第7話 シスターの「自信作」? それとも「罰」? (ちょっと、辛すぎる気が。。。)
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《生徒による清掃のお知らせ》
<実施者>
宮野 由香里(2年2組)
<清掃箇所>
北棟3階トイレ(男子用、女子用)
<期間>
月 日より1週間
<時間帯>
毎放課後、各箇所30分程度
<注意事項>
清掃中もトイレは使用可能ですが、清掃の妨げにならないように配慮をお願いします。
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「これって、、、。」
思わず声に出てしまった。疑問が沢山わいていた。「何でトイレ掃除?やっぱ、ここが『宗教』だから?」、「こんなことをして、私の悩みが解決されるの?」、「『トイレ(男子用、女子用)』って、男子トイレの掃除までやらなきゃいけないの?痴女と間違えられたりしない?」などなど。
しかし、私がその疑問だらけのプリントから目を上げて見たシスターは、まるで「とても良いアイディアでしょう?」とでも言いたげに、優しい表情で私を見ていた。そんなシスターを見て、私は自分の疑問をぶつけることが出来なくなってしまった。
それに、さっきまで自分の中でわいていたはずの数々の疑問についても、自分の中で段々と「答え」が見えて来ていた。
掃除場所が「トイレ」である理由は簡単。私達の学校のトイレは、ほとんど掃除されていない。北棟3階トイレの掃除担当は、本当は私達のクラス。でも、高校生ともなると掃除なんて真面目にやる人はほとんど居ない。小学校の頃の様に「当番表」の様な物も無いので、気が向いた生徒が適当に目立つゴミを拾ったり、ゴミ箱が一杯になったら一応捨てに行くという程度で済ませていた。トイレが掃除箇所に入っているのはみんな知っているはずだけれど、進んでトイレ掃除をやりたい人など居るはずもなく、誰もが見てみぬふりをして手を出さずにいた。だから北棟3階トイレは、今、実はちょっと悲劇的なまでに「汚い」のだ。そんな実態をシスターも知っていたのかも知れない(あのお調子者の奈緒が喋っちゃった可能性が「大」かな?というか、きっとそう!)。
2つ目の疑問「私の悩みが解決されるのか?」も、多分答えは「Yes」なんだと思う。この「《生徒による清掃のお知らせ》」は、本来的には「いつもやってない掃除ですが、今度ちゃんとやりますよー。」という、ただそれだけの「お知らせ」だ。でも、私が放課後、すっかり汚くなったトイレの掃除を一人でやっていて、しかもそのことが職員室前の掲示板で告知されていたとしたら?その様子を見た多くの人はきっと、私が何か悪い行いをして罰掃除をさせられていると思うだろう。その時、その人の中での私は「優等生」ではなく「罰掃除をさせられた人」になり、私は念願どおり「優等生のふり」から解放されるのだ。
そうなると3つ目の疑問「男子トイレの掃除」の意味も簡単だ。私が「優等生のふり」をしてきた対象は、もちろん女子だけではない。男子にも「優等生ではない私」を知ってもらって初めて、私はやっと「優等生のふり」から解放される。職員室前の掲示板での事前告知までされたら、痴女と間違えられることも無いだろう。
時代劇の「ほうほう。おぬしも悪よのう。」ではないけれど、この「《生徒による清掃のお知らせ》」は、それなりに考えられている、そう思えた。最初に見た時は驚いたし疑問もわいたけど、それらの疑問は全て自己解決してしまった。
それでもどうしても聞いて見たいことがあって、それについてだけシスターに聞いてみることにした。
「これは、私への『罰』なんでしょか?」
別に、罰を受けなきゃいけないような事をした覚えがあるわけでも無いのに、なんでそんな事を聞きたくなったのか?自分でも不思議だった。そしてその質問に対するシスターの回答もまた、不思議なものだった。
「もし、ご自分の中に反省したいことがあれば、この機会を償いとして、反省するのも良いと思いますよ。」