【昔話】出会い①
大鈴は、生まれながらに疎まれていた。
女性というのは小さい方が愛らしいという風習が根強く残る村にて、大鈴は生まれた時から大柄な女児だった。おまけに泣き声も大きく、まるで男の子のよう。
だからつけられた名前は「大鈴」。普通、「小鈴」などと名付けられるところを、皮肉をこめて「大鈴」だ。
成長も早かった大鈴は、同年代の子供の中で誰よりも大きく育ち、それがまた両親の気に障った。
ーーお前はちっとも可愛げがないね。背ばかりが大きくなり、飯の消費も激しいったらありゃしない。
ーーこんなに図体がでかい娘に、嫁の貰い手などあるものか。
ぶつけられる心無い言葉に、大鈴は歯を食いしばって耐えた。認められようと必死になって家事も村の手伝いも積極的にやった。
しかし両親を筆頭に誰も大鈴を認めず、ただの雑用係としか見てもらえない。
そんなある日、村に盗賊団がやって来た。
ありったけの食糧と金品を奪った盗賊団は、逃げ損ねた大鈴に目を付ける。
「…………まだ子供だが、結構な上玉じゃねえか」
「ひっ」
盗賊の頭は大鈴に目をつけて、攫って行った。小屋に隠れてこちらを窺っている両親と目が合ったが、父も母も大鈴を助けるために表に出てくるようなことはしなかった。
十歳の時に攫われて、約半年。
その間の生活は思い出したくもない日々だった。
ただひたすらに盗賊たちに弄ばれた大鈴は、涙が枯れ果て、心はほとんど壊れていた。
死にたいと何度も願い、どうすれば死ねるのかとただそれだけを考え続ける毎日。
そんな日々に終止符を打ってくれたのは、凱嵐だった。
移動を繰り返す盗賊は、ある時剛岩近くに拠点を移していた。
その根城にたった一人で乗り込んできた少年は、凄まじい勢いで暴れ回り、盗賊団を壊滅に追いやった。大の大人を圧倒するその様はまるで鬼神のようであり、大鈴は彼に釘付けになった。
血飛沫と阿鼻叫喚がおさまると、立っていたのは少年ただ一人。
奥の牢に捕らえられていた大鈴に目を留めると、鉄格子をこじ開けこちらに手を差し伸べてくれる。
返り血をべったりと浴びた少年は、大鈴の様子を見て痛ましそうに顔を歪める。
おそらくは大鈴より年下であるのに、その表情はひどく大人びて見えた。少年は這いつくばる大鈴に目線を合わせるようにしゃがみ込むと、優しい声音で話しかけてきた。
「大丈夫か?」
「あ……」
「酷い有様だな。立てるか?……無理そうだな。よし、おぶってやる」
少年は大鈴の返事など聞かず、大鈴の腰と肩に腕を回すと持ち上げ、そのまま器用に背中にしがみつくよう移動させた。
大鈴は背が大きいのでおぶさると少年の姿がすっぽり隠れてしまう。
「あの、歩けるから!」
「そうか? 無理するな。ずっと捕らえられていたのだろ」
「ですが……! あたし、大きいし重いので!」
「んん? 重さは感じないが。それに、女子というのは大きいくらいが丁度いいだろう」
今しがた盗賊を殲滅させた少年は、全く疲れを感じさせない軽快な口調と足取りで大鈴を背負ったままに根城を出た。
外に繋いであった馬に大鈴を乗せると、自分は前へと乗り、「しがみついていろ」と短く言って馬を駆る。
大鈴は少年の腰に腕を回し、馬から落とされないように抱きつきながらおずおずと口を開いた。
「あの……」
「ん?」
「ありがとう……ございます」
すると少年は馬を走らせたまま振り向いて大鈴を見ると、実に少年らしい快活な笑顔を浮かべ、言う。
「良いんだ。もっと早くに助けてやれなくてすまなかった」
この少年はなぜ、出会ったばかりで助ける義理などない自分に向かってそんな風に謝罪できるのだろう。
大鈴は少年の肩にそっと額を乗せると、呟くように言った。
「あたしみたいな可愛げのない女に、そんな風に謝らないで」
「何?」
「わかってるの。あたし、大きくてちっとも女らしくないって、家族からも村の人からも邪険にされてたから。だから盗賊に攫われた時も、誰も助けに来てくれなかった」
少年は大鈴の言葉を聞くと、今度は鼻の頭に皺を寄せてふんと息を吐き出した。
「俺の生まれ育った土地では、大柄な女子ほど重宝されるぞ。『剛岩に生きる者は男女関係なく、強く逞しくあらねばならない』というのが教えだからな。それに、お前が大柄なら俺の姉の風呼なんて巨人になってしまう」
それを聞いた大鈴は、瞳をぱちくりさせる。少年はなおも言葉を続けた。
「大柄なのは悪いことではない。誇りに思えよ。……そうだ、名前は?」
「大鈴」
「いい名前だな。俺は凱嵐」
少年は馬を駆りながら、弾むようにそう言った。
いい名前、などと言われたのは初めてだ。「大鈴」という名前は、両親も村人も、盗賊さえもが蔑みの声音で口にしていた。
「いい名前かな……」
「ああ。俺は好きだ。気に入った」
凱嵐の掛け値なしの言葉が大鈴の胸の内に染み込んでいく。
小さくとも頼もしい凱嵐の背中を見つめ、大鈴は視界が涙で滲んでぼんやりしていくのを感じた。
袖口でそっと涙を拭うと、小さく鼻を啜る。
(なんてあたたかい人なんだろう)
まるで春の陽光のように眩しいお人だ。
大鈴は今この時より、一生涯を目の前に少年に捧げようと、心に誓った。





