同性婚の法整化について考察 性的少数派を侮るなかれ ~詩羅と由香~
(* ̄∇ ̄)ノ 奇才ノマが極論を述べる
「性的少数派に対する理解を広めるための『LGBT理解増進法』が2023年6月に日本の国会で成立した。これでジェンダー平等というのがこれからどうなるか? ということで同性婚の法整化について、ちょっと考察してみようか」
「それはいいけど、なんで私と詩羅が? ここ、ジャンルエッセイ……」
「今回のテーマで一席打つには対話形式が良さそうということで、私と由香の出番となった。それに私たちは一部からは百合カップルと噂もされているようだし」
「え? なにその噂? 私と詩羅が? なんで?」
「他人の噂など勝手なものだ。さて、由香は同性愛者の結婚についてはどう考える?」
「どう考えるかと急に問われても、私の身近に結婚したいと悩む同性愛のカップルとかいないし、だからピンと来ないケド?」
「数が少ないから少数派と呼ばれるわけだが」
「でも権利は平等に、って考えるなら異性同士のカップルと同じように結婚できた方がいい、んじゃないかな? 少数派、多数派関係無く」
「ではそこを一段深く追及してみようか。性的少数派という言葉はあるが、同性愛だけが性的少数派では無い」
「えっと性的少数者とは、何らかの意味で性の在り方が多数派とは異なる人のこと。英語のSexual Minorityの日本語訳。英語圏では総称としてGSM、Gender and Sexual Minorityとも呼ばれる、ウィキより」
「分かりやすく説明するためにこのセリフを使おうか、『たまたま好きになった相手が同性だった』このセリフをどう思う?」
「あー、うん、同性愛の物語に出てきそうなセリフだなー、と」
「相手のことを人として好きになった、それが異性か同性かは関係無いんだ、というような心情が感じられるセリフではある。これをちょっと変えると性的少数派を解説するのにイメージが掴みやすいと思われる。では行ってみよう」
■『たまたま好きになった相手が自分自身だった』
自己愛 ナルシシズム オートセクシャル
「え? 自分が好きって、恋愛的に? 恋してるの?」
「この場合、ナルシシズムの人が異性婚のように結婚するには、自分自身を配偶者として戸籍に登録するなどの法整化が必要となるか」
「自分が配偶者? や、ややこしい。婚姻届はどうなるの?」
「自分自身との結婚式、というのはちょっと見てみたい。配偶者控除などはどうなるのだろうな?」
■『たまたま好きになった相手が未成年だった』
幼児性愛 小児性愛 ペドフィリア
「えっと、未成年との結婚は違法……」
「2023年6月に性交同意年齢が13歳以上から16歳以上に引き上げられた。16歳未満の性行為は同意があっても違法となる」
「そうでしょ」
「ならば性行為の無いプラトニックな清い結婚ならば問題無いということだな。結婚しても相手が16歳以上になるまで手を出さなければ良い。これぞ純愛か?」
「え? あれ?」
「まったく。結婚したらすぐセックスすると考えてしまう由香はスケベだな」
「どうして私がスケベにされた?」
■『たまたま好きになった相手が死者だった』
死体性愛 冥婚 ネクロフィリア
「好きになったのが死体ってどういうこと?」
「ネクロフィリアとは広義には死を愛すること。概念含めて。まあ人の好意嫌悪は様々で、生きている人間は嫌いだが死んだ人間は好き、という人もいるということ」
「どうやって死んだ人と仲良くなるの?」
「生きている人間と違って文句も言わないし悪口陰口もしないしマウントとったりもしないぞ。ケンカも売ってこない」
「なにか、生きてる人が嫌いになるような重い過去が?」
「ちなみに死を愛することがネクロフィリアなら、対義語は生を愛するバイオフィリアになる」
「えーと、死体と結婚するのが冥婚?」
「冥婚というのは死者の魂との結婚だ。こちらは宗教的な弔いの儀式になる。未婚のまま死んだ人の魂を結婚させてから弔うというもの。古くからアジア圏にある風習のひとつとなる。中には花嫁に見立てた人形を棺に入れるというのもある」
「結婚できたらこの世に未練が無くなって成仏するのかな?」
「日本では山形県のムカサリ絵馬が冥婚の一種となるか」
■『たまたま好きになった相手が人形だった』
偶像性愛 人形性愛 アガルマトフィリア
「今度は人形?」
「人形や石像など人を模した物との結婚とはどうなるのだろうな? 現代ではフィギュアやラブドールなど様々にある」
「人形とかぬいぐるみとかと結婚するってどういうこと?」
「当然、結婚したいほど好きなのだろう。そして人が人や物を好きになるのに理由など無い。権利は平等にと考えるのならば結婚できた方がいいのではなかったか?」
「え? うーん、でも人形って人の形してるけれど人として扱うものなの?」
■『たまたま好きになった相手が猫だった』
動物性愛 ズーフィリア
「今度は猫?」
「猫も含めて人間以外の生物が恋する対象となったもの。犬や馬など様々な動物がいるし、イルカやカエルといった人間以外の生物と結婚したという前例は世界にいくつもある」
「えーと、相手に結婚する意思があるってのはどうやって確認するの? 犬も猫も言葉は喋らないし」
「愛があれば伝わるんじゃないか?」
「そっか、愛ってスゴイなー」
「日本の動物婚で有名な物語は『南総里見八犬伝』だ。1814年に刊行と200年以上も前。つまり日本とは、200年も前から犬と姫の結婚に理解のある動物性愛先進国と言える」
「今の日本の法律では動物婚は認められていないハズだけど。それと伏姫は八房の子を宿して無いって証明するために、割腹自決……」
■『たまたま好きになった相手が自動車だった』
機械性愛 メカノフィリア
「次は自動車かあ」
「トラックと結婚式を挙げた人もいる。対物性愛、オブジェクトセクシャルまで含めると、ベルリンの壁とかエッフェル塔と結婚した人もいる」
「その恋は一方的なような気がするんだけども。無機物の意思っていうのは?」
「恋などもともと一方的なものだろうに。それに無機物しか愛せない人もいる」
「相手の同意が得られない、というか同意があるかどうかも分からないっていうのは問題あるような」
「なるほど、お互いの意思を尊重するなら同意が必要だな」
「あと同意があっても16歳未満はダメなんだよね? 自動車の16歳未満というのは?」
「おっとこれは盲点だった。さて自動車の成人年齢とは幾つからなのだろうな?」
■『たまたま好きになった相手が二次元のキャラクターだった』
架空存在性愛 フィクトセクシャル
「あ、これはちょっと分かる。アニメのキャラとかゲームのキャラクターが好きになることだよね?」
「その通り。フィクションの存在への恋愛感情ということで、フィクトセクシャルと呼ばれる。概念上の存在との婚姻ならば概念婚とでも呼ぶか」
「でも存在しない相手との結婚って、法整化するべきもの?」
「別の意味で法整備が必要になるかもしれないぞ。既に二次元のキャラクターとの結婚証明書を発行するビジネスが存在する。また、二次元のキャラクターとの結婚式ができる結婚式場やフォトスタジオなど、需要が見込まれビジネス展開している。既存のキャラクターであれば著作権などがどう絡むのだろうな?」
「アニメキャラとの結婚式がビジネスになるのか……、結婚ってなんだろ?」
「遺産相続などが、ややこしく楽しくなりそうじゃないか」
■『たまたま好きになった相手が複数だった』
複数婚 ポリアモリー
「ん? んん? 複数って? 不倫? 浮気?」
「さて、不倫となるのか浮気となるのか。ポリアモリーとは、恋愛対象たる全ての恋人と関係者の同意を得て、複数の恋人達との間で夫婦、家族となることを言う。同意に基づく上で倫理に反さず責任を持つアンチ一夫一妻主義、それがポリアモリーだ」
「たまたま複数が好きになるというのが、え? どういうこと? 五等分のホニャララ?」
「ちなみにアメリカ・マサチューセッツ州のサマビル市は、2020年、条例を制定しポリアモリー家族の登録を開始した。これまでの伝統的な家族の枠に収まらない人達にも法の保護を与えるべき、というところか」
「伝統的では無い新しい家族……、お父さんが1人でお母さんが5人とか?」
「日本もいずれそうなるんじゃないか?」
「え? なんで?」
「かつて日本では夫の稼ぎで妻と子供の暮らしを支える、というサザエさん的昭和の大家族の形があった。これが子供の養育費のインフレが進み、夫の稼ぎだけでは足りないとなり共働きが増えた」
「あ、うん、共働きが増えて一人っ子の家庭が増えて少子化になっているんだよね」
「このさき子供の養育費のインフレを止められなければ、子供を育てる金が無いとますます少子化ともなるだろう。それで夫婦共働きでも子育ての為の資金が足りない、となれば働き手を増やすしかあるまい」
「と、いうことは?」
「夫婦二人共働きで足りなければ、夫婦が三人四人五人と増えれば稼ぎ手も増えるだろう。ポリアモリー家族がおかしい、旧態の家族の在り方が倫理的に正しい、というのであれば、子供の養育費そのものを昭和初期の水準まで下げなければならない」
「え? でも夫婦が五人とか六人とかって、ワケ分かんなくなりそう」
「ここでシェアハウスの説明をしよう。シェアハウスとは一つの住居に複数人が共同で暮らす賃貸物件を指す和製英語。共同で住むことで家賃や光熱費を節約できるのがメリット。
このシェアハウスの延長にあるのがポリアモリー家族だ。シェアハウスが増加すれば未来のポリアモリー家族も増加すると考えられる。
つまり増税と物価高騰が進む程に、貧困化からシェアハウスが増加すれば、ポリアモリー家族も増加が予想されるので、法整化は早めに考えないとならないのではないか?」
「日本の家族形態はどうなっちゃうの?」
■『たまたま好きになった相手が単独の異性だった』
異性愛 ヘテロセクシャル
情熱的恋愛主義 ロマンティックラブイデオロギー
「え? これは普通……、だよね? 相手が一人で異性だし」
「異性愛も拗らせたならストーカーなどの犯罪となるので、一概にノーマルとは言えないだろう」
「そんなこと言い出したらマトモな恋愛がひとつも無くなっちゃうよ」
「ひとつの対象に異常な執着を見せる精神状態というのが、はたしてマトモなのだろうか?」
「それで、情熱的恋愛主義っていうのは?」
「19世紀頃からヨーロッパに広まった思想だ。恋愛によって結びついた男女が結婚するべき。そして出産、子育てを通して愛を育み家族となり、死ぬまで添い遂げる。恋愛と結婚と育児をワンセットにする熱狂的一夫一妻主義のこと。日本では高度経済成長期に広まり、現代の恋愛観の下地となっている」
「え? 今の恋愛が情熱的恋愛主義なの?」
「日本で恋愛結婚が主流になったのは1970年代からだ。それまでは見合い結婚が主流。1970年代より前では、『恋愛結婚するのはふしだらで常識の無い人』という風潮だった。
それがロマンティックラブイデオロギーが浸透することにより『結婚する相手を自分で選べる人が独立心のある人』となり、見合い結婚をする人は『自分で相手を探すこともできない人』というふうに常識が変化した。これで見合い結婚が減少し恋愛結婚が増加した。
日本の歴史では、恋愛結婚が主流になってからまだ50年くらいだ」
「そう聞くとまるで恋愛結婚主流の今の時代が、歴史で見ると短くておかしいようにも聞こえるけれど?」
「未来においてどうなるかは解らんが、恋愛結婚が主流になったのが少子化の要因のひとつかもしれない」
「じゃあなんでロマンティックラブイデオロギーは広まったの?」
「ウケたから。あと自由主義とか民主主義とかと相性が良い。自由な恋愛観における身分違いの恋を応援する気持ちが奴隷制廃止に繋がったりもしているので、単純に功罪を語れるものでもない」
◇◇◇◇◇
「いや、まあ、いろんな結婚の形とか恋愛も人それぞれというのはちょっと分かったけれど」
「現在は同性婚が憲法に違反するのか違反してないのか、とその解釈が議論になったり裁判になったりもするようだ」
「ところで、同性婚が法整化されたらどう変わるの?」
「いくつか変化はあるが、私が興味があるものが二つある。この二つが社会を変えるのではないか? と考えている」
■代理母出産ビジネス
「代理出産とは、先天的な疾患、事故や病気などで子供を産めなくなった女性、また男性同性カップルでも子供を得ることができる医療技術だ」
「それ、禁止してる国がいっぱいある。倫理が大問題。遺伝子を提供した親と生みの母親とか、親子の関係はどうなるの? とか」
「さて、倫理で経済と貧困に勝てるかな? 代理母出産が多いと言われるウクライナでは、この子宮レンタルで子供を1人産めば約3万ドルの報酬。日本円にして約400万円だ。
日本で若者の貧困が問題になるということは、若くて健康で妊娠可能でお金に困る女性がいるということ。母体候補は多い。これが円安と合わせると海外からの代理母依頼で利益が見込める。
そして代理母出産ビジネスでシェアを持つというウクライナが、ロシアと戦争中のため代理母出産でできた子供を輸出するのが難しい状態。今なら日本で代理母出産ビジネスができれば、世界の市場を奪うことができるかもしれん」
「恋愛と結婚の話に、なぜか経済と利権の問題と戦争が出てきたよ? なんで?」
「日本で同性婚が認められ、男同士のカップルが増えたなら、子供が欲しいと言う同性婚者も増える。その結果に代理母出産ビジネスを容認する風潮へと変わるのではないか? 妊娠の外部委託が可能となれば新しい少子化対策になるかもな」
「あー、そう、なるのかな? そうなっちゃいけないような気もするけれど。命を弄ぶようなことはちょっとどーかなーと思うんだけど」
「男と男の結婚でも血を引いた我が子が欲しい、と思うことは自然なことらしいぞ?」
「男と男で子供ができることがとっても不自然だよ」
■在留資格ビジネス
「もうひとつが在留資格ビジネスだ。外国人が日本人と結婚し配偶者となれば日本の在留資格を得られる。これが同姓婚でも在留資格が得られるのならマッチングはちょっと簡単になる」
「たしか、結婚制度を利用した移民の滞在がヨーロッパで問題になってるとか」
「日本の首相が、外国人と共生する社会を考えなければならない、と言ったのできっとこれからの政府は結婚制度を利用した在留資格ビジネスを支援してくれるのだろう。なに、書類上だけ結婚していればいい。いわゆる白い結婚というヤツだ」
「現代日本で白い結婚がブームに?」
「結納金が在留資格販売料になるのかな? 生涯結婚するつもりが無ければ、この偽装結婚で日本に住みたいという外国人を支援しつつちょっと稼ぐこともできる」
「偽装結婚は厳しく取り締まりされているんじゃなかったっけ?」
「偽装結婚がバレたら、公正証書原本不実記載等罪になり、法定刑は5年以下の懲役、または50万円以下の罰金になる。だが日本の在留資格に魅力があるのか、利益率が良いのか。外国人と日本人とを結婚させて仲介手数料を取る婚活ブローカーなどが存在する」
「ほら、違法で捕まっちゃうじゃない」
「それが違法であっても金になるとなればなかなか無くならない。詐欺と同様に。それに婚姻の真実性の立証は難しいぞ、カップルの愛を計測することなどできないし」
「恋愛パワーを計るスカウターを開発しないといけないのかな?」
「フッ、恋愛力たったの5か、ゴミめ」
「いったい何と戦ってるの?」
「まあ、移民政策が進むとなれば法律も変わったりするだろう。そこにできる新しい制度に課税ができるとか、補助金で利権が生まれるとなれば熱心になる人もいるだろうし」
「なんだか、同性婚が法整化されたら社会がおかしなことになりそう? 当のカップルは置き去りにして」
「ここで参考になるのが台湾だ。」
■結婚制度の利用法
「台湾では、2019年に同性結婚が合法化された。これはアジアでは初めて、世界で見ると27番目に同性結婚が合法化された国となる」
「あ、アジアでは初なんだ」
「ここでおもしろいのが台湾の国際結婚については、『台湾地区與大陸地区人民関係条例』が適用されること。分かりやすく言うと台湾では同性婚において、同性カップルの相手が中国本土の住民であった場合、婚姻届は受理しないということ」
「え? なんで? 中国出身だとダメなの? その他の国はいいの?」
「分かりやすくザックリ説明するとだ。例えば国際結婚することでその国の居住権、国籍、選挙権などが得られるとするならば、大量の人間を送り込むことで人海戦術でその国を乗っ取ることも可能になる。結婚制度を利用して侵略ができるということだ」
「結婚が侵略戦争に利用される? ダメだよそれは!」
「何を言う。結婚制度とは、戦国時代には相手の家の人間を人質に取るという戦略でもある。戦争のため、未来の戦争に備える為に発展し洗練されてきたのが結婚制度というものだ」
「今は戦国時代じゃないよっ!」
「その通り、今は戦国時代では無い。現代では政治家が人気を得る為に、同性カップルで結婚式を挙げたりする。同性愛者や同性愛に理解のある人の投票を得て、選挙戦で勝つことが目的のデモンストレーション的な結婚式だな」
「その政治家さん、思ったほど票が集まらなくて選挙で落選してなかった?」
「たしか、落選した後に離婚していたか。さて、話を結婚制度に戻すと自国を侵略する恐れのある国出身の人とは結婚を認めない、というのは国防の為に必要な制度になる訳だ。これは日本も台湾を見習うと良いのではないか?」
「というと? 日本で同性婚が法整化するときには、国際結婚では相手国によって婚姻届を受理しない、とか?」
「同性婚だけでは無く、異性婚も同様に見直さなければならない。特定の国家出身の人との結婚は、異性婚同性婚問わずに婚姻届を受理しない、とか。
国防の為に防衛費を上げ設備などのハード面を増強するなら、法律や制度といったソフト面もまた増強しないと防衛としては片手落ちだろう」
「それはそれで新しい国際問題になりそうな」
「なに、LGBTに配慮するなら異性婚も同性婚も同様に禁止とすれば平等になるだろうさ」
■これからの結婚制度
「うーん、同性婚がビジネスと侵略戦争にまで関係するなんて。恋人たちが結ばれるのが結婚なんじゃなかったの?」
「人は考える葦であり、知恵持つ生き物だ」
「うん? なんでいきなりパスカルが?」
「人の作り出した制度や法律などで、人の知恵で悪用できないものなど、この世になにひとつ無いということだ」
「悪用しちゃダメでしょ。善用してよ。それじゃ同性婚の法制化の前に、結婚制度そのものを見直してどうにかしないといけないのかも」
「いや、同性婚はさっさと法制化するといいんじゃないか?」
「え? 侵略に使われるかもとか、生命を弄ぶようなビジネスに使われるかも、なんて話しておいて? なんで?」
「何故なら、同性婚の法制化は全ての始まりとなるのだから」
「なんかラスボスみたいなこと言い出した!?」
「ではラスボスっぽく言おう。同性婚は全ての始まりにすぎない。何故なら同性婚から始まり、次いで自身婚、死者婚、ロリ婚、ショタ婚、動物婚、人形婚、機械婚、建築物婚、無機物婚、植物婚、昆虫婚、魚介婚、菌糸婚、二次婚、概念婚、AI婚、複数婚と、ありとあらゆる結婚制度を法制化することで、少数派に配慮した真に多様性ある社会が実現するからだ。この世に人間に結婚できない存在など無いという社会を創造する。これぞ新人類の為の新世界なのだ」
「結婚の! 法律が! 乱れる!!」
「同性愛など性的少数派の枠の中では多数派にすぎん。その中で同性婚だけ認めるというのは、他の性的少数派への差別となるからな」
「理屈ではそうかもしれないけれど、やたらと法律と制度をいっぱい作ったら役所で働く人がタイヘンだよ。婚姻届だけでも何種類作らないといけなくなるの?」
「紙資源の無駄遣いになるかもな。ではここで結婚制度をどうすべきか、簡単にそのベクトルをまとめたものを紹介しよう。マイケル・サンデル著『これからの「正義」の話をしよう』より引用する」
『① 男性と女性の結婚のみを認める
② 同性婚と異性婚を認める
③ どんな種類の結婚も認めず、その役割を民間団体に委ねる』
「この3つの内のどれを選ぶか。これで簡単に分かりやすくなっただろう? そしてこの③が結婚に纏わる社会問題を解決するのに有効だと思われる」
「え? 結婚がぜんぶ認められなくなっちゃうの?」
「正確には結婚の完全民営化だ。行政はもう国民の結婚には関わらないとする方法論になる。国民は結婚したければ勝手に結婚したらいい。ただし、政府から結婚のお墨付きを発行するのはやめるし、結婚を理由とした特権も廃止とする。政府は国民の結婚を承認する業務を辞めるので、結婚は民間でご自由にどうぞ、というところだ」
「そうなると、婚姻届とか離婚届とかは?」
「もう行政に出す必要は無くなる。というか、もともと結婚というカップルの問題に公務員が口を挟むことが無粋なのだ」
「えー? でもそれじゃ、結婚して家族になるのはどうすれば?」
「法律に認められなければ家族になれないのか? 法律が家族は誰だと決めていいのか? 戸籍に登録することだけが目的ならば、養子縁組の幅でも広げるといい。世帯主と被扶養者が明確であればいいだけだろうに」
「うーん、夫婦の在り方が大きく変わりそうな気がする」
「実はさして変わらないぞ。結婚を禁止してる訳では無いのだから。ただ、政府はもう国民の結婚問題に関わらないというだけのこと。民事不介入というヤツだ」
「今の結婚制度に満足してる人はメッチャ反対しそう」
「だが日本の結婚制度はこの方向を目指してるように見えるが」
「え?」
「日本の結婚制度は昭和の家族、夫の稼ぎで妻と子供が暮らす家庭がモデルとなっている。なので夫婦共働きの家庭にメリットは少なくなる。共働きの夫婦が増えた現代、結婚制度でメリットを享受できる夫婦の方が少数派となりつつある。配偶者控除の対象の上限、103万円の壁問題とかな。
現在の結婚数の減少の要因のひとつが、結婚制度にメリットを感じられない人が増加したことにある」
「非婚希望者が増えたってのは聞いたことがあるケド。生涯未婚率も上昇してるって」
「だが、結婚制度に経済的メリットがまるで無い、ということになれば、異性婚から見ても同性婚から見ても、結婚制度はまるで無価値という点で平等になる訳だ」
「あ、同じ権利を認める平等じゃなくて、片方の特権を廃止する平等ってこと? それじゃますます結婚する人が少なくなりそうな。んーと、それで結婚補助金とかブライダル補助金って話になったりするの? メリット出す為に?」
「ブライダル補助金、か。そんなものは学習不足の世迷い言としか思えないが」
「でも結婚に補助金が出たら結婚しようって人も増えるんじゃないの?」
「そこを説明するにはブルガリアの独身税を紹介すると分かりやすいだろうか」
■ブルガリアの独身税
「ブルガリアでは結婚減少の対策、少子化対策として独身税が導入された。独身の成人に税金を課すことで結婚する人を増やし、その税金をもとに子育て支援するといった目的のために。施行されたのは1968年」
「独身の人は税金を取られたくなければ結婚しようってなるし、その税金が結婚した人の子育て支援に使われるのなら、結婚する人が増えて少子化対策になりそう」
「と、考える人がいたから独身税は施行されたのだろう。ところで『独身者』とは何者なのだろうか?」
「え? それは独身の人のことでしょ? まだ結婚していない人のこと」
「その通り。まだ結婚していない人であり、これから結婚するかもしれない人だ。ところが独身税はこれから結婚しようという人から、独身税という名目で結婚資金を持って行ってしまう」
「あれ?」
「独身税の導入から結婚資金が貯められなくて結婚を諦める独身の人も現れて、未婚率が上昇。結婚前に独身税で貯金を取られた為に、子育ての為の資金が無くなった夫婦は二人目の子供を作ることを断念。少子化が加速と」
「独身税が未婚率を増やして少子化を進めちゃった?」
「ブルガリアでは1968年から21年間、独身税が導入された。この21年間でブルガリアの出生率は2.18%から1.86%へと低下している」
「少子化対策の為の制度が、逆に少子化を加速させちゃったの?」
「独身税を導入する前の予想では、独身税という制度は上手くいく予定だった筈。だが、実行してみればまるで効果が無いことが解ってしまった。1989年に独身税は廃止。もっとも独身税を廃止した後も出生率は下がっているので、独身税だけが出生率低下の原因では無いが」
「良かれと思ってしたことが逆効果、かあ。現代の寓話かな?」
「結婚補助金もブライダル補助金もこの独身税と同じ問題を内包する。結婚減少対策に新しい制度を導入すれば、その制度の為に増税となる」
「そしたら増税のせいで結婚資金が貯められないって人も増えちゃう?」
「そういうこと。結婚補助金の為に増税されて、生活が苦しくなり結婚を諦める、と本末転倒になりかねない」
「じゃあどうすればいいの?」
■まとめ?
「どうすればいいの? か。それが簡単に分かるようなら社会問題になってはいない。まだ誰も解決する手法を見つけてはいないのだから。それこそ未来からタイムスリップしてきた人が未来知識チートするか、現代より文明の進歩した異世界から転生してきた人が異世界知識チートするか。そんな空想じみたことでも無ければ誰も正解が分からない」
「学校のテストみたいに正解がひとつ用意されてる問題とは違うってことかあ」
「なのでやってみて上手く行くか失敗するか、実際に試してみるしかあるまいよ。結果が出るのは20年後になるか、50年後になるか」
「誰も失敗したくは無いだろうなあ」
「先んじてやってみて、成功した国は次世代のリーダー国家になれるかもしれない」
「失敗したら人口減少と高齢化でその国、ジリ貧になりそうな」
「そこはギャンブルに近いかもな。なので結婚制度の在り方のひとつとして、いっそ行政は結婚制度を放棄するのもアリだ。政府の決めた結婚の在り方に縛られなければ、様々な形の結婚が次々と現れて結婚する人は増えるかもしれない」
「その結婚、増えるのは相手が犬とか自動車とか東京スカイツリーとかAIとかなんじゃない?」
「愉快で楽しい時代になりそうじゃないか。そのうち夜空の星とか太陽系の惑星と結婚する者が現れるかもしれない」
「夜空に浮かぶ星座との結婚かあ、なんだかロマンティック」
「そうだな。やがては、
『俺は月と結婚した。あの月が俺の妻だ、美しいだろう? 宇宙開発をする世界各国に告げる。今後は夫である俺の許可無しに月に着陸することを禁じる。NTRは許さない』
とか、
『私は太陽と結婚しました。太陽光発電で利益を上げる企業は、夫に太陽光の使用料を支払って下さい』
とか言い出す人が現れるかもしれない」
「……ロマンティックが消えたよ?」
BGM
『アンチノミー』
Amazarashi
参考エッセイ
『「LGBT」というレッテルを貼られて。』(N1469HU)https://ncode.syosetu.com/n1469hu/
作者:千石杏香