第2話 奈緒の提案 (「大丈夫なのか?」と思いつつ、他に手がないもんな。)
キャラ変更を切望している自己を発見したは良いものの、そんな私はしかしどうしたら良いのか?てんで分からない。何が問題って、「変更したい」と言う思い募ってる割りに「『何に』変更したいのか」のイメージが何も無い。いや、違うな。イメージはあるのだけど、イメージを突き詰めてしまうと、私の場合、一言で言えばリボンだかマーガレットだかに出てくる「お姫様」になってしまうのだ。
典型的な美人では無いものの、気立は良くて明るくて、それでいてドジな部分も持っていて、そんな私に何故か王子様が急接近という、アレ。寝床で妄想を膨らませる分には良いのだけれど、ひとたび家のドアを開けて外の空気を吸い、学校に向かう道すがら、ふと昨夜の「妄想」を思い出すと赤面を通り越して青ざめてしまう。だってそうじゃない。この際、私の容姿や家柄は考慮しないとして、そもそも現代日本で「王子様」っているの?
ここでマジ返ししてしまうと、現時点の日本においては日本のプリンセスこと皇太子様(これを「東宮様」と書くと、マンガっぽくなる気がする。)は空位らしい。我が愛読書(少女漫画ともいう)に度々登場しては私を夢の宮中生活に誘ってくれる王子様がいらっしゃらないとは何事か?夢もへったくれも無いではないか。
「ゆーかりん。いつになく深刻そうな顔ね。なんかあった?」
そう言いいながら、私の前の席にちょこんと腰掛けたのは、笹山奈緒。小学校4年のころからの付き合いなので、数少ない「素の私」を知る人材だ。
「生まれ出づる悩み。読んだこと無いけど。」
「子供でも出来た?」
「なんでやねん!」
奈緒と話しているうちに、だんだん冷静になってきた。そう、頭が「煮えた」私を冷ましてくれるのも、奈緒なのだ。
「なんていうのかな。今の自分のキャラを維持するのに疲れたというか。」
「ははは!由香里、無理してるもんね!」
私が話終わるかどうかというタイミングで畳み込むように言われると、ちょっと傷つく。ちょっと傷つくのだけど、それはが事実だった。私は自他ともに認める、無理無理状態だった。
「だからさ、いっそ、全部投げ出したいって感じかな。」
「退学?」
妙に目を輝かせ前屈みになる奈緒に、私は必死に否定した。そういうのでは無い、私は普通になりたいのだ。ただ、普通になる切っ掛けが見つからなくて悩んでいるのだと説明した。
「でもさ。今『普通』じゃない人が『普通』を目指すって、由香理が思っているほど簡単じゃ無いってことじゃない?」
「やっぱ、そう?」
「芸能人で言ったら、『私、普通の女の子に戻ります』ってことでしょ。そりゃ一大事だよ。」
ずいぶん古いネタを出す奈緒に「あんた、何歳?」と思いつつも、言っていることはお説ご最も。これは少なくとも「『私』を再構築するプロジェクト」なのだ。既に私の頭の中には、中島みゆきの「地上の星」が流れていた。
「じゃあ、奈緒はどうすればいいと思う?」
「そりゃ、スクラップ・アンド・ビルドでしょ!」
「スクラップ?私を壊すの?」
「由香理を壊すというよりか、由香理に関わる周りの人達の由香理に対する認識を壊すって感じかな。」
そうなのだ。我が意を得たりなのだ。これは正確には「私をどうするかという問題」ではなく、「周囲の中にあっての『私』をどうするかという問題」なのだ。私は優等生モドキだけど、奈緒は本当の意味で「出来るやつ」なのだ。
ふと私から「はー」という、ため息が出てきた。ここしばらく煮えていた頭の疲れもあり、私はすっかり奈緒に頼りたくなってしまっていた。
「じゃあ、どうすればいいの?」
「お、乗って来たね。いや、そんな難しいことじゃないよ。」
そう言ってさらに私に近づき耳打ちしようとする奈緒に、私は耳を傾けた。
期待と不安を頂きつつ。