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暗行白童  作者: 因幡猫
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第九話:探り合い

ギャアギャアと、遠くに鴉が鳴く。

ドライブインの明りから離れたら、少し先はもう真っ暗で

土地勘がなければすぐ傍の崖に落ちるかもしれない。

鴉は何処で鳴き、何を訴えているのか。

それとも人だけが知らぬ警鐘なのか。



どこから、切り出したものか。

目の前の奴は、ぼんやりと見えぬ暗闇の先を見ている。

外へ出る、と言ったのだ。周囲に分からぬとも、それは儂らの

品定めといったところか。

年齢にしては、警戒心が高い。良い鋭さだ。

しかもその若さゆえの直情的な行動にも、一寸の慎重さがある。


「…で、オタク。誰?」

「…」


それは、数分前の事である。



「…外に、出る」


そう言って、掃除をしていた儂らに

視線を一瞬だけ向けたのは

有賀という男の息子なのか、佐雪という青年だった。

そこから別にこちらに執着せずそのまま外に出て行ったが

有賀が厨房の奥に消えたと同時に、儂は鵜婆女に向いた。


「誘われてますよね」

「そうだな」


明らかに、警戒している。

その感じる糸の張りは、普通の人間が持たぬもの。

言えばよく鍛錬されている。そう言ってもいい。

だがそれが、此処に居る動機と繋がらない。

向こうも知りたい事があるだろうが、それはこちらも同じ

知りたければこっちへ来い、そういう度胸の表れだ。


「ここは私が何とかしておきますので、宗一郎様はあちらの方と」

「すまん。頼めるか?」

「何とかはぐらかしておきますので、いってらっしゃいませ」


そう言って鵜婆女にモップを持たせ、罠か否か、その誘いに乗ったのだ。



「…喋りにくいなら、良いけど」

「儂に何か不快な部分でも感じたか?」

「儂?ガキのくせに…変なの」

「べ、べつに良いではないか!」


そう言えば、中身は爺だ。

それに鵜婆女としか腹を割った話をしてないから

確かに違和感はあるのだろうと今気づいた。


「…野生ってさ、警戒心高いよね」

「ん、まあ…そうじゃな」

「今までの普通に対する変調をすぐさま見出す。人間よりはるかに薄く、糸のような気配すらも」


…やはりな。

どうしてこの者が有賀の息子なのか、儂には分らぬ。

その彼を知ってはいないが、どう在る人間かは分かる。

有賀の息子というのも、また別の所以ありての事情だろう。


「…さっきから、色々やかましくてさ。あんた、で、誰?」

「…」


別に、話してもいいのだが

儂を知るならば、話したところであまり信じないだろう。

知らない方に八割は見いだせているが、残り二割は儂が

見えないように仕舞っている「刀」への気配。

それを持つ者は限られていて、そう。「露払い」だけだ。

という事は彼は


儂の事を「露払い」の「誰か」としか認識していない。


「…そ、宗一郎、だ」

「苗字は?」

「う…うむ、祓刃だ」

「…聞いたことねぇな」


心の中で安堵した。

やはり、知らなかったか。

いや、そこには確信がある。多分「知らない」

だが露払いである事は分っているはず。そこだけ周知していれば

別に儂には支障がない。


「…」

「…」


儂の周りを、水滴が落ちた時のような

波紋を何度も敷いて

その抜かりなき静に、一筋の糸のような針が

動として儂を探る。

それは、儂が爺だからか。その若者の気配を「善い」と感じた。

「出来上がっている」という意味でだ。



「お互い詮索に遠慮は不要だ、宗一郎?アンタがしゃべりたい事を喋ればいい」

「ほう、気を使ってくれるか」

「知りたいという気配と、知るなという壁がアンタから感じる。煩いんだ」


生きている全盛期なら、弟子にしてやってもいい。

そう思った。

露払いの中にも、出来不出来はある。精神面か力量的か。

精神面で言うならば、まあ合格点だ。若いのに、琴線の様な気配をしている。

多分そこで笑んだんだろう。佐雪は少し訝し気で


気配のブレ、を感じた瞬間

刃先が眼前まで触れかけていた―


―スッ


「…!?」


佐雪が斬ったのは、空。

その直後に、背後に芯を取った。

それ以上動けば、命はないやもしれぬ。

まあここまですれば、それが普通の人ではないのが百に分かるものだが

いかんせん。久方ぶり故に収める気配にはなかった。


「すまんの、手癖が悪かったようで」

「…て、テメェ」

「しかし儂も久方ぶりで堪らんのだ。佐雪とやら」


突く、その一瞬に

彼は姿を消す。

それ位では動じぬが、すぐさま頭上から刀を振り下ろし

それを線の様に受け流す。

先ほどの一撃は、殺意があった。それは確かだが


「…それでは、殺せぬな」

「腕が足りないってか?」

「いや?そうは言っておらんだろ」

「…っせぇ!」


ギィンンッ!


―刀が、鈍く。鳴る。

刃同士が擦れあい、歯がゆいが


「…どうにも、だな」

「テメェなんなんだよ!」

「大人しく聞くならもっと話そう」


―ィイン!


火花が散る。

刀同士が弾きあい、双方の攻めの度に

空を切り裂き、花火が鳴る。

ぞわぞわとする、久方ぶりの感覚に。もう少し堪能したいと思っていたが

ドライブインの入り口から、二人の人影が一瞬見えた。


「…佐雪!」

「っ!親父…っ!?」


その一瞬は、まだ「若い」



【お前は時々、悪魔の様な顔になる】




ガッ…ギィイイン!!!


「…っは!?」


刀が、空中に

くるくると舞い、地面に突き刺す。

ひっかけるようにして、相手の手から弾く。

佐雪の手元には、刀はない。




【悪魔のようだと?やかましい】




「…完敗だ。煮るなり焼くなり好きにすればいい」

「誰も望んでは居らんが。聞きたい事はある」

「ちょうど親父にも見られたんだ、アンタも色々と聞きやすい環境になっただろ」

「それはそうなるように配慮してくれたのか、ならば有り難いな」


有賀と、鵜婆女の駆け寄る様子が見え

儂も刀を収めた。

探り探りでこの環境の事を聞こうと思っていた、その切っ先が

この若造の手で開かれた。


「本当に、助かる」

「うっせぇよ」


そう言って儂は、佐雪に


『殺せぬ刀』を渡した。

折り畳み机を買ってみました

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