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暗行白童  作者: 因幡猫
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[孤梅の島」第三話:霧

「お爺様!」


昔、稽古の途中でけがをした事がある。

無論その時は儂の油断が原因じゃった。

だからそのケガは、己の未熟たるもの…だった。


それでも旭は心配してくれて。

思いのあまり泣いてしまった。

それ以上に今まで自分が相手にして、傷一つつかなかった

儂に対して一本を取った時、子供の時だから

余計に恐怖を感じたのか、それで泣いていたのか。

儂としてはそれは一歩前進したとして、喜ばしい事なのだが。

その心配は、しばらく尾を引いていた。


子供だから、分からなかった。

だからいずれ、刀を手に取り

国の為に、命を賭ける。

一つの小さな強さは、それだけ嬉しくもあり。


また一つ、旭が背負うその使命の重さが増えた。





「…うっ…」


一瞬目が覚め、ぼんやりとした視界を見たが

殴られたのだろうか、後頭部が少し痛い。

あの時、確かに誰かの気配を感じ取っていて

それが「襲う」だろうと判断したから、儂はとりあえず

受けるふりをして負傷を減らすため、ある程度損傷を

ずらしてみたが…


「やはり、本気ではないか」


襲うと言っても、殺すほどの殺傷はない。

自分が急所にならないようにずれたとしても

だが、気を失わせるほどの必要性があったのだろう。

その分逆に下手だと思うような、痛みを感じたのだ。


「…よし」


ようやく起き上がり、手を見て動かす、足を動かす。

視界を整える。

支障はない。損傷も、さほど致命的ではない。

そして同伴していたもう一人、佐雪は近くで倒れていて

まだ意識を失っていた。


だとすれば、まあ儂が先に起きた分少し幸運だったのか。

佐雪の様子を見て、やはり傷は致命的ではなかったと安堵した。

特に苦しむ様子もなく、救急性を要さないと感じたから

儂がこの場所を把握するまで、佐雪をしばし近くの木元にて

休ませることにした。


「しかし…ここはどこだ」


周囲は霧が深く、数メートル先の視界はあまり良くない。

むやみに歩いては、道を迷うだろう。

霧が晴れるまで…と思ったが。それも何時になるかは分からない。

そもそも晴れる霧なのかは分からぬが。


「…」


あの世の様な、気がした。

でも、痛みがあるのだから、違う。


手を何回か動かして、息を整える。

眼を閉じて、周囲に気配を感じ取ろうとした。

しかしやはり、人の気配は近くにはない。

ならばむやみに動くよりかは、しばし状況が変わるまで

ここで大人しくするべきか。


「鵜婆女は、心配しているだろうか」


ああ見えて、些細な異変に敏感だ。

今頃探しているだろうが、そう狼狽しているとは思わない。

あの場所で、適切な行動をしているはず。

そう、恐らく儂らを襲ったのはあの淡路の人間だとしたら

幾分かあそこにいる人間はその事情を知っているはず。

だから儂らが失踪したとして、その行方を素直に聞いても

恐らく怪しまれる対象になるだろう。



「自力で戻れる環境であるならば…」


とは言え淡路に戻る術が分からぬ。

ここがどこかも分からぬのだから。

ただ潮の匂いは遠くにある。

先ほど居た淡路から遥かに、と言うほど離れていない。

そもそも先ほど儂らを襲ったのは、二、三人だとするならば

軽く考えて連行するとしても距離は大体限られる。

もし車を使ったとしても、自分の体内時計を計算して

そう長くは気を失っていないはず。


「ふむ…」


淡路についたときに景色を見て、内海の様子を少し見た。

多少、島があった気がする。

しかし全部は見てない。人が住めそうな島だったり、それよりも小さかったり。

妥当な線で行けば、その島のどれかにいるのだろうか。


「―」



静かな、呼吸。

闇は全ての命の動きを、肌で感じるほどに

自分が体感できる位、繊細さを増す。

むやみに動かぬその場に、一つ、二つ呼吸を重ね

ふと、暗がりの天を仰いだ。


「…」


穏やかな、風が

どうも二、三度

『巡り合う』ような。

決して二度と会わぬその去りきものを再び触れむ。

感じたことがそれだけだが、異様さを認識するには十分。


「さて…どうしたものか」


現状に、朧げな認識は出来たが

核心にはつながらない。

そうであろうな、と思うだけで別に糸口が見えるわけでもない。

まだ確かめねばならぬ、いくつか。そう思って

儂はまだ意識が戻ってない佐雪の傍の木の幹へ小石で傷を入れた。


「後はここから出る方法…か」


とりあえず、待つばかりで何もしないわけにはいかない。

幾分か時は経ち、体力は戻ってきた。

そろそろどうにか動くべきかと、佐雪の額を指弾きで小突いた。


「…っ」

「全く…さっさと起きろ」


もう一回、今度はさっきより強めに小突いた。

するとそこそこに痛かったのか、佐雪の目が開き

上半身を起き上がらせて、額の痛みを声もなく悶絶していた。


「って…おい!もうちょっと起こし方があるだろ!」

「刀でか?」

「そうじゃなくて…あ、あれ?」

「無いんじゃよ。取り上げられたかどうかは知らん」


お互いに、帯刀していたものは今はなく

此処に来た時に、襲った誰かが奪ったのか。

いずれにしてもその程度の事で、大事な刀を奪われるとは。

まあ情けないものだ。


「アンタもないんだな」

「お主よりかは先に意識が戻ったぞ」

「そういう張り合いじゃないよなー」

「喧しい。それより鵜婆女の元に戻る手段を考えねば」


このままこの場所で、談笑する余裕はない。

儂らは行く当てをすでに決めている。

まずはこの場所を認識し、そこから出る方法を探す。

刀がない、つまりは抵抗する術のない丸腰な状態だが

それでも行動せねば、道は一片も開かぬ。


「はぁ…てか、おれが気を失ってどれくらいなの?」

「数刻とは認識している」

「普通なんか…木々を集める、焚火をする、俺の気を使って水場を探すとかさ」

「佐雪の生命力を、儂はしっかり信じておった」


短く、簡潔に。分かりやすい美談。

佐雪は一つため息をついた。

まあ、そうしてもよかったのだが。意識が戻らなかった佐雪の傍に居る。

その方が「最善」だと思ったのだ。


「というか、なんで襲われて此処に居るんだ俺らは」

「まあ連れてこられた。と言う方が分かりやすい」

「だとしたら俺達は捨てられたのか、それともあの刀が欲しくて単純に襲って奪っただけなのか」

「儂はそのどちらでもないと思うがな」


云い刀だ、売れば値になるだろう。

そう言う輩が居てもおかしくない。

だが、今の「人」がそれを自覚しているようには、思えぬ。

ならば儂らが万が一つ、襲ったものの都合悪く、目を覚まし

抵抗する。その術を奪っただけだとすると


「捨てた、と言うよりかは。ここに来てもらう必要があるように見える」

「なんで?」

「刀が欲しければ、その場で襲ったのち奪って。それから放置する。手間をかける必要があるまい。それかあるいは殺す。こちらの方が難儀はしない。だがそのどれでもない」

「特に大けがもしているわけでもなく、此処に居るからってか?」


淡路から幾つかの群島があり、そこに儂らを置くにしろ

少しばかり移動にも難儀したはず。

まあ、小さな船でも使ったのだろう。それだけでも「そこまでする必要がある」のか

儂らの存在は何らかのこの場所に置いての「活路」に値するのか

それとも「そうせざるを得ない何か」があるのだろう。


「随分と俺達を襲った奴らの肩を持つような感じだよな」

「慈悲深くて申し訳ない」

「涙が出るね…で、どうする」



ザッ


佐雪との談笑が、一瞬で空気を断った。

周囲に目を向け、蠢くそれから間合いを取る。

素早く、早く。まだ姿を見せぬそれは

儂らの命が欲しいのか。


「どう思う」

「直感的に命を取るには、小さい」

「でもお互い刀もねーし」

「悩みは尽きぬな。では、捕らえるか」


佐雪と儂はその場を離れ、散開し

何らかの目的があろう「それ」に距離を置いた

一瞬気配の揺れを感じた、それは恐らく儂らに近づいた何かのものであろうが

という事は、想定ではない状況だという事だ。



ザッ!


木の枝が、軋む。

その行く先を、視認で捕らえた。

恐らく想定外で目的が揺らいだその隙。

儂はすぐさに佐雪に目配せをして、一瞬でも止まったそれに飛び掛かった。


―ガッ!


「キャッ!」

「!?」


―ッザザザザザッ!


捕まえる、にしては力が強すぎたのか。

それとも、相手の力が弱すぎたのか。

ある程度抗うことを想定して、飛び掛かった佐雪はその「誰か」と一緒に

捕まえたその場から見事に落下した。


「…」


先に起き上った佐雪と、寝転がったままの人影。

佐雪はすぐさま警戒の態勢を取ったが、姿を見て驚いた表情で

近づく儂を見た。


「…う、うう…」

「宗一郎、こいつ…」

「…」


それはまだ、幼さの残る。


「いっ…痛ぁ…ひどっ」

「失礼。子供と分かっていたら手加減をしたんじゃがな」

「何その変な口調」


一人の、女の子であった。

少し病気を患って、執筆が滞ってます。押忍

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