第4話 保育園に行こう! (なにゆえ保育園?行けばわかるさ!)
6限目の授業が終わるとすぐに、私は奈緒の方に目をやった。奈緒もこちらを見て「ニヤリ」としてみせた。何食わぬ顔をして、そう、まるでこれから何か秘密の活動でもするかのように、奈緒と私は自意識過剰気味に教室を後にした。
やや傾いた陽射しに目をやりながら階段を降りる。いつもと同じ放課後。でも、今日は少し違う。
聞いてみると、奈緒の言う「ほいくえん」とは、その名の通り「保育園」らしい。それが自分の転身にどんな関係があるのか一向に分からずにいる私をよそに、奈緒は自信満々の笑みを浮かべていた。
なんだかんだと言って、私は奈緒を信頼していた。その奈緒が笑みを浮かべ、私を導いている。これで今まで演じて来ていた「優等生キャラ」をやめられるのなら!そう思うと、何の裏付けも無いままに、私は少し嬉しくなっていた。
校門をあとにして、奈緒は私の前をずんずんと歩みを進めていた。住宅街をしばらく歩いたころ、学校か何かだろうか?やや重々しく続くコンクリート塀のところどころにある隙間から、中庭らしき広場と、小さな学校風の建物と、それとは別に2階建ての木造住宅と、それらを取り囲むように伸びている木々が見えた。
何となく懐かしい様な風景。「こんなところがあったんだ」私がそんな思いにふけり始めたとき、その敷地の表門らしきところで奈緒は足を止め、私の方を振り返った。
「ここだよ。」
「ここが、、、その保育園?」
保育園って、もっとこじんまりしたものを想像していたのだけれど。でも、奈緒が背にしている門柱には、確かに「○○○保育園」と書いてあった。
「私、小さいころ、ここに通ってたんだ。」
私から目をそらし、どこか空中を見ながら、奈緒は教えてくれた。
「で、なんて言うかのな。どうしても解決できない悩みとかあると、今でも、その時の先生に会いに来るんだ。」
「保育園の先生に?」
それは別に悪いことでは無いのだけれど、でも、中学とか、せいぜい小学校の先生ならともかく、高校生が保育園の先生に相談って、やっぱちょっと意外だった。
そう、それは確かに意外ではあったんだけれども。それはそうと、そのころになると、ようやく私も、私の中にふつふつとわいていた、先ほどからの『違和感』というか、『不思議な感じ』の出元らしきものの正体が分かってきた。
奈緒が目をそらすのに呼応して泳ぎはじめていた私の目に入ってきていたのは、さっき見た「○○○保育園」と書かれた門柱と対になっている反対側の門柱だった。
そこには書かれていた。
「聖○○○女子修道院」と。