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第6話 ワタシのハナシ (もう、生きた心地がしません。。。)

「私は、これまでずっと、なんというか、『優等生』のふりをしてきました。」

 いきなり言ってしまった。「ふりをしてきた」という表現であれ、自分で自分のことを「優等生」と言うことは何となくはばかられたけど、でもしょうがない。これを話さなければ話が進まないのだ。

「でも、それは演技でしかないんです。本当の自分は優等生なんかではない。自分でもわかっているんです。」

「実際、小学校の低学年の頃の私は、ただボーッとしている、なんでもない子供だったと思います。」

「でも、いつの頃だったか、ふと『優等生のふり』をしてみようと思ってしまったんだと思います。」

「多分、最初は誰か『優秀な人』を見て、それに挑戦してみたくなって。それで挑戦してみたら、何となく上手く行ってしまって。」

「多分、それからずっとなんだと思います。『優等生のふり』をし続けて来てしまったんです。」

 正直、行きた心地がしなかった。頭がクラクラとしてきた。自分のことを話すことが、こんなにも苦しいとは思わなかった。

 ふと目を上げると、シスターは笑うでもなく、かといって心配そうにするでもなく、私の方を見ていた。「私の方を見ていた」というのは、文字どおりだ。私の座っている場所の方向を見てはいるのだけど、その目はもっと遠くを見ている様だった。

「もう、こんなことはやめたいんです。『優等生のふり』をするのに疲れてしまったというのもあります。実際、私は疲れてしまっていると思います。」

「それに、いつか自分の『正体』が皆んなに知られてしまったらと考えると、怖くなってしまって。」

「でも、『優等生のふり』をやめる『切欠』が見つからないんです。」

「あ、でも、『切欠』というのは違うかも知れません。『優等生のふり』をやめるということは、それは、自分の『正体』を皆んなに知られることで、多分、それが怖いのだと思います。」

 あ、今の自分は同じ事を繰り返して言っている、そう思った。でも、頭がグルグルして整理が出来ない。こんなんだったら、ちゃんと話をまとめてくるんだった。

「奈緒さんにこの悩みを打ち明けたら、『万引き』を勧めらました。」

 そう言いながらシスターの方を見ると、シスターはちょっと目を見開き気味に驚いた風の表情をした。私は不謹慎にも「やった!ウケた!」と思った。けれど、そんな自分の思考は不真面目だと思ったし、何より、シスターは次の瞬間、またすぐに、さっきの遠くを見るような表情に戻ってしまった。

「もちろん、奈緒さんは冗談で言ったのだと思います。私も、悩みを解決するために法律に触れるようなことをしたくはありません。」

「それは正しい考えだと思うのですが、でも、そうなると結局元に戻ってしまって。いつもの、疲れながら、『正体』がバレるのを怖がりながら、『優等生のふり』をする自分に戻ってしまうんです。」

 何もまとまってはいないけど、何とか言いたい事は言えたような気がした。どっと疲れた。窓を見ると、まだ陽は残っているものの、だいぶ暗くなって来ていた。肩が凝ってしまったのか、頭痛がしてきた。

「はい。どうもありがとうございます。」

 突然、シスターが話し始めた。その表情は柔らかく、ちょっと顔をかしげたような仕草は上品に感じられた。

「万引きをしなかったことは良かったと思います。それは良くないことですから。」

 そう言いながらシスターはスッと立ち上がり、部屋の隅の小さな机の上のノートパソコンを開き、何やら操作を始めた。思わず「シスターって、パソコン使えるんだ!」と思った。てっきり修道院という所は、文明社会から隔絶されていると思っていたから、とても意外だった。

「宮野さんの苗字は、お宮参りの宮に、野山の野で良いですか?お名前は?」

「由緒正しいの由に、香りの香、理科の理です。」

 我ながら「由緒正しい」はないだろうと思いつつ、「あ、理由の由って言えば良かった」と後悔しながら応えた。シスターは慣れた手つきでキーを打っていた。

「奈緒さんと同じクラスということは、2年2組、担任の先生は佐々木先生ですね。」

「あ、はい。」

「教室があるのは北棟の3階で良かったかしら?」

「はい。」

 なんでそんなことまで知っているんだ?奈緒と親しい様だし、南棟は特別教室ばかりだから推測可能なのも分からなくもないけれど。でも、パソコンの操作といい、近所の学校の校舎の配置まで覚えていたり、失礼ながら聡明な方なんだと思った。修道者って、もっと「ぼー」っとしているイメージだった。

「今、プリントアウトした物を持って来ます。すぐに戻りますね。」

 そう言ってシスターはドアを開けて出て行った。別室にプリンタがあるのだろうか?「修道院の中って、Wi-Fi通っているんだ!」と、またも「修道院は文明から隔絶してる」論者の私が驚いているうちに、シスターは戻って来られ、元のソファーに腰掛けられた。

「ご担任の佐々木先生にお話しして、この紙を職員室前の掲示板に張り出してもらってはいかがですか?」

 そう言ってシスターは、プリントアウトされた一枚のA4用紙を私に差し出した。

 私は息を飲んだ。そのプリントには、こう書かれていた。

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