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7話 僕には……出来ない。

「……オ! ……おい、セオ! 何ボサッとしてんだ! 早く止めをささないと、『粘液』の効力が切れるぞ!」


 ラルムにそう言われ、ハッと我に返る僕。


 でんきネズミへ目線を向けると、水に濡れて粘着力が落ちたのか、でんきネズミは少しずつ動ける範囲を広げていた。


 ジタバタと手足を動かし『粘液』を振りほどこうとするでんきネズミ。


 僕は震える手で、でんきネズミに剣を向け、魔力を込めようと体に力を入れる。


 ……大丈夫! 今日は体がよく動いていた。敵の攻撃も見えていたし……調子は決して悪くはない。……ても、……でも……!


「……ダメだ、僕には出来ないよ……!」


「セオ、どうして……!」


「こんなとこで怖じ気づいてる場合か!」


 二人は責めるように、僕に向かって、そう語気を強める。


 分かってる、僕が適任なのは、頭では分かってるんだ。


 ……でも体が言うことを聞いてくれない。


「……怖いんだ!! あの時みたいに暴走したらと思うと……、君達を傷つけてしまったらと思うと……魔力を使うのが……怖い」


 僕のその言葉に、サーシャがハッと息を呑む音が聞こえる。そうして、少し声を震わせて、僕にこう言葉をかけてきた。


「あなたやっぱり、あの時の事をまだ気にしてたのね……?

前も言ったじゃない! あれは、あなたのせいじゃないわ。不可抗力だったのよ」


「……もしそうだったとしても、だからと言って、僕がしてしまった事には変わりはない! 

 ……僕はもう、僕のせいで誰かが傷つくのを、見たくないんだ……!」


 僕は、そう震える声でサーシャに言葉を返した。

後ろめたさから、サーシャから目を反らすことしか出来ない僕。


 僕の返した言葉に、サーシャは、あぁ! もう! と声を粗げ、こう言葉を続けた。


「この意気地無し! いいわよ! それならずっと、そこで突っ立っていればいいわ! 私がやる」

 

 サーシャは、そう言うと、呪文の詠唱を始めていく。サーシャが持つ杖がみるみるうちに神秘的な光に包まれていった。


 サーシャの後ろで、その背中を見つめることしか出来ない、情けない僕。


 魔法使いは、魔法剣士に比べ、威力の高い魔法を発動する事が出来るが、その分発動までに時間がかかってしまうのだ。


 サーシャは、少しでも発動を短くしようと、呪文の詠唱をすごい早さで言い終えていく。


 でんきネズミはというと、未だに『粘液』を振りほどこうと、ジタバタと手足を動かし続けていた。


 ラルムは、でんきネズミの拘束が解けないように、追加で『粘液』を放出するが、辺りに残った水分が粘着力を弱めてしまい、最初の時ほどの拘束力は発揮することが出来なかったようだ。


 ラルムは、チッと舌打ちをし、お嬢ちゃん、やれるだけはやったが、拘束が解けるのは時間の問題だ! 急いでくれ! とサーシャに向かいそう声をかけた。

 

 サーシャは、分かってる! と食いぎみに返事を返し、直ぐ様、呪文の詠唱へと戻る。


 やがて、詠唱の終えたサーシャの背後から空間を切り裂き、大きな鉄槌が姿を表した。


 サーシャが杖を振り上げると、その動きに合わせて、鉄槌がゆっくりと大きく振りかぶっていく。


 サーシャの魔力が満ちていくに従い、やわやわとあやふやだった鉄槌の輪郭が徐々にはっきりとしていくのが見てとれた。


 鉄槌の密度が上がるのを待つ間、サーシャは僕に背を向けたまま、こう言葉をかけてきた。


「……あの時の事、引きずってるのは自分だけだとでも思ってるわけ?」


「サーシャ……」


「……私、怖かったの。あの時、あんたが遠くに行っちゃって、もう戻ってこないんじゃないかって、そう感じて怖かった。


 けどそれ以上に、あの時、あんたに対して、何も出来なかった自分が情けなくて仕方がなかった……!」


 サーシャは、そこまで言うと、杖を持っていない左手で顔を拭うような仕草を見せた。 


 下ろされた左手からは、数滴の雫が零れ、キラキラと宙に舞っていく。


 そうして、ふぅっと一度大きく息を吐くと、サーシャはこう言葉を続けたのだった。


「だから私は、最も優れた魔法使いになったのよ。


……あんたとパーティーを組んで、今度もし、あんたがあんな風になっても、止められるように!



……あんたに守ってもらうんじゃなくて、あんたの隣に立って、モンスターと戦えるように!」


 そう言い終えたサーシャの体に更に光が集まっていく。

 

 魔力が満ちきった鉄槌は、サーシャの、出でよ! 物理魔法『聖なる鉄槌』! という言葉に合わせ、巨大な影を作り、でんきネズミの元へ振り下ろされたのだった。


 ズドォーンという大きな地響きと共に、鉄槌がでんきネズミの居た場所を押し潰していった。


 巨大な鉄槌が、十メートル四方の木々をなぎ倒し、粉砕する音がバキバキと辺りに響いていく。


 ラルムは、ガハハ、こりゃスゲー威力だ! やったな、お嬢ちゃん! とサーシャに向けて、そう言葉をかけた。


 サーシャも、肩で息をしながらも、当然よ! と得意気にラルムへ言葉を返してる。


「すごい……。本当に物理魔法で倒してしまった」


 僕は、サーシャと、ラルムを遠巻きに見つめ、そう呟いた。

 自分が情けなくて涙が出る。


 サーシャがそんなことを思って、僕とパーティーを組んでくれていたなんて、少しも気づかなかった。


 サーシャが努力して、今のような魔法技術を手に入れたあいだ、僕は何をしてたんだ?

 

 ただ怖がって、自分の力と向き合おうとしてこなかっただけじゃないか!


 ……自分が情けなくて、サーシャに申し訳なくて。

 僕は、目から次々と、涙が溢れていくのを止めることが出来なかった。


 そんな僕に気づいたサーシャは、はぁ~と深いため息をはいて、あんたのその直ぐ泣く癖、何とかならないの? とそう呆れたような顔をして笑ったのだった。


「サーシャ、ごめん。僕……びびって何も出来なかった! 情けなくて本当にごめん。」


「そう思うなら、次からは自分で何とかしなさいよ! 


 大丈夫、あんただって、魔法学校でスキルは身についてるはずよ。


 ……あんたに足りないのは勇気だけよ。


 もし、あんたが力を暴走させそうになったら、私があんたを殺してでも止めてあげるから。


 安心して、力をふるいなさい! いいわね?」


 おどけたように、物騒な言葉を言うサーシャに、僕は泣き笑いを浮かべながら、わかったよサーシャとそう言葉を返したのだった。


 


 ……この時の僕たちは、あれだけ強烈な物理魔法を駆使したのだから、でんきネズミに今度こそ止めをさせたのだと、そう信じて疑いもしていなかった。


……鉄槌が落ちる瞬間に、間一髪逃げ切っていたでんきネズミが、草影から、体当たりを仕掛けてくるまでは。





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