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第5話 シスター! (本物だぁ!ちょっとイメージ違うけど。)

 もうお迎えが来て帰った園児が多いのだろう。静かになった保育園を左手に見ながら、踏み石を目印に少し進んだところに、その修道院はあった。修道院と言っても、一見、木造の普通の民家なのだけど、玄関右取り付けられた少し陽に焼けたチャイムを奈緒が鳴らすと「はい。聖○○○女子修道院です。」と聞こえてきた。ここはやはり修道院なのだと思った。

「すみません。M高校の笹山と申します。17時からシスター前田にご面会のお約束を頂いております。」

 少しして「カチャ」と鍵を開ける音がして玄関が開き、小柄な可愛いおばあちゃんが出てこられた。

「お久しぶりです、シスター!」

 テンション高めになった奈緒が挨拶した。本当にこのおばあちゃんが好きらしい。

「こんにちは、笹山さん。元気にしてました?」

「はい、元気です。シスターは?風邪とか流行ってるみたいですけど、大丈夫ですか?」

「ええ、なんとかやってますよ。」

 もしかしたら、この立ち話は長くなるのかなと思いかけたその時、その可愛いおばあちゃんがスッとこちらを見た。小柄で可愛いおばあちゃんなんだけど、不意に視線を向けられれてドキッとしてしまった。途切れた会話が、私の発言を求めているように思えた。

「初めまして。宮野由香里と申します。笹山さんとはM高校で同じクラスにいます。」

「初めまして。ようこそいらっしゃいました。」

 小柄で可愛いおばあちゃんは、満面の笑顔でゆっくりとした口調でそう言って私を迎えた。

 これがベールというのだろうか?頭から肩にかかるくらいの頭巾を被っていた。服は少し灰色がかった青色で、一見女子の学生服の様にも見えたが、上衣とスカートはワンピースの様につながっていた。そして腰には、ちょっとその服には少し似つかわしくないのでは?とも思われる茶色い皮ベルトをしていた。「思っていた『修道服』とは違うな」と思った。

「どうぞお上がりください。」

 うながされるままに玄関に入ると左右に下駄箱があり、その隅に置かれたカゴにスリッパが入っていた。下駄箱の上には綺麗な花が花瓶に生けられていた。

 奈緒の動作を真似てカゴからスリッパを出し、それに履き替え、脱いだ靴を下駄箱に入れ、それから周囲を見渡した。その玄関は、東京にしては広目な気もしたけれど、「普通の家の玄関」という感じだった。そこからまっすぐ奥へと廊下が続いていた。

 おばあちゃんシスターに案内されて、その長い廊下を進んだ。壁の所々に小さな木彫りの像や、これも木の板に描かれた絵が額に入れられ掛けられていた。やはり宗教的な「何か」なのだろうか?

 ふと、おばあちゃんシスターは一つの部屋の前で立ち止まり、そのドアを開いた。

「では、宮野さんはこちらへ。奈緒さんは、また後で。」

「はーい。」

 奈緒の能天気な様子とは裏腹に、私は自分の鼓動が早くなったのを感じた。

 部屋に入ると、小さめの皮張りのソファーが一対、低めのテーブルをはさんで置かれていた。応接室なのだろうか。壁には本棚、部屋の隅には小さな机、そして窓際の壁の上の方には、廊下で見たのとは少し異なる形の木彫りの像が掛けれれていた。

 私はその像を見ていた。胸のドキドキはまだ止まらないけど、それでも少しは落ち着いて来たのだろう。それが十字架に付けられたキリストの像なのだと分かった。

「どうぞおかけください。」

 ぼっうと立ち尽くす私に、おばあちゃんシスターは声をかけた。私は「はい。」と応えソファーに座ると、おばあちゃんシスターも反対側のソファーにゆったりと腰掛けた。

「修道院に来られるのは初めて?」

「はい。」

 私はまた同じ返事をした。おばあちゃんシスターはゆったりと、でも背筋をピンとたてて腰掛け、静かにこちらを見ていた。

 私が部屋に入ってから1分?それとも30秒?

 大した時間は経過していないと思うけど、気まずい沈黙の時間が流れ始めていたのは確かだった。

「あの……。」

 自分の声が上擦り気味なことが自分でも分かった。

「……。」

 シスターは笑うでもなくせかすでもなく、柔らかい表情のままずっとこちらを見ていた。 窓のレースのカーテン越しに、オレンジ色の陽の光が部屋を照らしていた。

 今、話さなければならないのは自分なのだと思った。

「私は……。」

 私はなんとか話をしようと、必死に言葉を探した。

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