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暗行白童  作者: 因幡猫
15/16

[孤梅の島」第二話:気配

大橋を渡り、本土に上陸する前の、淡路のドライブイン…より多少広い

飲食もある程度用意されているパーキングエリアにて一旦

鵜婆女の車のメンテナンスを兼ね、そこで休憩をとることにした。

佐雪の居た所よりかは、少しまだ人気がある。

それは本土に近いからという理由もあるらしいが、この辺まで来て

たしか「蚋」には会ってない。


まあこの国にどれだけの蚋が居て、どの地域に闊歩しているのかは

知らないが、会わないに越したことはないのだろう。


「鵜婆女は?」

「色々調達するようでな」

「で、俺たちは?」

「付き合わぬのか?」


質問を質問で返され、苦虫を噛みしめたような表情をする。

不思議なものだな、自分が守れなかったものが三人もいるのに

今は表情が以前よりも鮮明に見える。

ドライブインに居た時は、薄暗かったせいなのか

なんだかはっきりと見えたり、渦が巻いたりしたようなそんな感じだった。


上手く、自分で「祓えた」のだろう。

勿論失った重しは、そう簡単には消えぬ。


「ふわぁ…で、何すんの」

「気が抜けているな、すっかり」

「元より大阪府に行くまでなんもわかんねーしな」


そこに行くまで気を張っても仕方ないという事か。

それもわかるが、ちょっとたるんでるな。

そう言って、ここでは無粋だろうと刀を取らず、その辺に落ちていた

木の枝を取って、佐雪に向けた。


「これが刀であったら、心臓をもう突いていた」

「宗ちゃんこわい」


誰が、宗ちゃんだ。



「佐雪、お前は崩し方として、相手を見た時何で見る?」

「え?何でって…目だろ」


そう、敵を認識するときは

大体目で見る。

でもそれは多くの割合であり、他にも別の形で

敵を認識することがある。


「…気配。だけで認識する場合もある」

「わざわざ目を閉じて?」

「分家の中には、比較的視力が弱い家系がいた。そういう人達は気配そのものを使う」


そうして目を閉じ、佐雪に視線の糸を張った。


「人の形は見えないが、人に備わる気配は見える」


気配を体感するのと

気配を見るのとはまた違う。

肌で感じる物質的な認識と、暗闇の先に捉える感覚的な認識。

確かにこの形で敵を捕らえる分家はそうそういないが

それだけでなく、その家元でなくとも視力の弱い者はそうしてきた。


「視覚では相手の見た目による情報を得る。だが気配ならば、その人間の力量についてフォーカスする」

「…なるほど」

「目を閉じて、儂の方を見てみろ。わずかでもぼんやりとそれを捕らえたなら、それは気配だ」


佐雪も目を閉じたのだろう、儂が感じ取る気配が少ししんとした。

うねるような気配、水の様に静かな気配、それはその時の相手にもよるが

相手がどのような状態であるかでも、また異なる。

今の佐雪の気配は、落ち着いている。



「…」


宗一郎の言いたい事は分かる。

見た目での技量で飛び掛かるより、相手の気配で技量を捕らえることもまた

対する時の基本なのだろう。

確かに見た目じゃ分からない時もあるし、その敵が弱そうに見えて実は内面凄く

つよつよだったりする。ってことなんだろ。


(確かに…今まで見た目だけで強い、弱いを把握していたのかもな)


でも、俺にとってはそれが普通で

今宗一郎に教えられて、その気配を感じ取ろうとするが


(これが、また…どういう答えなんだろうな)



うねるような、気配なのか

しんとした水面の様な気配なのか

それとも闇にスッと消える気配なのか


それともそれ以前に気配があるのだろうか。



宗一郎の気配は、読み取るのが難しすぎる―





「どうであった?」

「ぐにゃぐにゃしてた」


気配の読み解きを体感させてから、少し経過して

近くにある芝生にて休憩をとる。

鵜婆女の姿はまだ見えない。メンテナンスとやらに勤しんでくれているのであれば

それは彼女を信頼し、任せるよりない。


「目で見るより、気配を感じ取って把握する方が難しい」

「まあ、それに通ずる家系であれば問題ないのだが」

「俺にはその、露払いの分家がどれぐらいいるのか、しっかり知らねぇけど。そういう家があるってこと?」

「うむ…確か、元々視力の弱い。視力があったとしても…」


その時、一瞬

妙な気配を感じ取った。

敵意だろうか、いや。それは儂らよりかははるかに弱い。

だが、それはひたひたと。自らがばれてないと思ってか、そのまま儂らに距離を近づけている。


「…」

「(…宗ちゃん)」

「(…成り行きに、任せろ)」


簡単に意思の疎通を図り、そうしようとする意図がある何かを突き止めようと

儂と佐雪は気づかないふりをした。

しかし、刀は車に置いてある。露払いの命たるもの、油断をしたか。

それに…旭も置いてきている。


「(…何が狙いか)」


生家を出て、此度まで

さほど人に多くは出会っていないが

それでもそうする理由があるはずで、理由のない行動ならば

叩き伏せることも出来る。

二人…いや、三人。そやつらは儂らを。



―ガッ







「しばらくの間ここには蚋がいない?」


車のメンテナンスの休憩と

情報収取兼食料確保(自分の)をしていて

そこに居た人の一人に、気軽に話しかけた。

宗一郎様は慎重だから、知らなかった貞で話す方が

相手は警戒しない…と思います。


「ああ、この辺は蚋が出ていない」

「いない地域があるってことですか?」


確かに、私と宗一郎様は

あの時山道のドライブインにて、蚋と遭遇しましたが

その蚋がうろつかない区域があってもおかしくはない…と思います。

それとも蚋が斬れる露払いがいるとか、まあ佐雪様の件があるので

そうポンポンと露払いの生き残りがたまたま居て~…な結論に至るのも変な気がする。

まあ見た所そのような方はいませんが…


「まあ…蚋は、その…どっかにいるんだろ」

「そうなんですか~」


一瞬、言葉の揺れを感じた。

それはあまり踏み込むと、よくないぞ。という線引き。

此処にも何かありそうだと、会話を適度に切り上げて

宗一郎様の耳に届けるべきだと、その場を去った。


「確か、どこかで佐雪様と一緒だったはず…」


ああ見えて、宗一郎様も

佐雪様に対して、将来性を見たのかもしれません。

愚鈍だったり、才覚がなければ

相手にしない人ですから。

それは冷たさではなく、力量も素質も無ければ無理に露払いとして生きることなく

別の生き方もあろうという考えの事。

中途半端に自分が「出来る」と思い込み、それで死ぬ事への憂いをしていたの。


だから、佐雪様の事を邪険に感じないのは

それだけの器量を見たのでしょうね。


「で、宗一郎様と佐雪様は…」


駐輪している車には、宗一郎様と佐雪様の刀。

あまり持ってこの辺りをうろうろできないと、隠した状態で置かれている。

そして…旭様が入った箱。日向ぼっこが心地よさそうで。


でも、


「姿が…見えない?」


周囲を見ても、二人の姿は見えない。

車から少し歩いて、周囲を見回して



「…血の、匂い…」


一瞬、血の匂いがした。

そして、近くの芝生にて足を止めた。


「…宗一郎様…佐雪様…」


そこには

わずかだが


「血痕」があった。

押忍…仕事が忙しくて…すんません

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