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ひねくれカルメはログの溺愛が怖い……はずだったのに!  作者: 宙色紅葉


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甘い看病

 高熱に苦しむカルメのもとへ訪れたログは、一生懸命にカルメの看病をした。


 顔周りの汗を拭き、水で濡らしてから堅く絞った布を額にのせ、その布がぬるくなったら再び布を水で濡らして堅く絞り額に乗せる、ということを繰り返した。


 指はふやけて血が滲んだが、ログは魔法で自身の指先を治療しながら必死で看病を続けた。


 診療所で働いていた時、そこで看病しなければならないほどの重病の患者というものはいなかったので、医者として他人を看病するのは初めてになる。


 しかし、これまでも家族の看病などをしたことはあったので、特に慌てることも無くカルメの看病をこなした。


 カルメの看病の中で一番大変だったことは、看病そのものではなく、時折目を覚ます彼女の相手をすることだった。


 熱にうなされて起きるカルメは、人格が変わってしまったのかと疑いたくなるくらいログに甘えたのだ。


 看病を始めてから数時間が経過し、辺りが暗くなってきた時、少し呼吸が落ち着いたカルメが目を覚ました。


「ログ……」


 掠れた声で名前を呼ぶカルメに、ログはにっこりと微笑んで安堵のため息を漏らした。


「あ、カルメさん。目が覚めたんですか。意識があるようで良かった」


「ん。おきてる」


 少し話しにくそうにしながら、カルメはゆっくりと唇を動かした。


「そうですか。しゃべるのも辛いでしょうし、体も苦しいはずです。もう少し眠っていてくださいね」


「わかた。ログ……みず」


 視線でコップに目をやると、そう呟いた。


 心なしか声に甘えが含まれており、少し幼い印象を受ける。


「ああ、喉が渇いたんですね。飲めますか?」


 ログは事前に井戸から汲んでおいた水が入ったガラス製の水差しを傾けて、コップに水を注いだ。


 そうして水入りのコップを差し出すと、カルメはわずかに首を横に振った。


「飲めませんか?」


「ん。のませて」


 ログは慎重にカルメの上体を起こして支えながら、熱い呼吸を漏らす唇にコップを運び、ごく少量ずつ水を飲ませた。


 コクリ、コクリと水を飲むカルメは一生懸命で、ログに全身を預けているのが伝わり、不覚にも頼られたことが嬉しくなってしまった。


『カルメさん、すごく弱ってる。可愛いな……って、そんなこと病人に思うのも悪いか。でも、来てよかった』


 水を飲ませてやりながら、ログはそんなことを思った。


 弱ったカルメを見て庇護欲が湧いたことも、彼女に必要とされて嬉しかったことも事実だったが、何よりもログがここに訪れなかった場合、カルメは誰にも看病してもらえずに病気が悪化して、死んでしまっていたかもしれないからだ。


 仮に死ななくても、カルメは死ぬほどつらい思いをし続けていたことだろう。


 急いでカルメのもとへ駆けつけてよかった、と心の底から思った。


『カルメさんは俺なんかに看病されて屈辱かもしれないし、怒るかもしれない。でも、死んでしまうよりはましだ』


 水を飲み終わって自分を見上げるカルメに、ログは優しい微笑みを返した。


「カルメさん、ご飯は食べられますか?」


 カルメはユルユルと首を横に振った。


「そうですか。お腹、空きませんか?」


「ん。すかない」


 今度は、ほんの少しだけ頭を縦に振る。


「わかりました。水は、もう十分ですか?」


「ん」


 コップに三分の一ほどの量の水を残して、カルメは頷いた。


「じゃあ、カルメさん。体を治すためにも寝ましょうね」


 現在ログはカルメを支えるために彼女の背中に手を差し入れて、後ろから抱きかかえるような格好になっているのだが、その触れている箇所がやたらと熱く、高熱を出しているのが気になっていた。


 熱を下げるためにはたくさん睡眠をとらねばならない。


  カルメの回復を祈り、ログは優しく声を掛けた。


 そしてログがカルメから離れ、ベッドに寝かせようとすると、カルメがろくに動かせないはずの腕を使って、腰に引っ付いた。


 驚いてカルメを見ると、彼女はギュウッとログに抱き着いて熱い顔を胸に埋めている。


「カ、カルメさん!?」


 狼狽した声を上げると、カルメはゆっくりと顔を上げた。


 潤んだ瞳がじぃっとログの顔を見つめる。


 熱で頬も赤く染まっており、まるで恋する乙女のような表情にログの心臓がドンッとはねた。


「なに?」


 抱き着いたまま、甘えるような声を出した。


「何って、カルメさんこそ何をしているんですか。放してください」


 やたらと幼くて可愛らしい姿にますます狼狽え、カルメから距離をとろうとする。


 しかし、意外にもカルメの力は強い。


  離れようともがくログの胸に埋めた顔を緩く振って、拒否した。


「だっこ」


 おぼつかない口調であるのに、やたらハッキリとした意志を感じる声は完全に甘えきっている。


「は、放してください。こんな格好じゃカルメさんは眠れないし、俺も上手く看病できませんよ」


 真っ赤な顔で狼狽し懇願するも、カルメは聞き入れない。


 ますます首を横に振って拒否をした。


 力づくで離れることはできるだろうが、なるべく乱暴なことをしたくないログは困り果ててしまった。


 そんなログの心を知らないカルメは呑気に、

「ねむれる」

 と呟くと、ログの胸に顔を押し付けたまま瞳を閉じた。


 ログからは確認できないが、その表情は幸福と安心で満ちている。


 そして数分後、カルメはログの腕の中で寝息を立てて眠り始めた。


 相変わらず具合が悪そうではあるものの、やはりカルメの寝顔は安らかだ。


 ログはカルメが眠ったのにホッとすると、彼女を起こさないように慎重に腕を体から外して、ベッドに寝かせた。


 そして再び看病を始めた。


 しかし、ログがカルメから離れて数分が経つと、彼女は泣きながら、

「だっこ」

 と怒って、目を覚ましてしまう。


 今度は寝転がったまま、できる限り両腕を広げて隣に来いと要求するのだ。


 しばらくすると泣き疲れて眠るのだが、そうやって眠るまで涙を流し続けるカルメを見守るのは、中々に辛いことだった。


 べったりと甘えてくるカルメは可愛らしかったし、泣いている姿を見るのも辛かったが、それでもログはグッと我慢してカルメの要求を拒否していた。


 一緒に眠ったらまともな看病ができなくなってしまうし、そもそも風邪で心細かろうが何だろうが、未婚の男女が抱き合って同じ寝具で眠るなどあってはならない事だと考えていたからだ。


 そして何よりも、ログはカルメが自分のことをどうしようもなく嫌っているのだ、と勘違いしている。


 もしもカルメが完全に回復して、後からログにベタベタと甘えてしまっていたと知ったら、たとえ風邪のせいで正気じゃなかったのだと理解しても、深く傷ついてしまうだろうと考えていた。


 これ以上傷つけたくない。


 だからログは、本当は思い切り甘やかしてやりたかったし、カルメに甘えられるのも嬉しかったが、看病として許される範囲を超えた甘やかしはしないでおこうと決めていた。


『カルメさん、熱でおかしくなっちゃったんだ。正気に戻った時に傷つかないといいけど』


 既に、カルメは普段では考えられないほどログに甘えている。


 ログは、病が完治した後のカルメが心配で仕方が無かった。


『本当の恋人だったら、甘やかしてあげられたんだろうな』


 その後も度々起きては抱っこをせがむカルメを見て心を痛めたが、やはり抱きしめるというようなことはしなかった。


 しかし、そう何度も起きられては、まともに体力が回復しないことも事実だ。


 何とか眠っていてほしい。


 ログがどうしたものかと頭を悩ませていると、少し前に眠ったはずのカルメが目を覚ました。


 また「だっこ」と言われる、とログは身構えたが、カルメは別のことを言った。


「あれ、たべる」


 カルメが指差したのは、すりおろしたリンゴにはちみつを混ぜたもので、ログが勝手に台所を拝借して作ったものだった。


 カルメの様子を見て、おそらく今日は何も食べられないだろうな、とは思ったものの、もしも食欲が出るようだったら食べさせてあげようと、カルメの病状が少し安定した隙に作っていたのだ。


「食べられるんですか?」


「ん。たべさせて」


 ログは水と同じ要領で、カルメにリンゴを食べさせた。


 カルメは頑張ってリンゴを咀嚼すると、飲み込んで、

「おいしい」

 と笑った。


 結局、一口しかリンゴを食べられなかったが、それでも、何も食べないよりはましだ。


「頑張りましたね」


 ログが笑って褒めると、カルメは嬉しそうに目を細めた。


  そして、

「くすり、のむ」

 とも言いだした。


 ログは自分の救急箱から薬を取り出すと、水やリンゴの時と同じようにしてカルメに薬を飲ませた。


 嫌そうに眉間に皺を寄せながらも、薬を飲み込んだカルメは、

「えらい?」

 と、期待するような目でログを見つめている。


「偉いですよ」


 ログがそう返すと、カルメは目を細めて微笑んだ。


「ん。ログ……」


 甘えた声でログの名前を呼ぶ。


「何ですか?」


「これ、もういいから、て、つないでて」


 カルメが、これ、と言ったのはカルメの額に乗せられた布のことだ。


「でも、冷たい方がいいと思いますよ」


 すっかりぬるくなった布に手を添えて言うと、カルメは首をゆるりと横に振った。


「へいき。て、つないでくれたほうが、げんき、でる」


 ログは少し迷ったが、


『ここで断ったら、さっきの二の舞だよな。手を繋ぐくらいなら大丈夫だろう』


 と判断し、カルメと手を繋ぐことにした。


 ただし、条件を付けて。


「ちゃんと眠るならいいですよ」


「わかった」


 カルメは素直に頷くと、今度はすんなりベッドに横たわり、手を差し出した。


「て……」


 カルメがログに近い方にある手をパタパタと動かす。


  ログはカルメの額から布をとって苦笑いを浮かべた。


「待ってください、最後に一回だけ布を冷たくしますから」


「ん」


 カルメは頷くと、ログが冷たい布を額に乗せるのを大人しく待った。


「て、つめたい。きもち、いい」


 手を繋ぐと、幸せそうにそう言って笑った。


 ログからも自然と笑みがこぼれる。


「水に触れたからですね。それじゃあ、おやすみなさい」


「う、ん。おやすみ。ログ、すき。いっしょ、いて、ね」


 うつらうつらと呟いて、カルメは眠りに落ちた。


『本心だったら嬉しいけど、そんなわけないか。熱でだいぶおかしくなっちゃったんだな』


 苦笑いを浮かべて、頬にへばりついた髪の毛を退かしてやる。


 しばらくの間はカルメの容体が急変しないかを見守っていたのだが、気が付けばログ自身も眠りに落ちてしまっていた。

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