第3話 奥の手 (親友の提示する「何か」が、転機になることって、やっぱあるのだろうか?)
「ま・ん・び・き」
「え??万引き!!」
「だってそうじゃん。万引きして、警察のご厄介になって。ずっと身元を明かさなければ、一晩くらい警察署に泊まれるかもよ。」
「って、学校どうすんのよ?」
「そりゃ、学校も激怒でしょ。良くて停学、下手すると退学。すると、ほら!めでたく新たな『由香里』の出来上がり!周囲のみんなもびっくり!ヤッホー!!」
嬉しそうはしゃぐ奈緒を見て、ただ一瞬の気の迷いとはいえ、こんな人の言うことに真剣に耳を貸した自分の愚かさを呪った。
「奈緒!私は真面目に悩んでるの!」
そうだ。私は本気で悩んでいるんだ。今の自分に違和感があり、そんな自分をこれ以上維持出来ない。いわば現在の自分に対する敗北宣言である。そりゃ、他人から見れば馬鹿げているかもしれないが、自分の中では切実なのだ。それに対する解決策として「万引き」などという犯罪行為を提示する奈緒に、私は腹が立った。
「でもさ。」
一転して真面目顔で奈緒が言う。
「そのぐらいの事をしないと、今の自分から脱却することなんて出来ないんじゃない?実際、出来ないからこそ、今、こうしてあいも変わらず由香里は悩んでいるんでしょ?」
「そりゃ、そうなんだけどさ。」
そう、そうなのだ。私は「今の自分から自由になりたい」と思いつつ、結局「今の自分」に囚われているのだ。
「でもさ、万引きは嫌だな、やっぱ。犯罪だし。」
先程までの腹立たしさはどこへやら。私のトーンは低下していた。「自分を変えたい」とまで言った物の、何も出来ていない事実を指摘され、意気消沈していたのかもしれない。それを知ってか知らずか、奈緒は微妙な笑みを浮かべつつ言った。
「じゃあ、奥の手を出しますか!」
「もう。またとんでもない物じゃ無いでしょうね?」
「とんでもないとは失礼な。私の正真正銘の『奥の手』だよ。」
自信満々といった風の奈緒に、私は再度、教えを乞うことにした。
「わかったわよ。なあに?教えてよ。」
そう言って向き合う私に奈緒が言った言葉は、確かに「奥の手」だったのかもしれない。
「ほ・い・く・え・ん」