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ひねくれカルメはログの溺愛が怖い……はずだったのに!  作者: 宙色紅葉


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カルメ当番

 次の日、カルメは非常に重い足取りで村へ向かった。


 食料や生活用品を受け取り、かつ村に異変が起きていないかなどを確認するためだ。


 本来はそう少なくない頻度で村を訪れていたのだが、最近はログに遭うのが嫌で可能な限り外に出るのを避け、村にも訪れないようになっていた。


 しかし、家にある食料が尽きかけてしまったので、村に行かざるをえなくなってしまったのだ。


 村に到着すると、カルメは村の小さな門に寄りかかって昼寝をしているガードに、イライラとしながら舌打ち交じりに話しかけた。


「おい、門番が昼寝とはいい度胸だな」


「……え? カ、カルメ様? お、お久しぶりですね! どうなさいましたか?」


 もともと浅い眠りだったのだろう。


 カルメが低く声をかければ、すぐに飛び起きて体を真直ぐに立たせ、顔面に刺さる勢いで敬礼をした。


 顔色は悪く、全身に冷や汗をかいている。


 先日カルメの血まみれのローブを見たこともあって、彼のカルメに対する恐怖は倍増していたのだ。


ガードの態度にカルメは機嫌悪く舌打ちをして顔を歪めた。


「様は止めろ。まあいい、私が来る理由なんて一つだ。早く当番とやらを呼んで来い」


「お、おもてなし係ですね! ただいま呼んでまいります!」


切羽詰まったように叫ぶと、ガードは大柄な体を縮めて一目散に村の中へ走って行った。


 その姿を見て、カルメは優越感のような、安心感のようなものを覚えた。


『そうだ、この反応だ。やはりこれが、私に対する正しい反応だな』


 カルメが謎の自信を取り戻してしみじみとしていると、やがて二つの影がカルメの方へ走ってやってきた。


 一人は日光のような金髪に、明るいオレンジの瞳が眩しい女性のサニーだ。


 サニーは村長の一人娘で、村のために人一倍働いている。


 日に焼けた肌は健康的で、ニッコリと笑うその姿は生命力にあふれている。


 太陽のような眩しい笑顔で周囲を和ませるサニーだが、カルメの前では緊張しきっており、いつもなら弧を描いているはずの唇が、今は真直ぐ真横に結ばれている。


 顔は若干青ざめ、冷や汗を掻いていた。


「も、もも、申し訳ございません。遅くなりました」


 必死に謝るサニーに一瞥をくれると、カルメは一つ舌打ちをして、

「まあ、いい」

 と、ぶっきらぼうに言った。


 そして、カルメの方へ走ってきたもう一人の人間、ログを睨みつけた。


 ログも走ったせいで汗を掻いているものの、サニーと違ってその顔は青ざめていない。


 むしろカルメに会えたことが嬉しくて仕方がない、という様子で眩しい笑顔を放っている。


 カルメはログの視線を受けて露骨に舌打ちをし、

「どっちが当番だ?」

 と、不機嫌に聞いた。


 青ざめたままのサニーがソロソロと手を挙げる。


「わ、私がおもてなし係です」


「だろうな。なら、なぜその男がここにいる?」


 ギロリと睨むと、サニーは恐怖で体を縮こまらせた。


 サニーはカルメに怯えながらも、たどたどしく事情を説明する。


「実は、数日前にログさんがこの村の正式な住民になることが決まりまして、村の決まり事などを説明するのに、家に来てもらっていたんです。お父さんが説明をしていて、私も次期村長としてその様子を眺めていました。そしたら、カルメさんがいらっしゃったってガードさんが教えに来まして。それで私がカルメさんのもとへと走っていたら、なぜかログさんもついてきちゃって」


 何とか言い切ると、サニーは非難がましくログを睨んだ。


 コイツのせいで理不尽に怒られているんだ! という感情が、サニーの目や口ぶりから溢れていた。


 しかし、カルメは必死なサニーを横目でチラリと見て、舌打ちをすると、

「村人になるのか」

 と唸った。


 それに対し、ログはニコニコと笑みを浮かべる。


「はい。これからは村人のログとして、よろしくお願いします。俺、治療魔法が得意だから、ミルクさんのところで働くようになるんです。あんまりしてほしくないですが、もしも怪我をしてしまったら、ウチに来てくださいね」


 そう笑ってログはカルメに手を差し伸べるが、彼女はそれをペシンと叩いて舌打ちをした。


「黙れ。大体、村長から話を聞いていたんだろ。さっさと戻って話を聞いて来い」


 カルメが村の方へ親指を向けて顎をしゃくるのを見て、サニーはキョトンと首を傾げた。


「え? でも、お父さんの話はそんなに……」


 大切じゃないですよ、と言いかけたものの、カルメが眼光鋭くサニーを睨んで舌打ちをしたのに気が付くと、大慌てで舌の動きを止めた。


 そして急いでログの腕をとると、グイグイと引っ張って、

「早く! お父さんの有り難い話を聞いてください、ログさん!!」

 と懇願した。


 しかし、ログは早口で必死になって己の腕を引っ張るサニーを無視して、カルメに微笑みかけた。


「村長に、カルメさんはよく食料などを取りにやって来るって聞いたんです。ですから、村の倉庫までエスコートしますよ」


 そう言って、ログはサニーに引っ張られていない方の手を差し出す。


 だが、カルメは胡乱な表情を浮かべて不機嫌に舌打ちをした。


「……倉庫の場所、知ってんのか?」


「知らないので、サニーさんに先頭を歩いてもらいましょう」


 カルメは差し出された手のひらをチラリと見ると舌打ちをして、今度は触れることすらせずに村の中へ入って行った。


「私は村の倉庫の場所くらい知ってんだよ。エスコートなんざ必要ねえ」


「え? じゃあどうして、カルメ当番なんてあるんですか?」


 ログが不思議そうに首を傾げると、慌てきったサニーがログの口元を塞いだ。


「ちょっと! ログさん、カルメ当番じゃなくてカルメ様おもてなし係ですよ! 栄誉あるお仕事です! カルメさんをおもてなししたい村人たちが志願する素晴らしい仕事で……」


 実際には、村にやって来る厄介者のカルメに気を遣い、ヘコヘコとした態度で彼女の要求をのみ、時にはさらにへりくだった態度で村の仕事を依頼するのが当番の仕事だ。


 カルメが村を訪れる時、最低一人はこの当番になってカルメをもてなさなければならない。


 ちなみに、この当番はカルメが作らせたわけではない。


 村に所属し始めたばかりの頃、カルメがガードにその役割を担わせていたら、それに耐えきれなくなった彼が「カルメ当番をつくる」と言い出したため、作られたのだ。


 村人たちは当然、この仕事を嫌がり、毎回くじ引きで担当者を決めているのだが、どういうわけかサニーはカルメ当番になることが多かった。


 もちろんカルメは村人の言う「おもてなし係」の実態に気が付いており、そういった当番があることに何らの不満も抱いてはいないのだが、そうとは知らない村人たちは必死で実態を隠そうとしていた。


「当番でも係でも、何でもいいからさっさと来い。それと……死ぬぞ?」


 必死に口を塞ぐあまり、ログの呼吸は極端に減ってぐったりとしていた。


 慌ててサニーが手を離すと、ログは真っ青な顔で必死に酸素を吸っている。


 カルメは、何もしていないはずなのにドッと疲れて、二人を無視して倉庫の方へと歩き出した。


 それを見て、二人は急いでカルメの後をついて行った。


「でも、倉庫の場所は分かるのに、勝手に中身を持って行ったりはしないんですね」


 何とか追いついたログが、肩で息をしながら問いかけてくる。


「当たり前だろ。私は山賊じゃない」


 カルメが不快そうに眉間に皺を寄せて、舌打ち交じりに答えた。


 多少の横暴はあったとしても、村から得られる食料や金銭はカルメが働いたことに対する正当な対価だ。


 まるで略奪者かのように思われることは不快だった。


 それに対し、ログは質問を重ねる。


「倉庫への案内をするのが仕事じゃないなら、とう、係は何をするのが仕事なんですか?」


「村の報告をすることだ。日照りとか、長雨とか、魔物による被害とか、そういう、私にしか解決できない問題が起こっていないかを聞くんだ」


 ニコニコ笑うログとぶっきらぼうに説明するカルメを、サニーは緊張の面持ちで眺めた。


 いつ自分に飛び火するとも知れない。


 調子に乗ってペラペラと話していたら、氷で貫かれるかもしれない。


 実際のカルメは人に怪我を負わせるような行動は基本的にとらないのだが、そんなことを知らないサニーは怯えた目で二人を見つめている。


 不意に、ログがカルメの横顔を見つめて嬉しそうに笑った。


 視線に気が付いたカルメは、不機嫌に舌打ちをする。


「なんだ?」


「いえ、今日はたくさん話してくれるなって」


 無邪気に笑うログを見て、カルメは自分でも話をし過ぎていたことに気が付き、後ろを歩くサニーに強烈な視線を浴びせた。


 サニーがビクリと肩を震わせる。


「おまえ、村長娘だろ。コイツに説明くらいしとけ」


「ででですあが、ログさんがはなしのとちゅうで」


 サニーが涙目で必死に弁明すると、カルメは一度舌打ちをする。


「そうだったな。おい、お前はもう、これ以上疑問を口にするな。後で村長に聞け」


 ログを睨みつけると、彼は苦笑いを浮かべた。


「俺は、村長よりもカルメさんに教えてもらいたいんですが」


「嫌だ」


「そうですか……」


 きっぱりと否定され、肩を落として落ち込むログに、カルメは不機嫌に鼻を鳴らした。


 村は狭くないが、決して広くない。


 そのため、少し歩いただけであっという間に倉庫に辿り着いた。


「中に大きな袋が二つあります。どちらも持って行ってくださって構いませんよ」


 ログのせいで神経がすり減ったサニーは、真っ青を通り越して黒っぽくなった顔色でそう言った。


 トレードマークの「健康」が瓦解している。


 彼女の体調不良の原因であるログは、サニーのことを心配してはいるが、だからと言ってカルメにちょっかいをかけるのをやめるわけでもなかった。


「多いな」


 サニーの心配など一ミリもしていないカルメは、彼女の言葉を聞いて少し驚いたような声を出した。


 いつもは大きな袋が一つだ。


 それが二倍になったのだから、驚いても無理はない。


 それに対し、サニーがオドオドと返事をする。


「カルメさん、最近あまりいらっしゃらなかったから、多くしたんです。ですが、やはり持ち帰るのが大変でしょうか?」


「問題ない」


 それだけ言うと、カルメは暗い倉庫の中に入って行った。


 ログはカルメについて行こうとしたが、サニーに襟首をつかまれて阻止されてしまった。


 無理やり振り払うこともできただろうが、ログはおとなしく止まってサニーの方を見た。


「酷い顔色ですね。大丈夫ですか? 休んだ方が」


「大丈夫も何もあなたのせいでしょう!」


 悲鳴のような絶叫をあげるサニーに対し、ログはキョトンと不思議そうな顔をした。


 ログは、サニーの体調不良の原因は過度にカルメを恐れているからであって、そこに自分が関係しているかもしれない、とは露ほども思っていなかったのだ。


 サニーは酷い顔色のまま怒鳴りたてた。


「どういうつもりですか! お父さん言いましたよね、カルメさんに不快な思いだけはさせるなって! それをあんな……」


 サニーは、怒りで指先をブルブルと震えさせている。


 次期村長としての重圧や先程までの緊張、恐怖が一気に弾けてしまったようだ。


「あんな、と言われましても、俺はいつもああですし。カルメさんはいつもと様子が違いましたけどね。いつもは『帰れ』しか言わないし、怒るとき以外たくさん話をしないのに、今日は普通に、たくさん話してくれました」


 ログはニコニコと、相変わらず能天気に笑う。


 その姿にますますイラッとしたサニーが、再び怒鳴り声をあげた。


「いい加減にしてください。いつもなんですか!? そんなことして、カルメさんが出て行ってしまったらどうするんですか! カルメさんは村の生命線なんですよ! カルメさんを村から奪う可能性がある人は、村人にできません!!」


 両手は固く握られ、体はブルブルと小刻みに震えている。


 明るいオレンジの瞳には、メラメラと揺らめく怒りの炎が映っていた。


 しかし、ログはそんなサニーの様子にたじろぐこともなく、苦笑いを浮かべた。


「それは困ります。俺はこの村に住みたいので」


「じゃあ、カルメさんに余計なちょっかいを掛けないでください。カルメさんが不快に思うような行動は、控えてくださらないと困ります」


 サニーが人差し指を突きつけて注意したが、ログは断固拒否をした。


「無理です。カルメさんにアピールしなければいけないので」


 真直ぐな薄緑色の瞳は澄んでいて、とてもふざけているようには見えない。


 覚悟の込められた強い瞳だ。


 それに対し、サニーは一瞬怒りも忘れてキョトンと首を傾げた。


「は? なぜアピールする必要があるんですか?」


 全く理解できない、というサニーの表情に、ログの方こそ首を傾げてしまう。


「分かりませんか? カルメさんが好きだからです」


 ログがあっさりと言うと、サニーはビキッと固まった。


 言葉が上手く呑み込めずに数秒固まり、その後、

「はああああああ!?!?」

 と絶叫した。


 その表情は驚愕で満ち、信じられない! と目を見開いてる。


 口をパクパクとさせながら、サニーが何か言葉を出そうとしたところで、

「うるさい。黙れ」

 と、不機嫌そうなカルメが二人の背後から文句を垂れた。


 その途端に二人はピタリと口を噤み、ログは嬉しそうにくるりと、サニーはギギギと錆びた機械が動くように振り返ってカルメを見た。


 カルメは舌打ちをすると、二人の間を通って自宅へと向かう。


「荷物、持ちますよ」


「いらない」


 素早くカルメの隣に立って手を差し伸べるログを睨んで、カルメは足早に進んでいく。


 こんなところに用はない、と言わんばかりの駆け足で、明らかにログを撒こうとしていたが、彼は必死に食らいついていった。


 しかし、村を出て森に入ると森に慣れている分カルメの方が有利であり、結局ログは撒かれてしまった。


 寂しげにカルメが去った方の道を眺めていると、ログの肩に夕焼け色に染まったサニーの手がポンと置かれた。


「さっきの詳しい話、聞かせていただきますね」


「いいですよ」


 ログは嬉しそうに微笑んだ。

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