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【書籍化】皇帝陛下の御料理番  作者: 佐倉涼@5作書籍3作コミカライズ
春来の祝宴

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伴代、やる気を出す

「おっ、お帰りなさい、姐さん。賢孝(けんこう)様の話は何だったんですか?」

「私には後宴で出す料理を作って欲しいから、祝宴の方は伴代(ばんだい)に任せるという話だった」

「へっ、えぇ!?」


 伴代は驚き顔で己の顔に人差し指を突きつけながら、「俺っ、お、俺ですか!?」と言っている。


「うん。だからあの場に、伴代も呼ばれたんだろうね」


 呼んだのだから賢孝の口から話してやれば良いものを、なぜ紫乃に言伝を頼んだのかは謎だ。伴代からすれば、終始己には無関係な話に呼ばれたと思ったことだろう。

 伴代は信じられないといった面持ちで呆然としている。


「俺が……姐さんの代わりに……!? 俺で良いんでしょうか」

「むしろ伴代以外の適任者はいないと思うよ。何せついこの間まで、夕餉(ゆうげ)の御料理番頭を勤めていたのは伴代なんだから」


 この紫乃の言葉に伴代は納得したようで、手ぬぐいを巻いた頭に手をやり笑顔を浮かべる。


「いやぁ、まさか、また祝宴を任されるとは思ってもいませんでした。お任せください。姐さんは、安心して後宴の方に全力を注いでください」

「うん、ありがとう。きっとじさまと旦那も心強いと思うよ」


 勝手が何もわからない紫乃より、長らく御膳所で働く伴代の方がよほど祝宴について詳しいだろう。


「今回の祝宴は、私は勉強として下働きさせてもらうよ」

「姐さんが下働きとは恐れ多いですけど……」

 

この伴代の言葉に紫乃は首を横に振った。

私には知らないことの方が多い。御膳所の(くちや)が一体となって働く祝宴の準備、この目でしかと見て、覚えたい」

 

それが、御料理番頭として御膳所で働く、自分の責務であるはずだから。

 紫乃の思いを受け取ったのか、伴代をはじめとする夕餉の厨の面々は温かい眼差しで紫乃を見、「そうと決まれば忙しいですよ!」と言った。


+++

 

 後宴の準備。

 紫乃はそれをたった一人でこなさなくてはならないのだが、かといって他の御膳所の御料理番たちと意思疎通を図る必要もある。

 春来の祝宴で出される献立とは違うものを作る必要があるため、じさまと旦那、伴代に一体何を作るつもりか聞かなければならないし、調達番にも使う食材などを確認する必要がある。

 総数七人の内々の宴と聞いていた。五百人には比べるべくもないが、それでも一人で何品も作るには少ないとは言えない人数だ。

 期待に応えなければ、料理番としての名が廃る。

 紫乃は翌朝、起きてから蔵の前に行くと、既にいたじさまと旦那に声をかける。


「おはよう」

「おはようさん。やる気に満ち満ちておるのう」

「うん。やるからには美味いものを作りたいから」

「その意気込みじゃて」


 ほっほっほとじさまが楽しそうに笑っている。旦那もわかったようなわからないような、相変わらず何を考えているか読めない顔で頷いていた。


「祝宴の献立はいつ決めるんだ?」

「そうさのう。調達番を交えて、今日あたりから決めていくかのう。のう、昼餉の?」

「……そうだな」

「夕餉の、お前さん伴代に伝えといてくれんか。昼餉の支度が終わったら厨で話し合いをすると」

「わかった。今日の夕餉の支度から伴代は外すから、三人で存分に話し合ってくれ」

「そりゃありがたい」


 にこりと笑い、じさまの白い口髭が揺れた。昼餉の旦那も了承の意を示してくれたので、ひとまず本日の御膳の支度に取り掛かるべく、三人は都から届いた新鮮な食材を見繕い始める。


「やあ、おはようございます」

「あれ、伴代」


 荷車を眺めていた三人の元に伴代がやって来た。


「どうしたんだ?」

「いやぁ、祝宴の献立を考えるにあたって、どんな食材が荷卸されているのか見といた方がいいと思いましてね」


 紫乃が問いかけると、手ぬぐいを巻いた頭に手をやりながら伴代がそう答えた。


菜花(なばな)独活(うど)(せり)(わらび)(はまぐり)浅利(あさり)白魚(しらうお)……(うずら)もあるな。じさま、旦那。ちょうどよく浸かった梅があるから、梅肉和えはどうだろう?」

「良いのう。わしは(うずら)を使おうかと考えとる」

「俺は……(わらび)と浅利だ」

(かつお)もあるな。五の膳は刺身が乗るから、鰹の刺身にしようか」


 三人が話し合いを進める中、紫乃は手を上げる。


「後宴で出す肴に、独活(うど)(はまぐり)を使ってもいいか?」

「おう、そりゃ構わんが。お前さん、何を作るつもりじゃて」


 紫乃が答えると、じさまはうむむと唸った。


「なるほどのう……」

「いい考えだと思う」旦那も賛成する。


 あれやこれやと意見を言い合い、なんとなくの食材の目安はついた。

 じさまは口髭をいじりながら、枯れ木のように細い脚をプルプルとさせ、空を見上げる。

 春先ともなれば明け六つを過ぎると日が昇るのも早い。

 既に空は青くなり、朝の訪れを感じさせていた。


「さて、早いとこ戻らんと朝餉の準備に支障が出る。わしはもう行くぞ」

「俺もだ」


 じさまと旦那が去って行き、紫乃は夕餉に使う食材は何にしようかと思案する。

 隣に伴代がいるので相談をし、決まった。

 本日は(すずき)の塩焼きを焼き物に、芋茎(ずいき)の酢の物、鶏団子の煮物を出そう。

 そうと決まれば、自分達の朝餉である。

 夜に毒味でたらふく食べているので、朝餉は簡単なもので済ませている。準備が直ぐ出来るのが良い。使用人宿舎に戻ると、既にそこには朝餉を食べている他の使用人たちの姿があった。

 雨綾(うりょう)病についての通達があってから、この使用人宿舎での朝餉の風景も少し変わった。

 大盛りの白米をこれでもかと食らっていた男たちが、今は白米の上に焼いた肉を乗せ、塩を振った「肉丼」を食べるようになっている。そして付け合わせとして青菜の煮浸しや野菜の入った味噌汁も啜るので、栄養状態は以前より向上しているそうだった。

 難点としては、これらを用意するのが御膳所の人間になるので、今まで使用人達が適当に作って食べていた食事を(くりや)の御料理番が交代で作る羽目になってしまったという事だろう。

 しかし御膳所には何十人もの御料理番がいるので、まあなんとかその日に手が空いている人間で回していた。

 そんな訳で紫乃と伴代が使用人用の厨に行くと、既に準備されていた朝餉を盛り付け、足付きの御膳に乗せて座敷に座る。

 すると隣で朝餉を食べていた男に伴代が話しかけられた。


「よぉ、伴代! もうすぐ春来の祝宴だな!」

「あぁ、今献立を決めている所だ」

「腕がなるんじゃないかぁ? お前さん、毎年毎年この季節になると張り切ってるもんな。あ、でも、今年は総指揮を取るのはそっちのお嬢ちゃんになるのか」


 この問いかけに伴代は肯定も否定もせず、箸を手に取り雨神様に祈りを捧げた後、朝餉に手をつけた。もぐもぐと飯を食いながら、返事をよこす。


「まぁ、御膳所内部の話は機密事項だから色々言えないが、今年も面白くなりそうだ」

「俺たちも運び番も大忙しだ。何せすげぇ量の食材が運び込まれてくるもんだからな」


 男は当日を思い浮かべたのか、腹の底に力を込めると「うし!」と言って一気に丼をかきこみ、そして膳を持って立ち上がった。


「じゃあまたな!」

「おう」


 伴代は味噌汁を啜りながら手をひらひら振り、男を見送った。

 男が去った後も入れ替わり立ち替わり使用人がやってきては祝宴についてのあれこれを話してくる。それを聞きつつ朝餉を終えた紫乃と伴代は、宿舎を出て御膳所へと向かった。


「……春来の祝宴って、一大行事なんだな」

「そうですよ。大きい行事ですから、俺たち御膳所の人間は勿論、貴人を出迎える女官も掃除をする下男下女も、荷物の取次をする運び番も皆が寝ずに働き通すんです」


 言って伴代は天井を見上げ、遠い目をした。


「昔、俺が御膳所で働き始めたばかりの頃を思い出します。祝宴の下準備の真っ最中に眠くてたまらなくなって、厨の座敷で芋の皮を剥きながら眠ってしまった事があったんですよ」

「どうなったんだ?」

紅玉(こうぎょく)様に頭どつかれて、目を覚ましました。『料理中に寝るな!!』と一喝されて、そりゃもう恐ろしい剣幕でしたよ」


 当時を懐かしむように目を細める伴代。 

 話を聞いた紫乃は、その状況がありありと想像できた。


「包丁を持ったまま眠ったら危ないからな」

「わかりますか? 俺は当時、仕事中に眠っていたから怒られたんだと思ってたんですけど、違ったようで。紅玉様は厳しくも優しい、真の料理番だったんです」


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