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4話 ラルムという謎のスライム

「セオ! どう言うことか、分かるように説明なさい!」


 そう、すごい剣幕で凄んでくるサーシャにビビりながら、僕は事の経緯をサーシャに説明したのだった。


「えっと……、サーシャ、こちらはラルム。見ての通り、とっても珍しい、喋るタイプのスライムです。


 他のモンスターは、知性が無いのか、意志疎通は難しいけど、ラルムは違う。とても面白くて良いスライムだよ。


 それに、ラルムはとっても物知りなんだ。各地方のモンスターの弱点だったり、貴重なアイテムの保管場所だったり何でも知ってるんだよ!


 僕が魔王討伐隊に選抜されたって話をしたら、心配だからついていってやるって言ってくれたんだ」


 そう言って、地面でぴょんぴょん跳ねるラルムを、腕に抱き抱え、サーシャに向き合う。


 僕の言葉にサーシャは青筋をたてながらこう言葉を返してきた。


「とっても物知りですって? そりゃそうでしょうよ! 


 モンスターだもの! モンスターがモンスターのことに詳しいのは当たり前でしょ! セオ、あなたバカなの? 


 こんなの、どっからどう見てもワナじゃない!


 じゃなきゃモンスターが、自分を滅ぼそうとする相手の手助けをしてやる理由なんて、どこにもないわよ!」


 そんなサーシャの言葉にラルムは、まぁお嬢ちゃんが言うこともごもっともだ、とそう言うと、こう言葉をつづけたのだった。


「確かに、お嬢ちゃんが疑う気持ちもよくわかる。


 けど、俺は本当に、ただこいつのことを助けてやりたいだけなんだ。


 俺はさ、こいつに恩があんだよ。


 昔、俺がヘタこいて剣士に見つかっちまって、死にかけてたとき、こいつは俺を手当てをしてくれたんだ。


 喋るモンスターなんて、薄気味悪いことこの上ねぇだろうに、こいつは俺が全快するまで、かくまってくれたんだよ。


 とんだお人好しがいたもんだって、俺は呆れ返るのと同時に、このお人好しがどうしようもなく気に入っちまったんだ。


 そしたらこいつ、魔法剣士に選抜されて、将来は、魔王討伐に赴くなんて言うじゃねぇか。


 こんな誰彼構わず情けをかけるようなやつ、ほっといたらすぐ死ぬに決まってるからな。


 だから俺は、こいつが本当に魔王討伐に行くことになったら、一緒についていってやろうって、そう決めたんだよ」


 そう言って、僕の事を見上げるラルム。


 僕はラルムの言葉がとても嬉しくて、ありがとう、ラルムとお礼を言いながら、ぎゅっとその体を抱き締めたのだった。


 途端に腕の中にムニュっとした何とも言えない感触が伝わってくる。常に液体で満ちているラルムの体はひんやりとして気持ちがよかった。


 そんなラルムの言葉に、サーシャはまだ訝しげな顔をしてこう言葉を返した。


「そんなの信じられないわ。セオがあんたを助けたのは、本当だとしましょう。


 でも、もし本当に魔王が討伐されたら、あんたもいなくなっちゃうんじゃないの? 


 各地のモンスターは、魔王の魔力により生かされ、人間を殺せと言う魔王の意思により突き動かされていると魔法学校で習ったわ。


 だから、魔王さえ倒せば、魔力の供給源を絶たれ、残りのモンスターも死滅するんでしょう?


 現に過去五度の魔王討伐の歴史がそれを物語っているわ。


 魔王を倒した後、各地に蔓延るモンスターは跡形もなく姿を消したって文献にも残っているもの。


 それなのに、セオの手助けするなんて、自ら自殺をしに行くようなものじゃない。


 それに、あんたもモンスターなら、あんたにも流れているんでしょう?


 人間を殺せと命ずる魔王の意志が。


 そりゃ、喋る知能のあるモンスターなんて驚いたけれど、言わばモンスターの本能のような魔王の意思に、いちモンスターが逆らえるなんて思えないわ」


 重大な事実をサーシャに告げられ、そうなのか! ラルム! 何で言ってくれなかったんだよ! と腕の中にいるラルムに慌てて問いかける。


 そんな僕にサーシャは、ちょっと! 今のは魔法基礎学で習う基本中の基本でしょ? と呆れたように言葉を続けたのだった。


 ラルムは、サーシャの疑問にカカカっと豪快に笑うと、心配要らねぇよとその理由を話し始めた。


「俺は特別製でなぁ。魔王の意思は俺には及ばないし、魔王が討伐されたとしても、俺自身の生命活動には、何の影響もないのさ。


 おまけに俺自身が死んでも、魔王の復活とともに、またこの世に生まれ落ちちまうときたもんだ。


 ……俺は死ねないんだよ。魔王が本当の意味で死なない限りはな」


「どういう意味よ?」


「俺はな、魔王が一番最初に産み出した、六匹のモンスターのうちの一匹なんだ。言わば始まりのモンスターなのさ。


 俺自身に魔法核が埋め込まれているから、俺は魔王からの魔力の供給は必要としないんだ。


 だから、魔王が討伐された後も、活動を続けることが出来るし、一つの生命体として独立しているから、魔王の意思にも左右されねぇ。


 その他のモンスターは、俺たちオリジナルを模して作られた複製品さ。魔法核もなけりゃ、意思も持たねぇ。


 だから魔王が討伐されたら一緒に姿を消してしまうってわけさ。


 簡単に言えば、俺たちオリジナルは、魔王から生まれた子供みたいなもんだけど、


その他のモンスターは、魔王の体の一部みたいな扱いだから、魔王の意思に従うし、生き死にも母体である魔王の状態に左右されちまうってわけよ。

 

 まぁオリジナルを複製したって言っても、長い年月の間、亜種が増えに増えて、モンスターの種類は、昔とは比べ物にならねぇぐらいに増えたがな」



「じゃあ、さっき言ってた、『本当の意味で魔王が死なない限りは自分も死なない』って言うのはどういう意味なんだい?」



 僕のその言葉に、あぁそれはな、と何故か少し悲しそうに微笑んで、ラルムは言葉を続けたんだ。



「いくら俺が独立した生命体だと言っても、所詮魔王から生まれた身の上だ。


 あいつが本当に死んでしまったら、俺も一緒に消えちまうだろう。


 けどな、お前らがやろうとしている魔王討伐なら問題ねぇ。あいつはまた復活するだろうからな。


 今行われてる魔王討伐は、厳密に言えば討伐ではなく封印だ。


『シクサイ』の杖の力で魔王を一時的に弱体化させ、『ファートムソード』で魔王の核を砕き、この大地に封印を施す。


 それが、お前たちが魔法学校とやらで習った、魔王の倒し方だろう? 


 けどな、それじゃあいつは死ねないんだよ。


 地中の魔力を、長い時間をかけて吸い上げ、また魔力を取り戻して、復活を遂げてしまう。


 だから、俺自体は魔王が討伐されようがされまいがどっちでもいいのさ。


 ……魔王が死なないなら、俺もどうせ死ぬことが出来るねぇんだからよ」


 そう言ったきり、口を閉ざしてしまったラルム。


 今の言葉が本当なら、ラルムは魔王と一緒に五百年もこの世界で生きていることになるのだ。


 長い年月の間、ラルムは何を思い生きてきたのだろうか? 寂しくなかったのかな? 辛くはなかったのかな? 


 そんな風にラルムのことを考えると、僕の胸はチクリと痛んだ。

 感情に任せて、もう一度ラルムの体をぎゅっと抱き締める。ラルムは僕の方を向くと、プッと吹き出し始めた。


 そうして、体を揺らして笑いながら、何でお前は泣きそうになってんだよ? とそう可笑しそうに僕に聞いてきたのだった。



 そんなラルムの言葉に、だってっ……と鼻をすすりながら、僕はこう言葉を続けた。


「君はさ、五百年も生きているんだろう?

 

 その長い時間、君は一匹で寂しい思いをしたんじゃないか? とか、


 魔王討伐が始まる度に、君は何度も、あんな風に討伐されたのかな? とか、


 だとしたら、痛くて苦しい思いを、何度経験したんだろう? って、そう考えると堪らなくなっちゃって……」


 そう涙声になりながら言葉を返す僕。


そんな僕にラルムは優しく笑うと、バカなやつだなぁ、と呟いてこう言葉を続けたんだ。


「お前は、感情移入が過ぎるんだよ。誰がお前に哀れんでくれなんて頼んだよ?


 そりゃ人間に見つかったら殺されちまうけど、また生き返ることも出来るし、それに、オリジナルのモンスターが他に五匹もいるから、寂しくなんてねぇよ。


 そんな風に人のことばかり心配してねぇで、ちったぁ自分の心配をしろよなぁ。 


 そんなんでモンスターを倒して先に進んで行けるのか? 


 間違ってもモンスターを討伐するときに同情なんかすんなよ? 

 

 オリジナルとは違って、あいつらには感情も痛みも何もないんだからな」


 そう言って僕のことを心配してくれるラルム。そんなラルムの優しさが僕はとっても嬉しかったんだ。


 先ほどとは、違う涙が目から溢れそうになる。


 慌ててゴシゴシと涙を拭うと、僕はラルムに、笑ってこう言葉をかけたんだ。


「ありがとう、ラルム。やっぱり君は、良いモンスターだ。僕の一番の友達だよ!」


 そんな僕の言葉に、ラルムはびっくりしたように目を見開くと、


 モンスターが一番の友達だなんて、お前はやっぱり変なやつだよ。と少し嬉しそうに笑ったんだ。


 そのやり取りを黙って見ていたサーシャは、はぁーっと大きなため息をついた。


 そうして、呆れたように頭に手をやると、こう言葉をかけてきたんだ。


「ちょっと私を置いてけぼりにして、話をまとめないでくれる?


 私はまだ、そこのスライムのことを信用した訳じゃないから。


 少しでも変な動きをしたら、即魔法で焼き殺すから覚悟しなさい。いいわね?」


「サーシャ、君はまだそんなことを! ラルムは良いやつだって言っただろう?」


「いいって、セオ! 俺はそれでも構わねぇぜ? まぁ、何はともあれ、これから一緒に旅をするんだ。よろしくなお嬢ちゃん?」


 僕の言葉に、被せるようにラルムはそう言うと、最後に、サーシャに向かいウインクをして見せたのだった。


 ウインクをされたらサーシャは、何よ、バカにして! お嬢ちゃんって言うの止めなさいよ! 


 と少し頬を赤くしてそう言い、僕の腕からラルムを取り上げると、そのままラルムにつかみがかり、その頬をビヨーンと横に伸ばし始めた。


「イテテ、お嬢ちゃん痛てぇよ、止めろ」


「あら、スライムなんて初めてさわったけど、あんたムニムニして、めちゃくちゃ手触り良いわね? 癖になっちゃいそう」


「おいこら、いい加減にしろって! ひっぱたくぞ!」


「やってみなさいよ! 返り討ちにしてやるから!」


「ちょっと、喧嘩はよしてよー。仲良くしてよー」


 こうして、ガヤガヤとやかましく、僕たち魔王討伐隊・第23班の旅は幕を開けたのだった。

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