメージする。三男でありながら背が高めで顔もばっちり整っている、ザ・イケメンという風貌だ。

 彼はカクヅチさんのメインアシスタントとしてこの工房で仕事をしている。腕もありながらこうして出向かえに真っ先に気付く気さくさもある。頼れるお兄さん的ポジション。


「タケミカヅチさん、こんにちは。カクヅチさんに用があって来ました」

「オッケー。ちょっと待っててね、呼んでくるから」

「ありがとうございます」


 タケミカヅチさんはすぐに工房の中に入っていく。

 待っている間に光先は工房をまじまじと観察する。

 手前で作業しているのはイハサクさんだろうか。イハサク三兄弟は全員坊主頭なのでパッと見では分かりにくい。何かを丁寧に研いでいる。おそらく仕上げの作業だろうか。

 確か彼はできた品物を仕上げする作業をメインにしていたはず。几帳面な性格で僅かな汚れとミスも許さず綺麗にしてくれる。

 後の神様たちは奥にいるのだろうか。物がたくさんあり入り組んでいるため奥まで見ることが出来ない。

 壁には色んな物が飾ってある。使う道具なのか、手入れはしっかりしているようで錆はついていない。


「よ!光先ちゃん!どうしたのー?何か相談?」


 カクヅチさんがチャラそうに勢いよく奥から出てきた。


「カクヅチさんこんにちは、お話したくてきました」

「そっかそっか!ならここは薄暗くて辛気臭いから外で話そー!」

「分かりました」


 自分の工房をそこまで卑下しなくてもいいのではと光先は思いながら、カクヅチさんについていくように外を出る。

 といっても工房家の外に置いてあるベンチ、日本語では縁台と言われる長椅子に二人は腰掛ける。外の風景は相も変わらず独創的で見ていて飽きない。しかし今は、カクヅチさんに用がある。


「今日、物を大切にしている人を転生させました」

「うんうん!それは大事なことだねー!作る側だから大事にしてくれる嬉しいよねー!」

「はい、だから自分も大事にしたいと思ってカクヅチさんのところにきたんです。確かカクヅチさんから頂いた物には名前があった気がしたので、それを教えてもらいたくて」

「おー!それは嬉しいなー!どれから知りたい?」


 どれから聞こうかそう思った時、工房の方からタケミカヅチさんが現れ、


「お茶とお菓子持ってきました」

「お!流石タケちゃん、気が利くねー!ありがとう!せっかくならタケちゃんも話そー!ずっと作業しているのも疲れるっしょ?」

「カクヅチさんがおっしゃるのであればご一緒に」


 タケミカヅチが縁台に座る。

 渡されたお菓子はみたらし団子。甘くて美味しそう。お茶も抹茶が濃く、いい味がしそう。だが、


「自分って食べられるのですか?」


 カクヅチさんは光先の質問に答え、


「大丈夫よー!お腹にはたまらないけど、味覚は感じることができるようになっているから!」

「そうなんですね。ならいただきます」


 光先は先端から頬張る。タレが絶妙な甘さ醬油らしさも残っており団子はモチモチしており美味だった。流石神。


「神の世界のみたらし団子は最高だよー!どれも最高だと思うけど!タケちゃんってお菓子なら何が好きだっけ?」

「私は基本何でも食べますよ」

「流石タケちゃん真面目だねー!ポテチとか言ってもいいんだよ?」

「ぽ、ポテチって何ですか?」

「人間世界にあるお菓子だよー!光先ちゃんは食べたことある?」

「はい、美味しかったです」


 光先はポテチならコンソメ派、甘じょっぱさこそ正義だ。そう思いながらみたらし団子を食べ続ける。

 タケミカヅチさんは興味があるのか、前のめりになって


「ど、どんなお菓子何ですか光先……?」

「えっと……たしかジャガイモを薄くスライスしたものを油であげて味をつける感じだった気がします」

「ジャガイモを油で……」


 タケミカヅチさんは相当興味があるのか、上の空で想像しているご様子。

 カクヅチさんが何かを思い出し、


「ごめんね!話すっかり逸れちゃったね!物の名前だったよね光先ちゃん」


 光先はちょうどみたらし団子を食べ終え、


「大丈夫です、自分もお団子に夢中になっていたので」

「光先ちゃんはホントイイ子だよねー!メイちゃんが思っている子だけあるよー!」

「思っている?」

「ごめん!ごめん!こっちの話。それでそれで?」

「まずはこの世界に来られるゴーグルの名前が知りたいです」

「あれは、-Link the brain-神VRゴーグルだよー!」


 光先はハッと思い出す。


(そうだ!中二病が喜びそうな名前だった!)


 だからだ、だから光先の頭に入らなかったのだ。記憶を受け入れられなかったのだ。こんな恥ずかしい名前を。

 カクヅチさんはチャラいだけでなく、イタイ神様でもあったことをようやっと思い出すが時すでに遅し、光先はそれを再度今度は完全にインプットしてしまった。

 自分でそれを言うのはあまりにも恥ずかしい、ましてや常識人的なタケミカヅチさんという神様まで今はいる。他人がいるところで言いたくないと本能的に思った。


「えっと……カクヅチさん。名前の由来とかあるんですか?」


 そう、由来があればまだ親しみが持てるかもしれない。名前に誇りが持てるかもしれない。神様がつけることだきっと壮大なことに、


「カッコイイから!」


(だめだったぁぁぁ!)


 ただの中二病だ。このおっさんどうして見た目はいいのに、人あたりめっちゃ優しいのにイタイのか。光先には理解出来なかった。

 光先は何とかポーカーフェイスをしながらおくびにもげんなりしてないことをアピールしつつ、話を逸らせないか模索しようとしたが、


「光先ちゃんに渡したスナイパーライフルみたいな見た目がね!-Beyond the light-光の果てって言ってね!それを仕舞う白いバックは-Spirited away-神隠しだよ!それとね……」


 カクヅチさんはスイッチが入ったかのようにペラペラと流暢りょううちょうにカッコイイ単語が飛んでくる。光先は途中から両耳をシャットアウトしていた、脳がやっぱりノーサンキューだった。だんだんミーも英語よりになっているのはカクヅチさんのせいである。

 タケミカヅチさんはといえばもはや慣れているのか、熱心に聞いていた。


 ああ、こうして中二病は受けづかれていくのか、光先は目の前が真っ白になった気がした

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