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【書籍化】皇帝陛下の御料理番  作者: 佐倉涼@5作書籍3作コミカライズ
雨綾病

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小鬼

「……何者だ」


 振り向いた凱嵐(がいらん)につられるように紫乃が目を向けると、そこに蠢いているのは、人ならざる姿の者たちだった。

 子供ほどの背丈の、浅黒い肌を持ち、鋭い爪と牙を持つ鬼。発する気配が只者ではないのは紫乃にもわかる。ざっと数えて三十匹はいそうだった。


「小鬼か」


 凱嵐の問いに答えず、小鬼たちは散開し、素早く紫乃と凱嵐を取り囲んだ。そして一気に距離を詰めてくる。


流墨(りゅうぼく)


 凱嵐は左手で紫乃を抱き寄せたまま、誰かの名を呼んだ。すると一人の黒い着物を纏った人物が風のように輪の中に割って入り、凱嵐に彼がいつも携行している剣を投げ渡す。

 握り様に抜刀した凱嵐は、紫乃を左手のみで抱えると、流墨と共に一直線に駆け出す。


「一点突破だ」

「はっ」

「紫乃、俺の首に手を回せ。目を瞑っていろ。舌を噛むなよ」 


 短い命令に、紫乃は言われた通りにした。首に手を回すと体勢が少し安定する。紫乃の腰に回された凱嵐の腕に力がこもる。まるで絶対に紫乃を離すまいとでも言っているかのようだった。

 目を閉じた紫乃に目の前の光景はわからなかったが、剣戟の音と小鬼がうめきを上げる小さな声が聞こえ、ますます固く目を瞑る。

 猪や熊の解体で血飛沫には慣れているとはいえ、妖怪のそれとなるとまた別だ。見なくていいなら、見たくはない。


「紫乃ぉ!!」


 建物が壊れる音と、聞きなれた声がして、不意に紫乃は目を開ける。

 ちょうど花見が隔離小屋の扉をぶち壊し、こちらに向かってくるところだった。


「花見っ!」

「おいイィぃ、テメェら、ワテの紫乃に何してやがるっ!」


 怒りに燃える花見は着物の裾を翻しながら、怯む事なく小鬼の群れに突っ込んでいった。迎えた小鬼が爪を構えて花見に襲いかかったが、花見が万力の力で握ると逆に腕がへし折られる。


「ギャギャギャッギョ!!」


 意味不明な甲高い叫びを上げる小鬼に構わず、花見はそのまま軽やかに跳躍しながら小鬼を蹴り飛ばした。

 花見の飛び蹴りを食らった小鬼はそのまま後方に吹っ飛んでいき、別の小鬼にぶち当たり、それでも勢いを殺さずに最終的に二匹は木に叩きつけられる。

 ミシミシと音を立てて木が揺れ、二匹は動かなくなった。

 完全に子供の外見である花見から思いもよらない攻撃が繰り出され、小鬼は怒りが爆発したらしい。標的を凱嵐(がいらん)から花見へと変えて襲い掛かる。


「小鬼如きに、ワテが殺されるか!」


 ギラギラとした瞳で、花見は迎撃の態勢に入った。花見の乱入により場が大いに混乱する。

 その隙を凱嵐は逃さなかった。

 体勢の崩れた小鬼たちに一気に攻撃を畳み掛け、一匹、また一匹と倒していく。その勢いに紫乃は思わず目を瞑るのを忘れて見入ってしまった。

 凱嵐の剣さばきは素人の紫乃から見ても凄まじく、力強さと流麗さを兼ね備えていた。凱嵐の大柄な体躯から繰り出される繊細で素早い攻撃に、小鬼たちはジリジリと押されていく。

 先ほどまでは背後を気にしながらの戦闘だったが、花見が来たことで状況が変わっている。紫乃というハンデを負っていて尚、凱嵐と花見、そして流墨の三人は攻勢を強めた。

 とうとうあと一匹にまで追い詰めた時、紫乃の視界に何かが掠めた。

 それは、近距離での戦闘から目を離した紫乃の、偶然目に止まったものだ。

 隔離小屋の木の上できらりと何かが光り、恐るべき速度で飛んでくる。反射的に紫乃は声を上げた。


「後ろ、危ない!」

「…………っ!」


 紫乃の声に反応した凱嵐が振り向く。飛び出した何かは真っ直ぐに凱嵐に向かって来ていた。それも数が多い。

 花見も流墨も、凱嵐からは距離があり援護に入れない。

 その何かは凱嵐に差し迫っていた。凱嵐はすぐさま体勢を整え、恐るべき反応速度で剣で弾き飛ばした。地面に小指の爪ほどの大きさの針が落ちる。

 しかし二射目、三射目と続く連射に段々と凱嵐の分が悪くなってきた。

 花見が射撃犯を捕らえようと走り、流墨は凱嵐の手助けをしようと走る。

 しかしそれよりも針が凱嵐に迫る速度の方が早かった。

 このままでは、眉間を穿つ。

 陛下、と流墨が呼び、花見が隠れている刺客を仕留めようと恐るべき速さで肉薄する。

 全ての映像がゆっくりと紫乃の目に映る中、もう一つ何かが飛来してくるのを、紫乃は確かに見た。

 ギィンと鈍い音がして、針が弾き飛ばされる。


「ニンゲンが隠れてやがった!」


 同時に花見が隠れていた刺客を見つけ出し、木の上から引き摺り下ろした。

 どざっと鈍い音がして刺客が花見の蹴り一発で地面へと沈む。続けて木の上から降って来た花見が、そのまま刺客の鳩尾を殴りつけた。ボキィっと骨の折れる音がし、花見は一方的に刺客を殴り続け、とうとう動かなくなる。

 唐突に辺りを静寂が支配した。


「終わったか」


 まだ隠れている刺客がいないかと油断なく周囲を警戒していた凱嵐と流墨はようやく武器を収める。そして肩に入っていた力を抜き、短く息をついた。


「あの、終わったなら降ろして欲しい」


 紫乃が凱嵐の胸元を叩いて言うと、あっさりと解放してくれた。


「何だったの、今の……」

「俺を狙った刺客だ。いつもの事さ。今回は下等妖怪が使役されているパターンだったな」

「いつもの事なのか?」

「俺が出かけると、大体刺客が放たれる」


 あんまりな事実に紫乃は言葉を失った。この人は出かける度に命の危機にさらされるのか。住んでいる宮殿では毒殺の脅威に怯え、外出すると刺客の脅威に晒される。なかなか、ハードな人生だ。


「ところで、最後に飛んできたこの針を弾いた武器だが……」


 凱嵐は動かなくなった刺客には興味を示さずに地面に転がっている針と、既のところでそれを弾き飛ばした物体を見つめる。流墨も隣にやって来た。


「これは、影衆が使う暗器ですね」

「やはりそうか」


 流墨の言葉に凱嵐が頷く。

 しかしそれに紫乃は見覚えがあった。


(あ、これ)

「にゃ? これって、黒羽(こくう)が使ってたやつじゃん」


 紫乃が何かを言う前に、刺客をボコボコにして返り血を浴びた花見が近づいてくるなりそう告げる。

 ギョッとしたのは凱嵐と流墨だった。


「黒羽……!?」

「それは本当の話なのか!?」


 その二人のただならぬ様子を見て、紫乃は思った。


「にゃ?」


 首を傾げる花見が、取り返しのつかない失言をしてしまったという事に。


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