表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗行白童  作者: 因幡猫
2/16

第一章:落日


薄暗くの先に、切り開く明り。

ある町の一角の、病室にて。

朝はもう暫くしたら。


夜明けとは、待たぬもの。

日暮れもまた、待たぬもの。


この世の中には、生きているもの全てに。

待てぬ何かは沢山ある。

止めようにも、それは万象への反逆。

望まぬものもまた、待たぬもの。


―何時だったか、祖父はそう言って。

やむなき事に蓋をするような話をしていた。



「病」だった。

もう、何も尽くせないほどに。

無知ゆえに分からない事は沢山あったが

それもまた、もう少し猶予とはいえぬ「待たぬもの」であった。


「旭…腕は、達者か」

「まだまだです。私など」


良く、祖父は

私などの拙い腕前を気にされていた。

幼少よりご指導賜り、見目には何とか

しかしそれでも驕りはしない。


「鍛錬は、続けています」

「善いことだ」

「ですが、私はまだまだお爺様に」


続けようとした言葉は

やむなく、私の手を握る祖父に遮られた。


都合で、止まる言葉を噛みしめて。


「…旭、すまぬな」

「…」

「太陽に待てというのと、月に早くと申すのと。大して変わらぬ無理な事はこの世に沢山ある」


そういうのを、死病というのか。

先は長くないと聞いていた。

少しずつ細くなる息に、日増しに弱くなる力。


それもまた、待たぬものであった。


「私は、独りでも」

「…」

「大丈夫です」


祖父の前では素直だったが、祖父が倒れてからは幾度も嘘をついた。

嘘だとわかっているだろうが、嘘が必要な平穏もある。


「…代々続く祓刃の家に、同じ血が流れていようとお前をよく思わぬものは沢山いる。お前が立派になるまでは儂が傍に居るつもりであったが」

「私の事など、気になさらず」

「生きづらい…であろうな」


―私の父は、祓刃の正当な血筋で

順当ならばその家系が認めた女性と結ばれるはずだった。

しかし気づけば知らぬ誰かと結ばれ、私が産まれ、それは異端とされた。

まだ両親がいる内は陰口で済んだが、父も「役目」の最中に亡くなり母も心労で亡くなった。

そして祖父が今まで異端である私を守ってくれていた。


その祖父が、危篤と聞いたのが

ついこの前のようで

今に、至る。


「御上の露払いとして、如何なる障害も斬る。その教えと力をこれからも正しく使って生きていきます」

「…」

「だから…お爺様…」

「儂の、顔に降るものは。斬れぬな…ふふ」


―降るものを、斬る。

それが我が家系の教えと使命。

降るものとは、御上の妨げになるものから、帝日の煩わしきまで。

その為に常に鍛錬を欠かさず、祖父と共に腕を鍛えてきた。


心も、鍛えて。


―と。


降るものを、斬る。

ならば眼から零れるものも、降るものとするならば

斬らなければいけないのに。




―止まら、ない。






「旭」

「…」


お爺様の眼は、この世にあらず。

魂も、やがて


「…朝、か」

「…はい」



それから


話は、続かなかった。



帝日の露払いとして生きてきた、偉大なる祖父にして祓刃家の当主はその日

ゆっくりと



命の幕を下ろした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ