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10,しにがみは山の中へ

(暗くなってきた)


 光先はスマホの灯りが眩しく感じる。

 日が少しずつ傾きが増え、今いる森の中では一気に暗闇が増す。

 虫の音色、鳥のさえずりが止んでいき木々のせせらぎだけが聞こえてくるようになる。

 このような静か雰囲気も悪くない、むしろ好きだ。

 ただちょっと残念なのは周りが暗すぎて何も見えないことだろうか。目的の崖の道路も裸眼では見えない。人体には神様のバフはかかっていない。

 代わりにライフルのスコープを覗く。ナイトスコープが機能しているのかそれ以上にくっきりを場所が見える。それと目的の位置と時間も表示してある。本当に便利な代物だ。

 そういえばライフルにもカクヅチさんが気に入って名前をつけていた気がする。なんだっけ。

 それは後で本人に聞くとして光先はスマホを眺める。


峯岡浩介みねおかこうすけ 16歳 男性】

 関西の高校に通っている男子。周りと少し印象が違うことは自転車が好きなこと。幼少期、父に買ってもらった三輪車を大切に、今は自分のお小遣いで買った高いロードバイクを愛用して通学しています。

 部活は帰宅部、競輪部という自転車専門の部活があるが自分のペースで自転車をこぎたいため入部は断りました。

 自転車をオーバーホール、全分解して一から手入れすることを難なくこなし、自転車に対し強い愛着があるようです。

 自転車乗りの技術も素晴らしく、先ほど出てきた競輪部の部員を総なめする実力と体力を持っています。

 今日は小学校高学年に貰ったマウンテンバイクを久しぶりに走らせているようです。これも親からの誕生日プレゼントで貰い大切にしています。幼少期の三輪車も乗ることはかなわくなりましたが倉庫に大事に保管しています。

 マウンテンバイクも彼のお気に入りで、身長が伸び車体と不釣り合いになってしまいましたが本人は気にせず愛しています。ただ流石に街中で走らせると学校の話のネタにされ、変な目で見られるためこうして山奥に逃げるように来ています。

 そんな楽しい束の間のひと時に彼は不幸にも対面から飛び出してくるバイクと正面衝突し、崖に落下、転落死してしまいます。

 バイクが峠攻めを強行し、それに巻き込まれてしまう形です。本当に不運です。そのため、光先にお願いします。


 転生後は好きな自転車と共に色々なスキルで異世界を楽しんでいく形になります。よろしくお願いします。



(今回は自転車少年か)


 自転車、光先には馴染みがない。というより今の生き方的に一切必要ないからだ。

 親から貰ったら好きになるものなのだろうか。彼はそういうことらしい。

 生前の自分はどうだったのだろう。思い返したところで記憶は蘇らない。

 ちなみに彼を救うことは出来ない。そういう風に未来は決まっているから。これはイザナミさん、メイから散々言われてきたことだが対象者は絶対その時間、その場所で死んでしまうのだ。

 仮に光先が何かしらアクションをかけて目的地にいかないように誘導しても、対象は絶対にその未来にたどり着いてしまう。そもそも見ず知らずの人が急に話しかけてもなんだこいつになるだけ、今回は道が落石で通れないよと噓をついても向こうが本当かどうか確かめたいと好奇心が強くなるだけだろう。引き返すという選択肢はない、そのように世界は出来ている。

 なのでせめて異世界で、違う世界で楽しく第二の人生を謳歌して欲しいと思う。現に自分もそうなのだ。いまの生き方に現状の不満はない。むしろ神様パワーのおかげでかなり便利に暮らすことが出来ている。


(物を大切にする……)


 もちろん今目の前にるライフルもスマホも乱暴に扱ったことはないが、全分解するほどの愛着もなかった。

 でも今回で興味が沸いた。まずはこのライフルの名前を覚えることから始めようか。


(そろそろ)


 光先はスマホをしまい、うつ伏せになり射撃体勢に入る。

 まずは対象の確認、今回は周りが真っ暗なのでライフルのスコープで探し出す。目的地の崖がある曲道から右に1キロくらいに彼はゆっくりと自転車をこいでいた。

 乗っているのは小さなマウンテンバイク、とてもスピードが出し辛そうだ。立ちこぎをしながら一生懸命にこいでいる。

 でもその表情は楽しそう。額に、タンクトップから出ている腕に汗が滲み垂れているのも関わらず、すごく辛そうなはずなのに。

 よっぽどあの自転車と共に道路を進むことが好きなのか、光先はその光景を羨ましく眺めた。

 これから事故に巻き込まれると思うとメイと同じで可哀想でしょうがない。でもこれも必然の未来。


(バイクの人に罰が当たりますように)


 光先はそう拝むしかなかった。といっても重い交通事故になる、願わくはなくとも法律でかなりの罰になるはずだ。

 彼が間もなく崖がある曲道に差し掛かる。

 バイクの排気音だろうか、結構離れている光先のところにも聞こえてくる。相当スピードを出しているようだ。

 彼は変わらず、ゆっくりと楽しそうに汗をいっぱいかきながらこいでいく。

 そして、時は来る。

 彼が曲道の天辺に差し掛かった瞬間、正面から横転しながら突っ込んで来るバイク。

 バイクの運転手は物凄いスピードを維持したまま、このカーブを突っ切ろうと考えたらしいがそれも浅はかでバイクが暴れ、運転手をはじき飛ばしバイクだけがそのままのスピードで彼に近づいていく。

 時速はどれぐらい出していたのだろう。横転したバイクが引きずられているのにも関わらずものすごいスピードで彼に迫る。

 彼が気づいても遅かった。

 自転車とバイクが正面衝突、そして彼は外側のボロボロになっていたガードレールを突き破る。

 この時点でもう体はズタボロだろう。現にマウンテンバイクは大きくひしゃげてしまっている。しかしこれだけで終わらない。

 彼は50mはあるだろう。崖に吸い込まれていく。意識があったらさらに絶望するだろう。

 せめてそれが少しでも和らぐようにと光先はライフルを撃った。

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