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ひねくれカルメはログの溺愛が怖い……はずだったのに!  作者: 宙色紅葉


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捻くれ者の後悔は苦い

 ログとの最悪なデートから帰宅して、しばらくの間、カルメにはまともな記憶が無かった。


 傷つけた事実と、ログが別れ際に放った言葉が頭の中でグルグルと駆け巡り、ボーッと時を過ごしていた。


 何も食べなくては、人間は生きていけないから、おそらく何かは食べた。


 一切睡眠をとらないで人は生きられないから、きっと睡眠もとったはずだ。


 服が部屋着に変わっているから、おそらく着替えたのだろう。


 けれど、それらをした記憶は一切なく、ただただ曖昧だった。


 ようやくまともな思考ができるようになったのは、デートから二日経った夜だった。


 その夜は雨で、降り注ぐ冷水が村も森もずぶ濡れにした。


 雨の放つ冷気のせいで、カルメの体はすっかり冷え込んでしまっている。


 おまけに、天気のせいか、あるいはカルメ自身が弱っていたせいか、酷い風邪がカルメの体を蝕んだ。


『頭が痛い。喉も』


 気が付いた頃には、カルメは病で動けなくなっていた。


 頭はガンガンと痛み、喉は唾液を飲み込むだけでも鈍くかゆいような、ひどい痛みに襲われる。


 鼻が詰まっていて口で呼吸をするから、口内が渇いて余計ひどい目に遭った。


 視界は熱による涙で歪み、全身が熱いのに寒い。


 幸い近くにコップがあったので魔法で水を出して飲むことができたが、このような体調で魔法を使いすぎれば間違いなく風邪は悪化してしまう。


 それでも、カルメは水を飲んだ。


 コップに水を入れるのに何度も失敗をしたが、それでも魔法を使い続けて水を飲み込むと、一瞬だけ喉が冷えて楽になれた気がしたのだ。


『棚に薬、入ってたかな』


 カルメは基本的に風邪をひかず、自分自身の体調に無頓着な節があるため、家の棚に薬が入っているのかさえもよく分かっていなかった。


 それに彼女の風邪はかなりの重症で、腕を動かしてコップを持ち上げ、中の水を飲むことすら辛いほどだ。


 もし棚に薬が入っていたとしても、今のカルメの体調では取りに行けない。


『眠った方がいいな』


 そう思うのに、眠れなかった。


 ログの顔がチラついたのだ。


『もしもここに来てくれたら、か。馬鹿な妄想だ。来るわけがない。怪我させたんだ。あんなに拒絶したんだ。アイツ自身が、もう来ないっていったんだ』


 熱で潤んだ瞳から、涙が零れた。


『なに泣いてんだよ、このバカ。泣くな、泣くなよ! お前が悪いんだろ。お前が、お前がいらないっていったんだろ!』


 自分を叱咤しても涙は止まらず、ゴホゴホと咳が溢れた。


 腕が上手く動かないから拭うこともできず、涙はポロポロと枕へ流れていく。


 枕の染みが湖のようになっても、涙は止まらない。


『錯覚でもいいから側にいてほしいなんて、今更だ』


 ログに会いたくて仕方が無かった。


 カルメは今更、ログに恋をしていたのだと気が付いた。


 初めは、弱っているから自分に優しくしてくれたログを求めているのだろう、これこそ錯覚なのではないか、と思ったが、すぐにそれが錯覚ではないことに気が付いた。


 弱った心身が救済を求める以上の何かが、確かにそこにあったからだ。


 言葉にはできないが、それが愛であることをカルメは感覚で理解していた。


 あの日のカルメの防衛本能は、ログの気持ちを受け入れることを拒絶したのではなく、とっくに受け入れてログを愛してしまっているのだと気づかせないために、働いていたのだった。


 カルメは泣きながら、ログの姿を思い浮かべる。


 優しい笑顔が好きだった。


 素直に想いを口にするのが好きだった。


 心配してくれて、時に叱ってくれるところが好きだった。


 どんなに拒絶しても、めげずに好きでいてくれるところが好きだった。


『今思えば、私はアイツを試してたんだ。アイツが本当の本当に私を好きなのか知りたくて。錯覚じゃなかったらいいのにって願う一方で、どうせ錯覚だって決めつけた。そう思っていれば、いざというときに傷つかないって、信じてたんだ』


 本当に今更、そんなことを知った。


『多分、ずっと好きだった。どうして、今更分かったんだろう。あんな風に怒鳴って、拒絶する前に知りたかった。でも、自業自得なんだろうな』


 カルメは、自身の気持ちもログの気持ちも、考えることが怖かった。


 愛を欲しがっていたのに、愛されることが怖かった。


 だから、カルメはログの気持ちを錯覚と決めつけたまま、思考停止した。


 真直ぐ相手を見なかったし、自分の気持ちだって無視した。


 その挙句の果てが、独りぼっちで風邪にすすり泣くカルメだ。


 無様で、滑稽で、愚かで、カルメは泣いたまま、自分自身を嘲笑った。


『アイツは多分、本当に私に恋をしてくれていたんだ。だって、アイツだけは他のやつらと違って虚像の私を見なかったから。本当の私を見て、瞳を見て、告白してくれたんだから』


 絡みつくような、真直ぐで甘い、愛情の滲んだ瞳を思い出す。


 知りたかった答えが心の中にストンと入ってきて落ち着いた。


 けれど、それもすぐに虚無に染まる。


 今更分かっても何の意味もないと知っていたから、空しくなってしまったのだ。


『今更だ。流石のアイツも、私に愛想を尽かして嫌いになっただろ……せっかく恋してくれたのに。愛してくれたのに。私も好きだって、わかったのに。なんで、今更なんだ。なんで今更なんだよ。どうして、どうして私はこんなに馬鹿なんだ』


 止まらないはずの涙はやがて枯れて、最後の一滴が零れ落ちた。


 そして、ようやくカルメは眠りについた。


『きっと、私はこのまま死ぬんだろうな。幻覚でもいい。死ぬ前に、ログが見たい』


 そう、願いながら。

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