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1,皆を転生させている正体

 風が心地良い。

 普段なら絶対入れない、来ることの許されることのない、都会のビルの屋上の天辺。そこに後藤光先ごとうみさきはこれからの任務のための準備を始める。

 夜風は止むことなく、光先に優しくふき続ける。春先の風は強く鬱陶しい時もあったが今日の風は気持ちよく任務をこなせそうだ。

 女子中学生の平均身長とさほど変わらない光先よりも大きい白いバック。傍から見れば中身はギターが入ってそうであるが違う。光先はバックを降ろしファスナーをゆっくりと開ける。

 その中は白く美しく輝くスナイパーライフル。

 光先はライフルを取り出し、最終調整を施すために床にセットする。

 弾薬、安全バー解除、ほどなくして準備は完了。

 目的時間までまだ時間がある。というよりいつも前もって来ている光先は神様から支給されたスマホを取り出す。


(今回のターゲットは……)


 女神様からメールが来ているはず、取り出したスマホをなぞり確認する。



[太田優太 21歳 男性]

 彼は県立大学に通い、一人暮らしで親からの仕送りで生活をまかなっています。

 友人関係は狭く、彼の連絡先を知っているものはごく少数。

 大学の成績の方はまずまず、このままいけば就職の問題はないようです。

 趣味はゲーム。特にRPGものを好み、その中でもモンスターの上に乗って駆け回ることが何より好き。

 都会に住んでいるゆえにペットはいないが、将来的に犬か猫を中心に爬虫類など幅広い生物とふれあいたい夢があるようです。

 彼は同族の人間よりも異種の生物を好ましく思っています。小学校時代に野良猫は救ったこともあり、心を開けば優しい男性ですが、人間相手では上手くいっていないみたいです。



(今回はそういうタイプなんだ……世界が合わなかったんだ)


 時間が近づき、光先はライフルと同様にうつ伏せの態勢になり構える。

 スコープを覗くとありがたいことに目標がどこからくるのか、どのように向かうのか、狙撃ポイントを丁寧に表示してくれる。もし現実にあったらとんでもない代物だ。未来が分かるのだから。それが神様の力。

 光先はライフルに弾が入っていることを確認する。

 再度スコープを覗き、目標を見つける。大通りを左方向から右方向に歩いている。

 狙撃タイミングまであと30秒。光先は息を吞む。高性能スナイパーライフルなので外すことは万が一でもないのだが、この瞬間はやはり緊張する。



 太田優太は何かに気づく。

 自身が歩く前の方にいた大型犬とその飼い主。大型犬の毛並み、歩き方、顔色がかなりよく素敵な犬だと思い、ついつい眺めてしまっていた。ああいう動物と草原や自然をめいいっぱい走りまわれたらどれだけ幸せなのかと。

 大きい横断歩道に差し掛かる、今は青で信号機特有のメロディが聞こえる。大型犬とその飼い主は先に渡っている。

 太田優太が横断歩道に差し掛かる時、メロディが途切れることに気づき、信号を確認する。残念ながら大型犬についていくことは叶わないみたいだ。

 再び横断歩道に視線を戻すと中央でうずくまっているものがいた。あの大型犬だ。その飼い主は焦っている。信号は赤になっているのに動けずにいる。 

 あの飼い主は他の一般的な人と様子が違う。とりあえず横断歩道から動けばいいのにどちらにいけば分からないようだ。大型犬のリード、格好もまた少し特殊なことに気づく。

 大型犬は補助犬、介助犬。飼い主は恐らく目が不自由なのだろうか。

 蹲っている大型犬の近くにはポールがある。恐らく飼い主をかばう形でぶつかってしまったのだろうか。かなり痛そうだ、犬のような生物は普段怪我を悟られないようにポーカーフェイスを取ることが多いが今回は違う。

 普段介助犬はそういう障害物をうまくかわすように誘導する。しかしここは都市、人も多い。きっとそこらで何かのアクシデントに見舞われ、それがさらなるアクシデントになったのかもしれない。例えば通行人が飼い主にぶつかり、それをかばう形で犬がポールに激突した。

 通行人は多いが、誰も助けない。

 アクシデントを起こしたものは誰だ、なぜ助けない。動こうとしない。

 太田優太ただ一人を除いては。

 彼は夢中で横断歩道に飛び出す。とりあえず助けなきゃと。

 しかしアクシデントは終わらない。トラックが気づかずに突っ込んでくる。

 太田優太はまだすぐに引き返せるが、犬と飼い主はこのままでひかれてしまう。

 悲鳴が聞こえる。ここぞとばかりに主張してくる通行人をこれほどまでに嫌に思ったことはない。

 覚悟は出来ている。太田優太は迷わず犬と飼い主に近づき、死に際の馬鹿力で安全なところに思いっきり押した。



 そのタイミング、光先はライフルを撃つ。普通の人には見えない弾丸、目標の人物にしか当たらない弾。ペイント弾のようなもの。それが太田優太にヒットする。

 殺傷能力は必要ない、なぜなら。

 トラックにひかれて即死したからだ。ならなぜ撃つのか。

 女神様からのメールには続きがある。



[転生先は人間が少なく動物がたくさんいる異世界。そこで動物たちと意思疎通が取れるスキルを手に入れて、楽しく生活するみたいです。今回の任務もよろしくお願いします]



 任務を終え、光先は片づけを始める。


(次の世界はきっと充実できるといいな……)



 後藤光先の任務、仕事は、これから死にゆくものを、新しい第二の世界へと導く橋渡し。そのためのライフル、弾には転生紋が刻まれている。

 太田優太はあのままトラックにひかれてしまったら転生は不可能。光先の存在によって自分にあった異世界に転生することができた。

 この世界はたくさんの並行世界があり、異世界がある。そこに召喚・転生・転移させることこそが、光先の新しい生き方なのだ。


 光先はライフルから撃ちあがった大型口径の空薬莢からやっきょうを口に噛む。それがいつもの癖なのだ。


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