3話 もう一人?の旅の仲間
ーーエルラド正門・暁の門ーー
「もぅ! セオってば、おっそい! 怖じ気づいて来ないんじゃないかと思ったわよ!!
他の班の子達はもう出発して、私達しかいないんだから!」
「ごめん、遅くなって」
あの後、一度解散し、旅に必要なものを準備した後、ここ暁の門の前で落ち合うことにした僕達。
僕の姿を見つけたサーシャは、プンプンと怒りながら、僕の方に駆け寄ってきた。
僕の姿をマジマジと見つめ、訝しげにこう声をかけてくる。
「それで、何を持ってきたら、そんな大荷物になるって訳?」
僕の肩に斜めにかかったカバンを指差し、そうサーシャは僕に問いかけてきた。
サーシャの言葉にピクリと肩を震わす僕。
……あぁ、やっぱり目についてしまったか。僕は、どうごまかそうかと考えながら、取り敢えず口を開き、こう言葉を返したのだった。
「えっ……それは、ええっと……あれだよ! 傷薬とか、毒消草とか、装備品さ。
詰められるだけ詰めてきたらパンパンになっちゃってさぁ。あはははは」
そう言って僕は、肩にかけたカバンの紐をぎゅっと握り、慌ててサーシャから隠すように体の後ろにカバンを回す。
……まずいまずい! 我ながらなんて苦しい言い訳なんだ!
こんな言い訳にサーシャが納得してくれるはずがなく。
僕の言い訳に、サーシャは、そんなわけないでしょ!と詰め寄りながら、こう言葉を続けてきた。
「私たち魔法使いが、装備品を大量に収納できる魔法袋を持っているって言うのに、アンタがわざわざ、かさばるカバンに装備品を入れてくる必要なんてないでしょ!
どうせつくなら、もうちょっとマシな嘘をつきなさい」
サーシャの鋭い指摘に、いやぁ、その……と口ごもる事しか出来ない僕。
あははは、やっぱりそうなりますよねぇ……。
サーシャは、ほらほら! さっさと白状しなさい! と、あの手この手でカバンを取り上げようと、更に僕に詰め寄ってくるので、
僕は、サーシャに取られまいと、肩からカバンを外し、半ば振り回すようにして、サーシャの手からカバンを遠ざけた。
僕の抵抗が気に入らなかったのか、サーシャは更に躍起になって、僕からカバンを取り上げようとしてくる。
そんな不毛なやり取りに終止符を打ったのは、カバンから聞こえた、いーかげん、振り回すのをやめろ! 目が回るだろうが! と言った、ドスの効いたオッサンの声だった。
「きゃぁ! 何なのよ! 今のは!」
「うぁっ、ちょっとサーシャ! お、落ち着いて!」
サーシャはカバンの中から聞こえた声に驚いてしまい、僕も驚いたサーシャにつられて驚いたため、二人ともカバンの紐から手を離してしまった。
カバンは振り回された勢いのまま、パシンと地面に叩きつけられていく。その瞬間カバンからは、うげっという声がまたあがるのだった。
しばらくして、地面に落ちたカバンがモソモソと動き出す。そこから顔を除かせたモノに、サーシャはまた更に、ぎゃあー! と悲鳴をあげてしまったのだった。
「あー、うるせーうるせー。全く、騒がしいお嬢ちゃんだぜ。
おいセオ、だから俺は無理だって言ったんだよ。このままバレずに旅なんかできるわけ無かろうよ」
そう言って、カバンの影から顔を出したのは、薄い水色をした液体状のモンスター、俗に言うスライムであった。
「ちょっ! ちょっと! 何でスライムがここにいるのよ! しかも、今、喋った!? 喋ったでしょ!?
何ぼさっとしてるの! 早く討伐しなさいよ!」
「あぁ、もう、サーシャ落ち着いて! 大丈夫だから」
半ばパニック状態のサーシャを、そう声をかけ、鎮めようとするけれど、そんな僕に対して、サーシャは更に怒りを爆発させてきた。
「何が大丈夫なのよ! こんな人里にモンスターが出てるって言うのに、大丈夫な訳ないでしょ!
もういい、どきなさい! 私がやるわ!」
サーシャはそう言うと、空間魔法で杖を取り出し、カバンの方をギッと睨みつけてきて。
そんなサーシャに睨まれた当の本人はと言うと、臆することなく飄々とした様子で、こう言葉を続けはじめた。
「まぁまぁ、お嬢ちゃん、そう早まるなよ。俺は悪さするつもりはないぜ。
それどころか、お前らの手助けをしてやる、ありがたい旅のお仲間なんだぜ?
感謝はされど、討伐される覚えはねーよ」
その言葉を聞いたサーシャは、余程びっくりしたのか、口をパクパクとさせ、なっなっなんですってー!! と今日何度目かの悲鳴をあげたのだった。