表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひねくれカルメはログの溺愛が怖い……はずだったのに!  作者: 宙色紅葉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/26

俺も別に、聖人君子ではない

「ログ、温厚に見えて結構物騒なんだな」


「……引きました? カルメさん、物騒な俺は嫌いですか?」


 ログが心配そうにカルメの顔を覗き込む。


「いや、面白いと思うよ。私だってお上品な方ではないし」


 カルメが上機嫌に笑うと、ログはあからさまにホッとした。


「よかった。カルメさんに俺がどんなふうに映っているのか分からないですけど、俺だって別に聖人とかじゃないんです。悪いところもいっぱいあります」


「悪いところ? 心配性で、頑固なところか?」


 カルメが悪戯っぽい表情を浮かべる。


「確かにそれもありますが。カルメさん、実は俺が、カルメさんに出会うまでは空虚な人間だったって言ったら、信じますか?」


 そう問いかけてくるログは眉が下がっており、少し不安げだ。


「ログも私みたいだったってことか? 上手く想像はできないが、ログがそうだって言うんなら信じるよ」


 カルメはあっさりと頷いた。


「俺は別にカルメさんみたいに捻くれていたり、荒くれていたりしたわけじゃないですよ。多分、表面上は大して変わっていません」


「さりげなく、悪口言わなかったか?」


 カルメがムッとログを睨むと、彼は取り繕うように笑う。


「あはは。でも、カルメさんのそういうところも好きなんで、許してください」


「お前、好きって言っておけば良いと思うなよ」


 怒った風の言葉ではあるが、実際は機嫌よく笑い、頬を赤く染めていた。


 ここ数日で随分と素直になったものだが、カルメは自分の変化にはあまり気が付いていなかった。


 照れながらもニコニコと笑うカルメに微笑むと、ログは彼女から視線を外した。


「俺は多分、結構恵まれていたんだと思います。優しい家族がいて、それなりに裕福だった。会う人みんなと仲良くなれた。でも、大切な人は見つけられませんでした。それどころか大切な物もやりたいことも見つからなかった」


 ログは、呟きながら空を見上げる。


「夢って言葉が嫌いでした。そんなもの持っていないのに、無いといけないみたいに扱われた。向こうに悪気がないから質が悪い。でも俺は取り繕うのが上手かったから、夢を問われれば、ニコニコ笑って実家の手伝いをしたいと答えました。本当は興味無かったのに」


 カルメは意外に思ったが、特に口は挟まず、興味深げにログの話を聞き続けた。


「ある日、兄が言ったんです。旅でもして来いって。何か大切なものを見つけて来いって。俺は内心、そんなもの見つからないだろうなって思いました。でも、家にいたくなかったから、兄の言う通り旅に出ました。実際、旅では面白いこともそれなりにあったけれど、大切なものなんて見つかりませんでした」


 何かを思い出すログの瞳は、空虚というよりも切なげだ。


「何もないまま、仕方がないから、実家に帰ろうかと思ってました。そうしたら、魔物に襲われたんです。ああ、死ぬのかな、って思ったらカルメさんが助けてくれました。そして俺は、カルメさんに恋をしました。どうしても誰かを欲しいと思ったのは、生まれて初めてだった」


 穏やかな言葉に寂しそうな瞳。


 カルメは、なおも空を見るログの腕を掴んだ。


 そうしていないと、どこかへ消え去ってしまいそうで怖かったから。


「実は俺、少しだけ嘘をついていたんです。俺がカルメさんを好きになったのは、カルメさんに助けられたからじゃないんです」


「え、そうなのか?」


 予想外の言葉に、カルメは素っ頓狂な声を出した。


 ログはしっかりと頷く。


「はい。本当は、カルメさんの瞳を見て、カルメさんが好きになったんです。周囲を嫌悪する瞳はよく見ると寂しげで、自分も周囲も映さないようで。俺は、どうしてもカルメさんにみてもらいたくなった。心を奪われたんです」


 サワサワと、木の葉が揺れた。


「カルメさんの瞳が好きなんです。感情という色のついた水が瞳の中でくるくる踊るみたいで。宝石なんかよりずっと深みがある。透明なところも不透明なところもあって。今は、俺の言葉で色が変わるような気がして。汚いなんて言う人は見る目が無いんです。こんなに綺麗なのに……」


 しかし、そうしてカルメの瞳を賛美するログは、彼女の瞳を見ようとしなかった。


「なら、見たらいいだろ」


 カルメは不機嫌に口を尖らせた。


「え?」


「だから、そんなに私の瞳が好きなら見たらいいと言ったんだ。さっきから私に話をしているのに、全然私の方を見てないだろ」


 先程から溜めていた不満や不安をぶつけると、やっとログの瞳がカルメの瞳を捉えた。


 綺麗な緑の瞳が不安げに揺れている。


「どうしたんだよ」


 カルメは驚き、狼狽えた。


「あの、俺の事、嫌いになってないですか?」


「なってないけど」


 釈然としない様子でそう返せば、ログは安堵のため息を吐いた。


「よかった。不安だったんです。空虚だった俺を知られたら、失望されるんじゃないかって」


 安心を言葉にするログの瞳は、いつもの温かなものに戻っていた。


 それを見て、カルメも安心する。


「全然、嫌いになんかならないよ。というか、今の話のどこが『悪いところ』なんだよ。頑固とか、諦めが悪い方が、よっぽど『悪いところ』になるだろ」


 呆れ混じりの言葉通り、カルメには、今の話のどこに悪い要素があるのかわからなかった。


「大体、結局、今話したのは私がすごく好きだって話だろ? 人生の空虚を埋めるほど好きだって。そんなんこっちが照れるだけだよ、バカ」


 言いながら恥ずかしくなってきたのか、顔全体が真っ赤に染まっている。


「確かに、そうだったかもしれません。でも俺にとっては長年のコンプレックスだったので」


 つられて照れるログを見て、カルメはにっこりと笑った。


「そっか。でも私は、ログのそんなコンプレックスも知りたいな。悪いところだって知りたい」


「ええ……嫌ですよ。嫌われてしまう」


 不安の混じりの複雑な表情を、カルメは鼻でわらった。


「バカだな。悪いところなんて私には大量にあるのに、ログの悪いところだけ知れないなんて不平等だろ。それに、ログは私の悪いところいっぱい知ってるけど、それで私を嫌いになったか?」


「いえ、悪いところもくるめて好きですよ」


 ログが即答すると、カルメは嬉しそうに瞳を輝かせた。


「素直だな。私も、だ。いくら悪いところを聞いても、嫌える気がしない。ログの良いところも、悪いところも知りたい。そして、もっと私のそういうところも、知ってくれたらいいと、思う」


 カルメの言葉はだんだん小さくなっていく。


 最後までキッチリと、大きな声で言えたら格好良かったのだが、だんだん恥ずかしくなってきてしまったようだ。


『そんな不器用なところも可愛いな』


 穏やかな表情を浮かべていたログだが、ふと、悪戯心が湧いてニヤリと笑んだ。


「カルメさん、少しだけ悪いところを見せてあげますね」


 ログはカルメの指に自分の指を絡めると、少し強引に引っ張って彼女を自分の胸元へ引き寄せた。


「わっ! ロ、ログ!?」


 いきなり引き寄せられたものだから、カルメは体勢を崩して、ログの胸へ倒れ込んでしまう。


 ログはそのままカルメを抱いて後ろに倒れ、ゴロンと寝転んで彼女を抱きしめた。


 そして、何が何だかわからずに混乱し、モタモタと暴れるカルメの頭を優しくなでた。


 撫でられたせいで暴れる気力が失せ、勢いがなくなると、ログは微笑んで、

「カルメ」

 と、名前を呼んだ。


 ビクリと肩を震わせて、恐る恐るログの顔を見るカルメの顔は真っ赤に染まりきっていて、目のふちに涙を浮かべている。


 ログは少しだけ上体を起こして、涙ごと頬にキスをした。


 恥ずかしがり屋で恋愛初心者のカルメに、キスは刺激が強すぎる。


 カルメはログのキスにしばらく放心して、固まっていたが、やがて、動けるようになると、トンとログの胸元に顔を埋めて、


「呼び捨て禁止な」


 とだけ呻いた。


 ログは悪戯っぽく笑うとカルメの後頭部にキスをして、

「考えておきますね、カルメ」

 と微笑んだ。


 カルメの口から言葉にならない叫びが漏れる。


 急にガンガンと与えられた刺激と悶え、何が何だか分からないまま、カルメは心臓をギュッと抑えた。


 愛と羞恥に満ちる頭で、カルメは一つ願いを抱く。


『このバカみたいに幸せな日々を、一生続けたい。大切にしよう。他の誰よりも、自分よりも』


 本当に、心の底から思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ