第二章:三年に尽きた栄華よ
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干支が、三匹通る。世に。
―
「三年で、此処まで変わる世とはな」
少しぼやけた視界でも、様代わりの様子など簡単に分かる。
儂が居た時からたった三年の月日と聞いて、把握できる程度然り、それでも帝日が大きく変わっている事を理解する。
良い意味でならば、僅かでも感嘆を口にするか。
否、違うからこそ言葉を失う。
三年前
儂は、
―「あの世」に居た、はずだった。
「…」
変わり果てた光景に、黙すが楽か。
何か言えど聞くものは居らぬ。
「頼まれ」て、此度現世に来たが、知る事実も現象も、己が姿もまた変わり
最初に知った事は
「…お爺様」
両親を失い、赦す限り守ろうと誓った孫よ。
儂の跡を継がぬとも、如何様にも未来があったはずの孫よ。
名は、旭。
祓刃旭。
黒髪の慎まやかな女の子だった。
その子を、今や小さな「箱」へ仕舞い
背負っている。
―
「…」
荒廃した、見える限りの光景は
かつての栄華すら微塵もなく
命を賭してきた意味も、皆無に見えた。
ならば為すべき事もないのだろうが。
ー
儂、は
【ヒヒ…人間、ニンゲン…】
守り、通せてはいなかった。
【タベル…ナァ、タベル】
―赦さぬ―
しかと、煩わしきものよ
我が残響に、ついてこれるか―
【ザンッ】
その、異形が何を言いたかったかは知らぬが
勘は鈍るでもなし、最盛期に近し
太刀の一凪で真っ二つにした。
命にしては醜く、果ては汚くみすぼらしく
異物かなにかは分らぬが、周囲は汚れた。
太刀筋が、やや粗暴か。
「蔓延るものよ、次は穏やかであれ」
チンッ、と鍔が鳴り
斬った異形はただの異物になった。
まだ、この街に沢山居るのだろうな。儂には煩いのなきただの一抹だが。
露払いにもならぬ、もし仮に意があり死を望むならば
斬ったお前に
「蟻ごときが」と言おうか。
―
「…チッ」
そうだな、「全盛期」はその位であった。
白髪の、修羅。
白鬼。
それから、
―【怖い】―
「…」
それよりも、それよりも
儂が此度の現世に来たのは
こんな雑兵を斬るためではない。
―…ギリッ
眼に、力が帯びる。
雑に吹く風が、我が身を遠慮する。
此処が現世でも、儂には地獄。
地獄とて、為すべき事はある。
「…行くか、旭」
箱にある、孫を呼び
それを背負い、歩を進め
―聞いた話だ。
現世は地獄だと。
たった三年の月日に、何があったか見定め
そして、
―旭の、仇を見つけ出す。