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ひねくれカルメはログの溺愛が怖い……はずだったのに!  作者: 宙色紅葉


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9/26

作戦失敗?

 朝日に照らされて気持ちよく目覚めると、カルメは手早く着替えて、花に水をやるために外に出た。


『やっぱり、早まったか?』


 サニーの言葉には納得していたし、特に「恋に恋をしている」という言葉はカルメによく馴染んだ。


だが、それにしても、その場でログと付き合うと決めたのは早計だったような気がして、カルメの胸には不安が満ちた。


『結局、アイツは今日も来るらしいし。恋人らしいことしなくていいって言ったから、恋人になったのに』


 作戦のためにも、ログの提案してくる恋人らしい行動の全て突っぱねることができず、カルメは頭を悩ませていた。


『やけに喜んでたな』


 嬉しそうに頬を赤くするログを思い出して、カルメの頬もほんのり赤くなる。


『やっぱり、名ばかりとはいえ、恋人を作るなんて失敗したかもしれないな。人の思考に入り込みやがって、ムカつく』


 友達すら碌にいないカルメだ。


 仮に本物でなかったとしても、恋人という重要な人間ができてしまった事に対し、脳が、心が、追い付いていなかった。


『あんなに喜んでたんだからもう満足しただろ。そしたら、もう二度と来ねーのかな』


 サニーは、ログはカルメと恋人らしいふるまいをして、満足すれば勝手にカルメのもとから去って行く、と説明していた。


 それを思い出して少しだけ心の奥が痛んだ気がしたが、カルメはすぐに首を横に振って考えを吹き飛ばした。


『気のせいだ、気のせい。日常が変わるからビビッてるだけだろ。それか腹が減ってるだけだ』


 そうやって花に水をやっているうちに、いつもより多めに水を撒いていることに気が付いた。


 しかも、花に言葉もかけていない。


「あ、ごめん、くれすぎた。ごめんな、明日はちゃんと育てるから、綺麗な花を咲かせてくれな」


 そっと触れて謝ると、花も優しく揺れた。


 返事がもらえたようで嬉しくて、ニコリと微笑むと、花も、もう一度優しく揺れた。


 満足しながら家に帰ると、カルメは朝食を作り始める。


 トントンと軽やかな音を立てて野菜を刻んでいく。


 カルメの家は木製であるから、その木の匂いと料理の匂いが混ざると、なんとも言えない良い匂いがした。


 ログは早い時なら花に水をやる時間に、遅くとも日が落ちるまでには会いに来ており、一番多いのが昼を少し過ぎた時間だった。


『来ねえな。別にいいけど。やっぱ満足して錯覚が覚めたのか? いや、でも約束は守るだろ、アイツは』


 そんなことを考えながら野菜を刻んでいたら、カルメは包丁で少しだけ指を切ってしまった。


「いったぁ!」


 傷自体は軽いがそれなりに痛くて、つい声をあげてしまった。


 カルメは魔法で作った水球に指を突っ込んで傷を洗った後、消毒して包帯を巻いた。


 不意に、カルメの頭にログが浮かぶ。


 カルメがログの目の前で氷のナイフを砕いて見せた時、怪我はないかと必死に飛びついてきたことや、治療魔法が得意で診療所で働いているから何かあったら来てくれ、と笑っていたことを思い出したのだ。


『アイツだったら治してくれんのかな。いや、この程度の傷、余裕だろ! 必要ないだろ。というか、これ以上、アイツのこと考えたら指が飛ぶ!』


 カルメは、少なくとも料理中はログについて考えることをやめようとした。


 しかし、人間考えないようにと思えば思うほど、かえってそのことについて考えてしまうもので、結局カルメは両手に切り傷三か所、火傷を二か所負った。


 包帯でグルグルにまかれた両手は、まるで大怪我をしたみたいだ。


『……アイツのせいだ』


 とりあえず、ログのせいにしておいた。


 昼過ぎ、カルメはイライラしながら洗濯物を干していた。


 水球の中の水を操って洗濯物の汚れは綺麗に落とすことができたが、干すためには手を使うしかない。


 ヒリつく痛みに耐えながら、カルメは洗濯物を干していた。


『来ない……何なんだよ、アイツ。今日来るって言っただろ。早く来ないと、一人で森の散策に行くぞ』


 恋人である前ならば、来ると言われようが迷わず森に向かっていただろう。


 仮に、ではあってもログと恋人になったという事実は、意外にもカルメの心を縛っていた。


 結局カルメは森に散策には行かず、ログを待ち続けたが、空が夕焼け色になっても彼は現れなかった。


 夕方の寒々とした風が、カルメの心と体を冷やす。


 カルメはガリガリと頭を掻くと湖の前に座り込み、そこに石を投げこんで憂さを晴らしていた。


「嘘つきやがって」


 ヒリつく胸の痛みを両手の傷のせいにして、カルメは石を投げ続けた。


 そもそも、ログはカルメが駄目だと言っても、ほぼ毎日カルメの家に押しかけては告白し、花を置いて行った。


 顔を見ない日、というのはほとんど無かったのだ。


『なんで、こんなに嫌な感じがするんだ。昨日までは二度と来るなって、思ってたのに』


 日常が少し変わる違和感も、カルメの心を苦しめた。


 そんな中、ポチャンという石が水に投げ込まれる音に紛れて、人間が歩く足音が聞こえた。


 ここに来る人間など一人しかいない。


 思考よりも先に振り返ると、夕日のせいでオレンジに染まった白い花の小さな花束をもったログが見えた。


 診療所で働いて以来ログは基本的に白衣を着ているのだが、それも柔らかなオレンジに染まっている。


 ログは申し訳なさそうな表情を浮かべていた。


「その、遅くなりました。本当は昼前に来ようと思ったんですが、火災が発生してしまって」


「はあ!?」


 苦笑いを浮かべるログに、カルメは驚きで声を荒げた。


 一軒で起こった火災は、その時の気候によっては他の家に燃え広がり、最悪村一つを焼き尽くす可能性がある。


 火災こそ、カルメを呼ぶべき重大な事故と言える。


「なんで私を呼ばないんだよ! 村の被害は?」


 立ち上がり、血相を変えて怒鳴るカルメにログは軽く笑って首を振った。


「いえ、幸い火はすぐに消えました。火事そのものはボヤ騒ぎ程度で、本当にたいしたことなかったんです。ただ、怪我人の手当てをしたり、被害を確認したり、原因を探っている内に時間が経ってしまって」


「そうか。それで、何が原因だったんだ?」


 カルメはホッと安心すると、先程よりは和やかに聞いた。


「子供の魔法の練習が原因です。怪我の理由も、自分が出した火に焼かれちゃったみたいで、火事も本当に、家の壁が少し焦げたくらいでしたよ。家の人にとっては辛いかもしれませんが」


 ログも和やかに説明すると、カルメはハーッとため息を吐いた。

 ついでに舌打ちもしておく。


「全く、人騒がせな奴だ。だが、確かに火は危険だな。練習するなら広いところで、大人にみてもらいながら、近くに水を用意してやるんだな」


「確かに。そう伝えておきます。でも、練習するなとは言わないんですね」


 ログは少し意外そうに言った。


 カルメなら魔法なんて止めちまえ、と言うと思っていたし、そのようなアドバイスが出るのも意外だった。


「そりゃあな。魔法って、子供は結構使いたがるし、そういうのを抑えるほうが危険なんだよ。それに、使えるようになれば、かなり便利だからな」


 抑えるほうが危険というのは、カルメの経験談だった。


 以前、他の村にいたときに、どうしても火の魔法を使いたがった子供が畑を焼くという事件が起こったのだ。


その子供は、周囲の大人に魔法を使うなと叱られ続けたのが苦痛で、夜中、こっそりと使った。


そして、そのせいで火は大きく燃え広がり、事態に気がつくのも、対処をするのも遅くなってしまったのだ。


 カルメによって畑が全焼するという最悪の事態は免れたが、それでも大変な目に遭った。


 それに、カルメも魔法が使えるとわかった当初は魔法を使えることが嬉しくて、楽しくて、のめり込んで魔法を使った。


 魔法を使いたい子供の気持ちは、理解することができたのだ。


 火の魔法を使うことができないログは、魔法によってどの程度、生活が便利になるのか分からず、不思議そうにしている。


「そういうものなんですか? ちなみに、カルメさんは火の魔法を使えるんですか?」


「まあ、水ほどじゃないが、多少はな。魔法なしに火をおこすのは結構大変だから、その子供が火を使えるようになったら、壁なんてどうでもよくなるくらい有り難く感じるだろうさ」


 不意に、カルメはログがニコニコとカルメを眺めているのに気が付いた。


「今日はたくさんしゃべってくれますね、か?」


 カルメがからかい混じりに笑うと、ログは照れてほんのりと顔を赤くした。


「お前、人がちょっと機嫌よくしゃべってると、すぐそれだもんな。私だって話すときは話すよ」


 それにしても、今日のカルメは機嫌がいい。


 ログは嬉しくなって、いつもよりもさらに嬉しそうに笑った。


「あはは、まあ、確かに。でも、今日はそれだけじゃないんです。カルメさんって、結構村のこと気にしてるんだなって」


「さっきの火事の事か? まあ、火事は本当に大変だからな。それで村人だの村だのが無くなったら、誰が私の飯を用意するんだよ」


 カルメが両手を広げて馬鹿にしたように嗤うと、ログがギョッとした顔でカルメの両手を見た。


 カルメの両手は、包帯でグルグル巻きにされている。


「カルメさん! それ! 手、どうしたんですか?」


 慌てるログとは対照的に、カルメは何でもなさげに両手を見た。


 実際、ログと話をしているうちに痛みもなくなっていたので、カルメにとって両手の怪我はどうでもよくなっていたのだった。


「ああ、これか」


「これか、って大怪我じゃないですか」


 平然とするカルメを信じられない、という目で見つめると、彼女はウザったそうに顔を背けた。


「うるさいな。大体、この怪我はお前のせいだよ」


「え!? どういうことですか!?」


 ログはギョッとした顔で、カルメの両手と顔を交互に見た。


 そんな彼の様子を見たカルメは、


『コイツのこと考えてて怪我したなんて言ったら、まるで私がコイツのことを好きみたいじゃないか。変に誤解されるのも嫌だな』


 と思い直し、言葉を訂正した。


「いや、やっぱり自分のせいだ。料理中、三回切って、二回焼いた」


 言いながら、カルメは両腕をパラパラと振った。


「うっかりしすぎですって。今治しますから、手を出してください」


 あっさりと言うカルメに呆れながらも、ログは彼女の両手に手を伸ばした。


「いや、いいよ。すぐ治るって」


 カルメは眉間にシワを寄せ、嫌そうに手を引っ込めようとしたが、ログに腕を掴まれてしまった。


 ログは包帯の撒かれていない部分を優しく掴んで、じっとカルメの顔を見つめる。


 心配そうにじっとカルメを見つめるその瞳は力強く、傷を治すまでは放してくれそうにない。


 カルメは舌打ちをすると、観念して傷をログに直してもらうことにした。


 ログは治療のために包帯を外していく。


「こんな雑に巻いちゃだめですよ。あ、やっぱり。酷い怪我だ。コレ、かなり痛かったでしょう」


 まるで自分が怪我したかのように痛ましげな表情で、ログはカルメの傷を見つめている。

 カルメはその視線がなんだか恥ずかしくて、そっとログから視線を逸らした。


「まあ、少し前までは」


「やせ我慢しないでください。今治しますね」


 強がるカルメを叱ると、ログは両手をやさしく包み、治療魔法をかけていく。


 魔法を使う際の魔力の色は、本人の魂によって決められるといわれている。


 カルメは澄んだ青だが、ログの魔力の色は淡い緑色だ。


 その美しい緑が、ボロボロになったカルメの両手を包み込んで癒した。


『綺麗だな。コイツの瞳みたいだ』


 カルメは、ボーッとログの魔法に見惚れていた。


 やがて治療も終わり、カルメの手がすっかり綺麗になると、ログはそっと両手を離した。


「あ」


 ログがカルメの手を離した瞬間、カルメは言いようのない寂しさを覚えた。

 突然声を上げたカルメを、ログが不思議そうに見る。


「どうしました? まだ、怪我が残ってましたか?」


「いや、随分きれいに治すもんだと感心してただけだ」


 何故寂しさを感じたのか分からないカルメは、そんな風に言って適当に心を誤魔化した。


 ほんのり頬が染まる気がして、氷の魔法を使い冷気を作り出す。


 そんなことをせずとも、秋の夕方は十分に涼しいのだが。


「そうですか。なら、よかった。俺、こう見えて結構、治療魔法の才能があるみたいなんです。大怪我だって治せますし」


 魔法の腕前を褒められたログは、ニコニコと笑っている。


「あっそ」


 カルメはなんだか気恥ずかしくなって、舌打ちをした。


「それ、私にだろ? さっさと渡して今日はもう帰れよ」


 カルメはログが持って来た白い花束を指差した。


「シロトマト草だろ。私が結構好きな花」


「え? メリエーヌじゃないんですか?」


 ログの驚きに、カルメもキョトンと首を傾げた。


「なんだそれ。白くてトマトに似てるから、シロトマト草って勝手に呼んでいるんだが?」


 カルメの言う通り、その真っ白な花は小ぶりで、花全体は丸く膨らんでいるのだが、花の一番上だけがトマトのヘタのように沿っているので、色を白くしたトマトのように見えないことも無かった。


 ログが納得したように頷いて笑う。


「確かに。ちなみにメリエーヌの由来は、花を逆さにしたときの見た目がメリエーヌっていうお姫様のドレスに似ていたからだそうですよ」


「ふうん」


 カルメは受け取った花束から一本花を引き抜いて、逆さにして遊んでみた。

 確かに、ドレスにも似ている。


「この花の、花らしくないところが好きなんだ。白くて、可愛くて綺麗なのに、花らしい見た目ではない。けれど、そこに惹きつけられるんだ」


 カルメはそう言って、少し笑った。


「可愛いですね」


「そうだろ」


 カルメが自慢げに言うと、ログは首を振り、そっとカルメの頬に触れた。


「いや、花じゃなくて、カルメさんが」


「はあ!?」


 カッコつけた自覚があるのか、ログは照笑いを浮かべている。


 カルメは舌打ちすると頬に触れる手を振り払って、そっぽを向いた。


 そして、こっそり冷気を作り出して熱くなった顔を冷やす。


「なんか、涼しくないですか?」


「夜風のせいだろ。というか日も落ちたし、もう帰れよ」


 カルメの言葉は話題転換のために適当に口に出したものだったが、実際、彼女の言う通り空は夜に蝕まれて、すっかり暗くなっていた。


「あ、本当だ。もう夜なんですね。残念、もうちょっと一緒にいたかったです。でも、また明日、ですね」


 名残惜しそうに言うと、ログは手を振って村への道を歩き出した。


 その姿を、カルメは眉間にしわを寄せて見送っていた。


 夜の森は危ない。


 カルメは自分しか通らないからと、村と自宅を結ぶ道を碌に整備していなかった。


 そのため、道はまるで獣道のようだし、そこに魔物が飛び出してこないとも限らない。


 クマの魔物のような存在がこんな森の浅いところに出るとは到底思えないが、それでも万が一、が無いとは言えない。


 カルメはログが魔物に襲われた日を思い出してゾッとした。


『アイツも村人だからな、恋人関係なしに守る義務があるんだよ』


 心の中で誰にともなく言い訳をして、カルメは舌打ちをするとログのもとへと駆けた。


 ログは、カルメの家からそう離れていない場所を歩いていた。


 その姿が呑気に見え、舌打ちをした。


「何ゆっくりしてんだ。さっさと帰らねーと魔物に襲われるぞ」


「あれ? カルメさん」


 まさかカルメが来るとは思わなかったようで、ログはキョトンと首を傾げた。


「あれ? じゃない。お前は弱いんだから、魔物に襲われたりしたらどうするんだ」


 カルメが少し怒ると、ログは苦笑いを浮かべた。


「いや、こんな人里近くにそこまで危険な魔物は出ませんよ。小型の魔物なら追い払えますし」


 実際、あの日ログを襲った魔物は相当に危険な類の魔物であって、ログ自身が極端に弱いから太刀打ちできずにズタボロにされた、というわけではなかった。


 確かにログには取り立てて強い攻撃力はないが、よくいる魔物くらいなら簡単に追い払うことができる。


 しかしカルメの場合、基準は自分自身だ。


 カルメと比べれば大抵の人間は弱い。


 ログなど貧弱もいいところだった。


「いいから、大人しく送られとけ」


「ええ!? ……でも、心配してくれたのは嬉しいです。一緒に帰れるのも」


「そうか」


 照れるログの隣に、涼しい顔したカルメが並んで歩いた。


 二人は夜の真っ暗な道をサクサクと進んでいく。

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