17話 作戦開始
「ここが、火燕の巣がある場所でさぁ。
ここから先の道は深い谷間を進むことになるんで、道の左右は高い崖に囲まれてるんです。
その崖のちょっとした岩場に巣を作ってしまったようで……。お二方見えますかい?
あそことあそこと……あそこにも! 火燕が巣の上からギラギラした目付きで俺達のこと睨んできてまさぁ」
若者達のうちの一人のサムが、そう言って僕達に状況の説明をしてくれた。
サムの指差す方向を見てみると、そこには岩場の影から怪しく光る無数の目が、こちらを睨んでいるのが見てとれたのだった。
僕はサーシャとラルムへ目配せをした。そうして、こう言葉を続けたのだった。
「わかりました! 皆さん。僕が合図したら荷車を、最高スピードで走らせてください。
僕とサーシャが荷車の上に乗って、襲ってくる火燕を撃退します。
幸い、この荷車には可動式の屋根がついているようなので、一部だけ残して屋根を折り畳んで、皆さんは貨物と一緒に屋根のある部分に固まっていてください」
「でも、それじゃ屋根の部分は見通しが悪くなって、警備が手薄になるんじゃ……?」
そう心配そうに声をあげるサムに、僕はニヤリと笑いこう言葉を返した。
「安心して下さい。屋根の上には、頼もしい味方がいますから」
「ラルムー! 準備はいいかいー?」
屋根の上のラルムに向かい、そう声をかけると、ラルムはピョンピョンと屋根の縁に移動し、荷台にいる僕達に向け、こう返事を返したのだった。
「良くないって言ったってどうせ聞きやしないんだろ? 全く、黙ってろって言ったり、屋根の上を警備しろっていってきたり、注文の多いやつらだぜ」
「まあまあ、よろしく頼むよ。屋根の警備は身軽な君が一番の適任なんだからさ」
そう言って、ラルムへ手を合わせると、しゃーねぇなとため息混じりにそう答え、ラルムは屋根の中央へ戻っていったのだった。
「セオ殿、本当に大丈夫なんですかい? スライムなんかに警備をさせて。逆に襲われたりしないでしょうね?」
先程のやり取りを見て、サムは不安そうにそう僕に声をかけてきた。サムの問いに、代わりにサーシャがこう返事を返した。
「大丈夫よ。さっきも話した通り、あのスライムは私の使い魔ですから。私たちの指示に従う従順なモンスターです」
「……くそぅ、言いたい放題言いやがって! あのお嬢ちゃん後で覚えてろよ」
サーシャの言葉にラルムは不服そうに歯をキリキリとならしていて。
そんなラルムへ僕はサムの死角からまぁまぁ、今だけ我慢してくれよ。とそうラルムをなだめたのだった。
ウィリー商会の人達と合流する前に、僕がサーシャとラルムへ予め伝えた作戦はこうだ。
先ずは僕とサーシャが後方を警備し、サーシャは雷魔法で後衛にいる敵を一層する。
荷車へ攻撃を仕掛けてくる敵には、僕が中距離の物理攻撃を仕掛ける。
火燕の炎の攻撃や前衛の攻撃は、水属性モンスターであるラルムが相殺させる。
そうして、一気に火燕の巣がある通りを駆け抜ける。という内容であった。
完璧な作戦のようにも思えたが、ただ1つ問題があった。
戦いにラルムが参加するとなると、スケルトンの魔法でウィリー商会の人たちへラルムの姿を隠し通すのが難しいのだ。
ここまで、二人に話をし、問題はラルムのことをウィリー商会の人たちに、どう受け入れてもらうかなんだけど……。と話をふると、サーシャはしょうがないわね、私が何とかするわ。とそう言って、得意気に腰に手をあてたのだった。
屋根の上の警備の手薄さをサムに心配された時に、サーシャは、ウィリー商会の人たちの前で、ラルムのスケルトンの魔法を解いた。
突如現れた新なモンスターに、予想通り、パニックになりかけたウィリー商会の人たちに、
サーシャは大きな声で、落ち着いてください!! と一喝したのだった。
そうして、静けさが戻った所で、こう説明をし始めた。
「このスライムは無害です! 私はこのスライムを魔法で使役しています。なので、皆さんが知ってる凶暴なモンスターとは違い、私たち人間を襲うことはありません!」
「ちょっ……!お嬢ちゃん、なに勝手なことを……ムグムグ」
「まぁまぁ、ラルム、ちょっと黙ってて」
サーシャはの説明に、文句をつけようとするラルムの口を慌ててふさいで、僕はサーシャへ続きを話すように促す。
サムは、サーシャの言葉に信じられないとこう反論してきた。
「そんな魔法技術、見たことも聞いたこともありゃしませんぜ! 本当にそんなことが可能なんですかい?」
「皆さんが知らないのは当然の事です。この使役の魔法は代々我が一族に口伝で伝わる、秘術だからです」
そんなサーシャの言葉にウィリー商会の人たちは、どう思う? 俺は信じられねぇぜ! なんてそう口々に言葉を言い始めた。
サムは、他の人たちの言葉を代表し、こう言葉を返す。
「サーシャ様よ。こう見えても、俺達は魔具開発の最前線に携わる者達なんでさぁ。
そんなに凄い術なら俺達の耳まで噂は届いてるはずさね。
それなのに、俺達の中の誰一人としてそんな術は聞いたことがない。
これで信じろと言う方が無理な話さね」
サムのごもっともな言い分にサーシャは動揺することなくこう言葉を続けた。
「確かに、皆さんが信じられないのも無理はありません。
魔法使い名家が、それぞれの一族のみに伝承し続ける秘術は、発動条件は極秘であれど、技名やどのような効力を秘めた技なのかは公開されているのが一般的ですからね。
そうすることで、各魔法使い名家は自分たち一族の、優秀さと強さを誇示することにもなりますから。
私の一族、テレジア家も技名の明かされている秘術が存在しているのもその理由です。
ですが、この使役の魔法だけは違います。
いち魔法使い名家でしかないテレジア家が、幾重ものモンスターを使役することが出来ると話が広まったら最後、他の人々にとって、我々テレジア家は魔王に匹敵するほどの恐怖の対象となるでしょう。
だから、この使役の魔法は極秘中の極秘魔法として、口伝のみで伝えられているのです。
本来であればこのように口外することは許されませんが、他に皆さんの信頼を得る方法が考えつきませんでした。
……どうか、私を、ラルムを信じてください。このモンスターは人を襲いません」
そういって、サーシャはウィリー商会の人達へ深々と頭を下げたのだった。
ウィリー商会の人達は戸惑ったようにざわめき始めたがやがて、サムがサーシャへ向けこう言葉を口にしたのだった。
「わかりました。俺達は、サーシャ様を信じます。この使役の魔法のことも一切他言は致しません。なぁ、野郎共!」
そのサムの声かけに他の人々も、おう! と元気良く返事を返したのだった。
そんなウィリー商会の人たちを尻目にサーシャは下げた頭をそのまま僕の方へ向け、してやったりとニヤリと微笑む。
全く、よくもまぁこんなに嘘八百並べられるよなぁと、僕はサーシャへひきつった笑みを浮かべたのだった。




