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【書籍化】皇帝陛下の御料理番  作者: 佐倉涼@5作書籍3作コミカライズ
まじないの飴

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凱嵐、羨ましがる

「俺が一日留守にしていた間にそのような事件が起きていたとは」


 翌日、天栄宮(てんえいきゅう)に帰ってきた凱嵐(がいらん)は昨日に起こった事件のあらましを聞きそんな感想を漏らしていた。

 話の内容が内容なだけに夕餉(ゆうげ)(くりや)は人払いがされていて、いるのは紫乃と大鈴(だいりん)、花見、凱嵐、賢孝(けんこう)のみである。

 凱嵐は居並ぶ面々を見つめ、言う。


「何にせよ一日で犯人を捕まえるその手腕、見事であった。他の協力にあたった者たちにも感謝の言葉を伝えよう」

「恐れ多い事にございます」


 賢孝が頭を垂れて恭しく凱嵐の言葉を頂戴する。

 凱嵐は鹿肉の角煮を箸で崩しながら、残念そうな顔をした。この鹿肉は凱嵐が土産としてたっぷり持ち帰ってきたものであり、朝から御膳所の面々が捌いたものだ。新鮮な鹿肉を時間をかけて角煮にしたので、箸を少し入れるとほろりと身がほぐれる。上にのせた(ねぎ)と共に食べると、なんとも言えない濃い味わいに癖になること必至だった。


「しかし、俺も稲荷寿司を食べてみたかった。山葵菜(わさびな)が入ったものは口にした事がない故、興味がある」

「美味しゅうございましたよ」


 この受け答えに、凱嵐は箸を咥えたまま目を丸くした。


「賢孝、もしやお前は食べたのか」

「ええ。御料理番に是非にと勧められたので。ピリリとした辛さが癖になる味わいで、酒が欲しくなりました」

「狡いぞ、賢孝。俺も紫乃が作った稲荷寿司を食いたい」

「何を子供のような事を…………命じれば作ってもらえるでしょう。紫乃は陛下の御料理番なのですから。紫乃、陛下が駄々を捏ねていらっしゃる」


 言われて紫乃はくすりと笑った。

「賢孝様のおっしゃる通りです。お望みであれば明日の夕餉にご用意いたします」


 その様子を見て凱嵐はますます不思議そうな顔をしながら、紫乃と賢孝を見比べる。


「お前たち、いつの間にそのような会話をするほどの仲になった? 水と油のように相容れぬ様子だったじゃないか」

「共に宮中を騒がせる事件を解決した者同士、通じ合う何かがあったのです」

「賢孝、お前の口からそのような言葉が聞けるとは思わなかった。が、二人が仲良くなったのであれば、俺にとっても嬉しい。これで気兼ねなく(くりや)に顔を出せると言うものだ」


 凱嵐は口の端を持ち上げて笑いながらそう言うと、麦飯のお代わりを紫乃に命じた。


+++


 厨での食事の後、正殿までの道のりを歩きながら凱嵐は賢孝へと話しかける。顔つきは嬉しさを隠しきれておらず、口角が持ち上がりっぱなしだ。


「賢孝、お前もようやく紫乃の力を認めたか」

「はい」


 あっさりと肯定する賢孝は、あれほど紫乃を認めるのを嫌がっていた男と同一人物とは思えない。付き合いの浅い者であればこの手のひら返しに驚くだろうが、凱嵐は賢孝と旧知の仲なのでこの態度も予想通りだった。

 賢孝は疑り深く滅多に人に気を許さないが、一度才能を認めた者には相応の態度をとる。

 つまり凱嵐が留守にしていた一日の間に紫乃は賢孝が認めるほどの事柄を成し遂げたということだ。


「紫乃は宮中に不穏な飴が持ち込まれたことにいち早く気がつき、犯人確保のための策を練り、労を惜しまず働きました。これを認めずして如何しましょう」


 元より雨綾病(うりょうびょう)の原因を突き止めたという功績もあった。二つも立て続けに難題を解決したとあっては、堅物の賢孝の心を動かすのに十分だ。


「…………得体が知れない部分はありますが、陛下は良い拾い物をなさいましたね」

「俺は人との出会いに恵まれているからな。お前や大鈴然りだ」


 紫乃の正体は未だわかっていないが、彼女自身が悪い人物であるとは思えない。ならば紫乃がどこの誰であろうと、全力で守るのみである。


「さあ、明日からも忙しいぞ。何せ『春来(しゅんらい)の祝宴』がもうすぐ迫っている」


 春来の祝宴とは真雨皇国(しんうこうこく)の三大行事の一つであり、国中と諸国の王侯貴族を集めての大宴会が天栄宮で催される。


「招待客の一覧化はお任せくださいませ。今年も白元妃(はくげんぴ)様により随分と客が増えそうではありますが…………」

「構わぬよ。あぁ、しかし、御膳所の面々が困るか」

「何とか五百人には収まるよう努めます」


 月明かりの下を歩きながら二人は会話を交わす。

 天栄宮は正殿群の寝殿に差し掛かったところで賢孝と道を別にし、凱嵐は一人寝殿の己の私室へと向かった。

 部屋に入り完全に一人となったところに、天井から一つの影が降って来て音もなく凱嵐の前へと降り立った。


「流墨、どうした」

「急ぎお耳に入れたい用件がございまして」

「話せ」

「はい。……先先代の御料理番頭、紅玉に関して判明した事実がございます」



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