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暗行白童  作者: 因幡猫
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第七話:奇妙なドライブイン

三年前の戦の後は、最初は激動であり

次第にゆるりと衰退していった。

人類の未曽有鵜たる危機が、一通り終わると

次は電気、水道などといったライフラインが地方から瓦解していく。

そのまま手付かずならば、もはや人のない地域は

はるか昔の原生林があった、恐竜の時代位にまで朽ちていくかもしれない。

もしかして、の話だが。





「…明り、じゃな」

「そうです、ねぇ」


車で大阪府まで移動中、途中で異形を斬って

之かあと何回ぞと呆れた矢先

視界の少し遠くに明かりが見え、まさかとは思うがと

休憩がてら向かったものの、それは儂らの予想をはるかに超えた


「店…か?」

「寂れていますが、これはドライブインというものです」」


要するに、車で移動する中での休憩所。

食事も買い物も、仮眠もとれる。

場合によっては遊具や動物と…いや、それはいいとして


「ここの物騒さを分かって、生業をしていると?」

「わかりませんが、一先ず入ってからにしてみましょう」


それは、確かにだが。

鵜婆女は車のエンジンを斬り、「ドライブイン片崖」と看板が掲げられている

その施設へと入った。

気づけばもう日が暮れている。何があろうと明りがあるならばそこで休憩をとっても

悪い気がしない。



―ウィーン…


「は、はわわわわ…」

「…ほう」


現世に来てから、暫し経つが

これほど暖かい感じの館内を見たことがない。

勿論人気はがらんとしているが、生きているものの存在の暖かさというか

そこに生気がある。して、明るく。言えば「文明」が生きていると

言ってもいい。


すると、奥の方から少し

良い匂いがする。

湯気だろうか、驚いたことに普通に座っている

新聞を読むなり、寝ていたり、各々のぽつぽつの人の影と

カウンター奥からは金属音が聞こえ、そこから少し声を聴いた。


「…おーい、客が来たぞ」

「あ、へーい!!」


―ぽつん、と立っていた儂らに、一人の男が気が付いて。

儂らの存在を誰かに知らせた。

まだ状況把握と思っていたが、見える場所に居るのだ。

そうこうしているうちに、一人の料理人…か?タオルを巻いたエプロン姿の

中年の男が現れた。


「まいど…って、あんた。この辺の人じゃないね」

「あ、ああ」

「何しに此処へ?もしかして大阪府へ」

「一応そのつもりでした」


妙に、気圧される儂に代わって

鵜婆女が結論付けた。

現世にきてからおそらく最初の「生きた人間」

そう思うと忘れた物の方が多く、ぎこちなさを感じる。


「大阪府ならまだ幾ばくかここからじゃかかるだろ。休むならタダ。食事は金取るぜ」

「食事…出来るのですか!?」


―ま、まあ。驚かぬ方が不思議だが。

鵜婆女は目を輝かせ、店主らしき男に詰め寄った。

まあその身目立ちにそいつも気圧されていたが、人格ゆえか

すぐに気を取り直して笑みを浮かべた。


「おう、あるものでよければな」

「宗一郎様…」

「お前、食わぬもんじゃろが」


そもそも鵜婆女も人からは遠く、俗世の物など…


―ぐ


「ぐ」?


――ぐぎゅるるるるる…



「…」

「…」



それは、まあ人間らしい

盛大な腹の虫が鳴った音。

儂ではない。鵜婆女の腹の音で

隠そうとしたのか、一瞬赤面して。諦めたのか、吹っ切れた表情になった。


そんな一抹を見ていた店主も、呆気から豪快に笑い


「…っ、あっはっはっ!!いいぜ、飯だ飯!!俺は有賀だ。よろしくな坊主とねえちゃん」

「ありがとうございます!」

「…はぁ」


休憩だけでよかったが、まあ鵜婆女の成り行きで

テーブルに案内され、食事をすることにした。

周囲を見たら、確かに一つのテーブルに一人、または二人ぐらいか。

各々の過ごし方をしている。殆ど…男か?


「はぁ…久方ぶりのお食事とは」

「何百年ぶり、の間違いではないか」

「もう、宗一郎様のいじわる。乙女でも食べます」


―何、その持論…こわ


「それよりか、だ」


ライフラインが断絶し、人気もなく

店主、有賀も言った。大阪府に行くのだと。

そう言うことは、その大阪府に対する意味も知っている。

しかしこんな寂れた所で商いをし、ましてや生活の基盤が出来ている。

さっき斬った異形の存在を思い出し、ここに居る人間は

その化け物とは無縁なのか。そう思ったぐらいだ。


「…」

「宗一郎様、眉間に山脈が」

「うるさい」


そういう顔つきにもなろうが。全く。

家に居た時からがらりと変わって、自由奔放というべきか。

まあそれが儂から「暇」をもらった、その結果なのだろうが

なんかこう…ぎゃっぷ。と言うのにまだ慣れない。


すると、ふと良い匂いがして

気づけば有賀が沢山の料理を両手に運んできた。


「…」


―そんなに、頼んだ覚え…は


「辛気臭い顔してんな坊は。見ろよこのねぇちゃんは目がキラキラしてんぜ」

「左様で」

「宗一郎様----!ごはん!ごはん!」


やかましいが。

儂と目を輝かせた鵜婆女のテーブルの前には、料理が沢山並べられ

これは「頼んだ覚えはない」と思いつつ、有賀の心意気ととりあえず思っとく。

ひとまず、料理の一番小さなものを一つ取り、あとは修羅の如く食らう

鵜婆女に任せた。


「うおおごく、もぐもぐ!そういちおうさまも!もぐ!」

「…おう」


とは言え、食事が目当てではなかったような。

しかし鵜婆女の生き生きとしたその様子に、咎める気もなく

儂も少し口に入れながら、傍に居る有賀に問うてみた。


「なあ、有賀…とやら。ここは何なんだ?」

「あ、ドライブインだが?」

「それは分かる。だが、安全が確立しているかどうかの話だ」


そこで店を営むのは個人の自由として、安全かどうかで言えば

ここはまだ危険なのだろう。

まだ危険、もっと危険か、ずっと危険かその度合いまでは分らぬとも

ここに居を成して、過ごす事の意味があまり分からぬ。


「…あー、まあ。何とかやっている」

「ほう、そう言える何か保証が?」

「てか、こういう場所は一応各地にもあんだよ」



―有賀が言うには、こういう事らしい。


確かに、帝日が滅んで人々の多くは大阪府に流れたが

物資の流通そのものは完全には途絶えていない。

むしろ、大阪府から要点に至る場所があり、そことの連絡は

危険が伴うのを分かっていながら、流通する必需性があり

幾人かのそこに居る男たちは、その危険を周知してなお

流通を担当する運び屋なのだという。


「…大阪府、だけではないと?」

「こっからなら西に九州、博多か。あと一つ…東京か。三つ首都がある。そこへ各々の流通ラインがあり輸送するものがあったりするんだよ。まあ勿論無事にたどり着けるのが三割ぐらいじゃないか」


命がけ…という事だ。

確かに先ほど走行していた車道は、三年もたてば様々に朽ちてきそうなものだが

ある程度の舗装があった。

まだその程度の維持は出来ているだけだと思っていたが、そうではない。ここを利用する者がいるからこそ維持できている。

誰も利用していなければ、山道か、畦道位に酷かったかもしれん。


―…だが、目的地にたどり着けるのが三割。か。

その分、危険があるという事か。


「…」


そこが、「妙なのだ」




「っぷはぁ!ごっちそうさまでした!」

「ブフッ!?」


会話と思案でそんなに時間がかかっていないと思っていたが

見れば山積みの料理はまっさらになり、満足そうにしている鵜婆女が

全部…たいらげた。

まだ儂は自分の料理をそこそこにも口にしてないというのに。


「あれ、宗一郎様。食べないんですか」

「やかましい」


呆れて、遅れたが食事にするかと思ったその時。

有賀が一枚の紙きれをテーブルに置いた。

そこには、数字の桁が…えー…


「しめて、七万五千三百円になります」

「…」

「…」


儂が絶句するのはいいとして、鵜婆女が絶句しているのが分からぬ。

食べると申したのはお前だろうが。

というか、その表情よ。なんか怪しくて、まさかと思うが、その…


「鵜婆女」

「…てへ」




こやつ…やりおった。

どどどどどうするこの儂が手を付けようとしたこのこの料理をををを!

これだけでも返すか!今、いや、無理だし!現世に来てもこれ位は分る!


はっとして、儂はそっと頭上を見上げた。

そこには、しいて怖いと思っていなかった儂が久方ぶりに「怖い」と思った「顔」が。

鵜婆女もなんか言え!ってああもう無理!




「お客さん…もしかして」

「…ハ、ハイ…」


有賀の顔、怖ーい…よ


「落とし前は、つけんとあかんな」

「…」


鵜婆女の顔はなんかの叫びの絵のような、もう手の施しようがなく

儂はゆっくりと箸を置いた。


―無銭飲食、ここに在り…


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