昨年11月に夢で会った人を探してます。
『昨年11月に夢で会った人を探してます。』
という文章をインターネットで呟いたら、変な人がたくさん集まってきて、それは私だとか、俺だとか、色々言ってくれて賑やかだ。
みんな、色とりどりの思惑を持って言葉を書いてくれて、文字から感情が透けて見えて、うるさいくらいだ。
この人は私を女性だと思っている。
この人は私を可愛い14歳の少年だと思っている。
加工した写真を見て、どきどきしているけれど、その写真が何を写しているのか見ようとしない。
この人は私に服を着せたがっている。
分厚いコートに、派手な色のマフラー。
あっちの、私の服を脱がせたがる人と、真反対の思惑と感情。
見ていると頭がくらくらしてくるよ。
昨年11月に夢で会った人のことを聞いてくれる人は誰もいない。
『もしかしたら探し出せるかもしれないからここにメッセージをちょうだい』
そう言った人はみんな私の個人情報を根掘り葉掘り探ってくる。
特定しようとする相手の実在を考えたことはありますか?
もしかしたらそれはBotなのかもしれませんよ?
そう言ってあげたいけれど、私も夢で会った人の実在を疑い始めているから説得力がない。
何せ夢で会った人は私のことを改造したいと言っていた人だから。
『ちょっとだけでいいからお尻の皮をめくってもいいかな?
大丈夫だよ。
人間の皮膚だとそこが一番分厚いから。』
『じゃあちょっとめくっちゃう?
でもめくった後、どうするの?
そのままめくりっぱなしじゃ恥ずかしいよ?』
『大丈夫だよ。
捲られたところから定期的に特定の薬品を筋肉注射できるオートマチック・インジェクション・モジュールを固定するから。
何だろう、どう言えばいいかな?
ちょっとしたタトゥーみたいなもんだよ。
ほら、海外のモデルとかがよくやってるやつ。』
『何それ怖い。
それをつけたらどうなるの?』
『きっとみんながかっこいいって、君のお尻を見て言うよ。
ちょっとそこだけとんがってて、なんて君はかっこいいんだって。』
もちろんそんなモジュールがついた私はかっこよくない。
夢の中の私はお尻に大きなサイコロを付けられてしまっていた。
タトゥーとは似ても似つかない立体的で重厚で嵩張る奇妙なシリコン製の、今時アナログゲームの備品としてもついてこないような、大人の拳大のサイコロだ。
あまりにも主張するサイズだったので、私はそれを隠したくて、サイズの大きい服しか着れなくなった。
そうして着た服をできるだけ見栄えがするようにして、画角を考え、スマートフォンを構えて、顔が映らないようにして私は笑い、シャッターを押す。
ぱちり、と撮れた画像の中に、オートマチック・インジェクション・モジュールは見えなくなっている。
インターネット上で画像が拡散していく。
『昨年11月に夢で会った人を探してます。』
私は念のため、もう一度メッセージを付け直す。
そうしたらきっとあの人はもう一度私の夢に現れて、私に言ってくれるはずだ。
『もう一度、君のことを改造させて欲しい。』
『ああ、もう一度君のことを改造して、体中にシリコン製のモジュールを貼り付けて回りたい。』
『きっとみんながかっこいいって、君の体を見て言うよ。
色んなところがちょっとずつカクカクしていて、なんて君はかっこいいんだって。』
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「…っていう話を考えたんですけど、実際そういう改造ってできるんですかね?」
「いやー、面倒くさいからやめといた方がええんちゃう?
せめてボディピアスあけるくらいに留めとかんと、改造じゃすまなくなるって、今日日。」
「なるほど。
実際、技術としては既に確立されているから、結構いけるもんだとばっかり思っていたんですけどね。」
「技術として確立されているとか、理論上はいけるはずとかっちゅうのと、実用化までの間には超えなあかん谷がいっぱいあんねん。
物事の本質見誤ったらあかんで。
ほい、そんでこれが今週の飲み薬な?
飲み忘れんようにきちっと管理するように。
君の場合、ちゃんと飲んどかな、また変な夢見て、大変なことになってしまうさかいに、ちゃあんとやらんとあかんで、ほんま。」