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8話 セオの実力

 それは、一瞬の出来事だった。


 生い茂る草木の影から、でんきネズミが姿を表し、電光石火の早さで体当たりを仕掛けてきたのだ。


 でんきネズミは、サーシャに向かい一直線に突撃していく。


 気を緩めていた僕たちは、でんきネズミの早さに反応しきれずに……サーシャはもろにでんきネズミの攻撃を受けてしまったのだった。


「うっ……!! がはっ……!!」


「サーシャぁぁぁ!!」


「お嬢ちゃん!」


 サーシャの体は、勢いよく後ろに飛ばされ、数メートル離れた、大木に叩きつけられた。 


 慌ててサーシャに駆け寄る僕とラルム。


 サーシャは、背中を強く打ち付けたようで、口から少量の血を吐き、気を失っていた。


「あぁ、サーシャ! ……ごめん、ごめんね……! 僕がモタモタしていたから、君がこんな目に……! 本当にごめん……」


 そう言って、ポツポツと、涙を溢しながらサーシャに謝る事しか出来ない僕。


 ラルムは、そんな僕に対して、こう言葉をかけてきた。


「おい、後悔すんのは後にしろ。今は、あいつをなんとかするのが最優先だ!

 

まさか、『聖なる鉄槌』が下る前に逃げたしてたとはなぁ。

 

 もう拘束もされてねぇから、あいつの移動速度を上回る早さで技を繰り出すしか倒す術はねぇ! 


今度こそお前が何とかするしか助かる道はねぇぞ! 


お嬢ちゃんは、俺が見ておくから!


だから頼む! あいつを倒してくれ!」


「……わかったよ、ラルム。僕が……あいつを倒す!」


 ラルムにそう返事を返し、僕はでんきネズミへ目線を戻した。


 もう一度、最高スピードで体当たりをするためだろうか。 

 でんきネズミは、僕たちから少し距離を取った所に降り立っていた。


 僕は、ゴシゴシと涙を拭い、腰から剣を抜き、サーシャとラルムを庇うように立って、でんきネズミと対峙する。


 僕が臆病者だったから、サーシャをまた、傷つけてしまったのだ。何が自分のせいで傷つく人を見たくないだ。


 今、こんな事態になってしまったのは誰のせいでもない、僕が覚悟を決められなかったせいだ。


 ……もう、迷わない。

僕は、剣魔術であのでんきネズミを……討つ!


 でんきネズミを見つめたまま、背中ごしに、ラルムへこう言葉をかける。


「ラルム、サーシャのことお願いね」


「おう、任しとけ」


 ラルムがそう言うのとほぼ同時に、僕とでんきネズミはお互いに動き出した。


 

 矢のような早さで、草原を駆け抜けるでんきネズミ。


 まだ、体は乾ききっていないのか、その体には電撃は纏っていない。


僕は、でんきネズミの早さに並ぶために、魔術で体に風をまとわせ、でんきネズミの体当たりを剣で受け止めた。


 体当たりを受け止められたでんきネズミは、反動で高く跳ね上がり、先程よりも移動スピードがほんの一瞬遅くなったのだった。


 僕はその隙を見逃さなかった。

 

 体に、剣に、行き渡るように、けれど、込めすぎないように慎重に魔力を発動させる。


 魔法剣士は、その聖剣を媒体にすることで、呪文の詠唱なしで魔力を使うことが出来る。


 威力は魔法使いには劣るが、その分機動力に長けた、素早い物理剣魔術を繰り出すことが出来るのだ。


 魔力が満ちるにつれ、剣先から眩い光が放たれる。

 身体中に先程とは比べ物にならない風圧の風をまとわせる僕。


 僕の様子が変わったことに気づいたのだろう。


 今まで吹き飛ばされた勢いのまま宙に舞っていたでんきネズミが、急に体制を整え、近場の木の幹を足場にし、僕に向けてまた攻撃を仕掛けてきた。


「今さら、気づいてももう遅い! 食らえ、剣魔術『疾風(はやて)』!」


 勝負は一瞬だった。


 僕の体は、纏った風に運ばれて、神速の早さで一直線にでんきネズミの体を貫いた。


 僕が通った後には、風が草木を巻き上げて出来た溝と、綺麗に2つに別れた、でんきネズミの亡骸が横たわっていた。


「なんだよ、セオ! お前そんな事出来るなら早くやれよ! スゲー威力じゃねーか!」


 ラルムは、サーシャに回復魔法をかけてくれながら、そう興奮気味に僕に声をかけてきた。


 僕はラルムの言葉に返事をせず、小さく微笑みだけ返すと、剣を大きく上下に降り、刃に付いた血を振り落とした。


 そうして、そのまま腰元の鞘へ剣の刃先を戻す。

 カシャンと仰々しい音を立て、剣は鞘へ納められていった。


 僕は、おもむろに右手を見つめた。


 手からはまだ、でんきネズミを切り落とした時の感触が消えずにいる。


 本音を言うならば、僕は誰も傷つけたくないのだ。

 例えそれがモンスターであっても。


 殺さずに済むすべがあるのなら、できる限り殺したくはない。


けれど、モンスターは何の躊躇いもなく……時に死ぬことすら、恐れずに、僕らを襲ってきてしまうから。

 ()らないと僕らが()られてしまうんだ。

 


 僕は胸に残る、やるせない気持ちを振り払うように、見つめていた右手を、ぎゅっと握りしめると、急いでサーシャの元へ駆け寄った。


 サーシャは、大分回復したようで、今はもう意識も取り戻していた。

 ずっと回復魔法をかけていたラルムに、代わるよ。と声をかけ、今度は僕が回復魔法をサーシャへかける。


 不甲斐なさから、サーシャの顔を見ることが出来ず、うつむきながら、自分の手元だけを見て回復魔法をかけていた僕。


 サーシャは、うつむく僕の顔を覗き込むと、何故かクククッと小さく肩を揺らして笑い始めたのだ。


「なっ……! どうして笑うんだよ!」


 僕は恥ずかしさから、顔がかぁっと熱くなるのを感じた。


 そんな僕にサーシャはおかしそうに、声を裏返しながら、だって!と言葉を続ける。


「あんた、怪我してる私よりも、痛そうな顔して回復魔法かけてるんだもの。


 何て顔してんのよ、全く。


 ……途中から見てたわよ、あんたが戦うところ。


 やったじゃない。ちゃんと魔力を調節して戦うことが出来たのね。


 それに比べて、私はダメね。『あんたを殺してでも暴走を止めてやる』なんて言っておきながら、肝心なときに役立たずなんだもの」

 

 そういって先程の笑顔とは違い、最後は、眉を下げどこか悔しそうに笑みを浮かべたサーシャ。


 そんなサーシャに僕は慌ててこう声をかける。


「そんなことない! 君がああ言ってくれたから、僕は剣を振るう事が出来たんだ。


 こんな事態にならないと、覚悟も決められないなんて、本当に自分が情けないよ。 


 ……サーシャ、僕はもう迷わない。


 きちんと自分の力と向き合うから、……まっ、魔王を倒してみせるから! 


 だから……君には、僕の事を見届けていてほしいんだ。僕のそばでずっと」


 僕の宣言を聞いて、何故か顔を真っ赤にしたサーシャ。


サーシャは、ずっとって……あんた何言ってるのよ……! と恥ずかしそうに、ブツブツと小言をを言い始めた。

 

 サーシャのリアクションの意味が分からず、首をかしげながら、ラルムの方を向くと、


 ラルムは何故だか白けたような顔をして、何だそれ、新手のプロポーズかよ。とそう言って、僕に軽くタックルをかましてきたのだった。


 うっ……。と前のめりになりながらラルムのタックルを受け止めた僕。


 ラルムの言葉の意味を理解し、僕はやっと、サーシャのリアクションの合点が言ったのだった。


 サーシャと同じように、顔を真っ赤にして慌てて、

 違うんだ! そう言う意味じゃなくて! あ、いや、違くはないんだけど……、何て言うかその……! 

 としどろもどろになりながら、サーシャへ言葉を返す僕。


 僕の言葉に、わかってたわよ! あんたの事だからどうせ深く考えずに言ったんでしょ? それより、今の魔王を倒すって言葉忘れるんじゃないわよ?  取り消しはもう出来ないんだからね! とそういってサーシャは可愛らしく微笑んだのだった。


 そんな僕らのやり取りを見ていたラルムは、おもむろにこう言葉をかけてきた。


「ところでセオ。……まぁ、言いたくなけりゃ無理にはきかねぇが、お前らが口にしている、あの時の事って何だよ? それに、こんなに強ぇのにお前は何を怖がってるんだよ……? 何故、力を振る舞うのをためらってるんだ?」


 ラルムにそう聞かれ、僕は言葉に詰まった。あの時の事をなんと説明するべきか悩んだからだ。


 そんな僕の様子を見て、すっかり回復したサーシャが、立ち上がりながら、

 私が話してあげるわ。いいわよね、セオ? とそう僕に声をかけてきたのだった。


 サーシャの言葉にコクリと頷く僕。

 

 サーシャは、僕の返事を受けて、何から話したらいいかしら……。とあの時の事をラルムへ話し始めたのだった。

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