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9話 2人の過去

 サーシャは、ラルムに向き合うと、

 これを見てくれる? とそう言って、おもむろに前髪を上げだした。


 露になったおでこには、3cm程の古い傷痕がはっきりと残っている。


 傷を見たラルムは、言葉を詰まらせながら、どうしたんだそれ? とサーシャへ聞き返した。


 ラルムの問いに、僕は横から口を挟んで、サーシャのその傷は、僕がつけてしまったんだ。とそう答えた。


 僕の言葉に、僕の方へ振り返り、お前がか? とそう言葉を返したラルム。


 サーシャは、額の傷をそっと撫でると、私が悪いのよ……。とあの日、起こった出来事を話し始めたのだった。


「あれは、私たちが5歳の頃。まだ、魔法適正検査を受ける前の事よ。

 私はセオと2人で、エルラドの門を抜け出して、近くの森へ探検に出掛けたの」


「おい、子供たちだけで、そんなモンスターだらけのところに行ったのか? 無謀にも程があるだろ!」


 ラルムの驚いたような言葉に、サーシャは苦笑しながら話を続けた。


「そうね、本当に無謀たったわ。


 でも、その時の私は、門の外が、どうなってるんだろうっていう好奇心が勝っていて、怖さなんて全然感じていなかった。


 まぁ、セオはビビりながら私の後ろをついて回ってきてたけど。

 あまりにブルブル震えているから、怖いならついてこなくて良いって言ったのに、サーシャが心配だからついていくってそう言って聞かなくて。


 結局私とセオは2人で、門を抜け出して森に遊びに言ったのよ。

 最初はそれなりに楽しく探検していたわ。


 森の中には、見たことのない花や木の実がいっぱいあって、あれは何? これは何? なんて話ながら2人で楽しく笑いあっていた。


 ……けれど、途中で私たちは、ドリルウッドの群れに迷い混んでしまったの」


「おいおい、よりによってあの凶暴なドリルウッドの群れかよ。ついてねぇなお前ら」


「そうね、辺り一面にきれいなお花が咲いてて、お花を摘むのに夢中になっていた私たちは、辺りの木々に擬態したドリルウッドが自分たちを取り囲んでいたことに気づけなかったの。


 気づいた時には手遅れだったわ。


ドリルウッドは、両手の先に付いたドリルを、ギュインギュインと鳴らしながら、ジリジリと私たちに詰め寄ってきたの。


 セオが、サーシャ逃げよう! とそう言って、私の手をとって駆け出したわ。


 でも、私は怖くて足に力が入らなくて、途中で尻餅をついてこけてしまったの。


 ……もしかしたら、セオだけなら逃げだせてたかも知れない。


 でも、セオは転んだ私に駆け寄って、私を庇うように、ドリルウッドの前に立ちはだかってくれたのよ。


 ……自分だって怖くて震えていた癖にね。


 セオの背中の後ろから、ドリルウッドの鋭いドリルがセオに向けて振り下ろされるのが、スローモーションに見えた。


 もう、ダメだと思ったそのときだったわ。


 セオが、けたたましい雄叫びを上げて、凄い風量の魔力の風を巻き起こしたの」



 サーシャの言葉にラルムは、驚きを隠せなかったようで、目を丸くして言葉を挟んだ。


「魔力の風って……、セオのやつ、聖剣や、杖も使わずに魔術を発動させたっていうのか!?」


「そうよ、セオは自分の身1つで、天まで届く程の巨大な竜巻を巻き起こしたの。 


 風の壁に阻まれて、ドリルウッドは私たちに手出しができなくなっていた。 


 竜巻に少しでも触れると、弾き飛ばされてしまうし、ドリルウッドが得意技の炎を繰り出しても、竜巻が巻き込んで、かき消してしまうんだもの。

 

 やがて、ドリルウッドは諦めたのか、少しずつ森の奥へ姿を消し始めた。


 私はほっと、胸を撫で下ろしたわ。


 けれど、セオの魔力が徐々に大きくなっているのか、ドリルウッドが退却した後も、竜巻は段々と風が届く範囲を広めていった。


 本当に凄い風だったけど、私たちがいた竜巻の中心は、打って変わって、不気味なぐらいに静かだった。


 その竜巻の中心で……私から少し離れたところにいたセオは、体中に光をまとわせて、つんざくような悲鳴を上げて、自分の身から溢れる魔力に怯えていたわ。

 

 ……私はセオに、セオ、もう大丈夫よ! 魔法の発動を解いて! と訴えながら近づいたの。


 けれど、セオ自身も解き方が分からないみたいで、鋭い声色で、どうやって解いたらいいかわからない! サーシャお願いだ僕から離れて! 側に来ないで! って、必死にそう声を荒げていた。


 セオにそう言われたけど、私は何とかしてセオを止めてあげたかったの。


 だって、セオがこんなことになってしまったのは、私が森に行きたいなんて言ってしまったからだもの。


 だから私はセオの言うことを聞かずに、……セオに近づいてしまったの。

 

 風は、セオの意思とは関係なく、セオに近づくものに対して攻撃を仕掛けていたわ。


 きっと、一種の自己防衛のようなものでしょうね。


 だから……近づいた私にも、身を切り裂くような強い風が吹き荒れてしまったの。


 私は風に吹き飛ばされて、竜巻の壁の中に巻き込まれた。


 運良く、辺りの木にぶつかって、直ぐ竜巻の中から逃れて、また竜巻の中心に戻ってこれたけど、そのときに私はおでこを切って頭からは血が流れてしまったの。


 ……それを見たセオは、私を傷つけてしまったことが、よっぽどショックだったんでしょうね。


 より一層甲高い悲鳴をあげて、今まで以上に魔力を暴走させ始めてしまったのよ。


 みるみるうちに竜巻は威力を増していき、風は撤退を始めていたドリルウッドをすべて吹き飛ばし、四方の木々をすべて巻き込んで、巨大な竜巻へと成長していったわ。


 強烈な風圧と、巻き込まれた障害物にぶつかって、吹き飛ばされたドリルウッドは、竜巻の渦の中でバラバラに引き裂かれていった。


 竜巻に巻き上げられたドリルウッドの亡骸からは、血が飛び散って、辺りに血の雨が降り注いでいったの。


 私はぶつけた体と、切ったおでこの痛みで、暫く気を失っていたみたいで、そこからの記憶がないわ。 


 次に目を覚ました時は、巨大な魔力の竜巻に気づいた大人たちが、駆けつけてくれてた後だった。


 私は回復魔法を施されていて、セオは……また、魔力が暴走しないように、手足に魔力を封じる枷をされていたの。


 見渡す限りモンスターの血で真っ赤に染まり、なぎ倒された木々が横たわっていて、それはひどい惨状だった。


 それから、暫くして私とセオは魔法適正検査を受け、魔法適正を認められて、魔法学校に入学したわ。


 セオに至っては、検査キットが使い物にならなくなる程の高い魔力を示したの。


 けれど、あの時、魔力を制御できずに暴走してしまったことが、セオの心に深い影を落としてしまってるようで、


 セオは魔術実技試験、特に対モンスター魔術実技試験での成績がふるわなかったの。


 そんなセオのことを周りの皆は、落ちこぼれだとか、最弱剣士だとか、好きかって色んな事を言ってきたわ。


 でもね、そうじゃないの、……逆なのよ。


 セオは弱くなんてないわ。あまりにも強力な自分の魔力を上手く制御しきれていないだけ。


 ……セオが恐れてるのはモンスターじゃない。自分自身の力なのよ」


 サーシャはそこまで言うと、一旦口を閉ざし、悲しげに微笑んだ。

 そうして、髪の上からまたおでこを撫でて、こう言葉を続けたのだった。


「私のおでこの傷はね、回復魔法をいくら施しても消えることはなかったの。


 魔法医師が言うには、私が傷つけられた風が、セオの魔力とドリルウッドの魔力が複雑に絡まりあって出来ていたため、元通りに回復させきれなかったんだろうと言われたわ。


 でもね、私はこの傷が残ってくれて良かったって思ってるの。

 ……私自身への戒めになるから。


 この傷を見る度に、あの時何もできなかった無力な自分を思い出すことが出来るもの。


 一族の名誉の為なんかじゃなく、私の意思で優秀な魔法使いになると誓った日の事を思い出すことが出来るもの。


 だから私にとってこの傷は大切なものなのよ。


 ……まぁ、セオにとっては、忘れたい嫌な記憶を思い出させる、見たくもないものかもしれないけどね。


 セオは私の傷を見る度に辛そうに眉をひそめてしまうから」


 そんなサーシャの言葉に、慌てて僕は言葉を返した。


「そうじゃないよ! 

 僕が君の傷を見て、顔をしかめてしまうのは、君に申し訳ないと感じてしまうからだ。


 こんな風に体に残る傷をつけてしまったのは紛れもない僕なんだから。


 ……あの時の出来事は、僕にとって、とても恐ろしく、ショックな出来事だったよ。


 自分の内から溢れて、とどまることを知らない魔力は、僕の意思を無視して、勝手に風を巻き起こして、辺りを破壊し続けていった。


 今度もしこんなことになったら……また君を傷つけてしまったらってそう思うと、未だに怖くて手が震えてしまう。


 けど、けどね、あの日の事を忘れたいなんて思ったことは、一度だってないよ! 


 僕は、僕のしてしまったことを、覚えていなきゃいけないんだ。


 そして、もう二度と魔力を暴走させるなんて失態を、起こしてはならないんだ。


 僕は自分の力を使いこなして、モンスターを……魔王を討つよ。


……それが、僕を信じてパーティーを組んでくれたサーシャへ、僕が出来る唯一の事だと思うから」


 サーシャの目を真っ直ぐに見つめ、きっぱりとサーシャへそう告げた僕。


 僕の言葉に、サーシャは、ありがとう、セオ。とそう言うと、嬉しそうに微笑んでくれたのだった。


 サーシャの話を聞き終えたラルムは、ぴょんぴょんと地面を跳ねて僕の肩へ乗り始めた。


 そうして、お前は変わったヤツだと思っていたけど、それだけじゃなくて、とんでもねぇ野郎だったんだな。……まさか、そんなところまで、あいつにそっくりだとはな。

と、そうポツリと呟いたんだ。


 ラルムの言葉に僕は、あいつって誰の事? とそう問いかけてみたけれど、

いや、何でもねぇよ。気にしないでくれ! とはぐらかされてしまった。 


 そうして、ラルムは、おっし! と大きな声をあげると、僕の頭の上に移動して、こう言葉を続けたのだった。

 


「お前が魔力を上手く制御出来るように、俺がバシバシ鍛えてやるよ! 


 そうと決まれば、先を急ぐぞ! コンカルノーはもう目と鼻の先だぜ! ほら、さっさと歩いた歩いた!」


そう言って、先に進むように、僕たちを促すラルム。


 そんなラルムに僕は、そんなこと言っておいて、自分は僕の頭の上でちゃっかり楽してるんだもんなぁ。ずるいよなぁ。


 なんて文句を言いながらも、コンカルノーに向けて、また歩みを進めたのだった。


 その後は運良く、モンスターに遭遇することなく、初めてのモンスター討伐を終えた僕たちは、コンカルノーに無事到着することが出来たのだった。






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