16話 火燕の弱点
「「「うわぁぁぁ!」」」
強烈な浮遊感を伴って、僕らは重力に引っ張られるように木々が生い茂る山奥へ落っこちていったのだった。パキパキと枝が折れる音と共に地面に尻餅をつく僕とサーシャ。ラルムは僕をクッションにし、一人だけ衝撃を免れていた。
「あいたた……! もう、サーシャの移動魔法は相変わらず荒いなぁ」
腰を擦りながら僕がそういうと、サーシャは首をかしげながら言葉を返した。
「おかしいわね、こんな近距離の移動で、着地に失敗したことなんて今までないんだけど……。どうして移動軸に乱れが生じるのかしら?」
「いいって、お嬢ちゃん。人間誰しも、苦手なことの一つや二つあるもんさ」
ラルムはサーシャの肩に飛び乗ると、プルプルと首を横にふりながら、サーシャへそう言葉をかけたのだった。
サーシャはそんなラルムの態度に青筋をたてながら、こう反論をする。
「苦手じゃないったら! 本当に何故か、移動軸が定まらないの! 私のせいじゃないわ! アンタ久々に喋ったと思ったら、そんな嫌みしか言えないわけ?」
そう言って、サーシャは肩の上のラルムを鷲掴みにしようと、手を伸ばしたが、ラルムはそんなサーシャをからかうように、その手をひらりと交わし、今度はサーシャの頭の上に飛び乗ると、そこから言葉をかけたのだった。
「まぁ、そう言うことにしといてやるよ。久々に喋るのはしゃーねぇだろ! お前らが、街中じゃ目立つから黙ってろっていったんじゃねーか! 俺だって、ずっと押し黙ってんのはストレスだったんだぞ!」
「アンタのストレス事情なんて知らないわよ!」
そういって、取っ組み合いの喧嘩を始めたサーシャとラルム。
僕は、はぁーっと大きな溜め息をついて、そんな二人の間に割って入り、こう言葉を続けた。
「もー! 二人ともすぐ喧嘩するんだから。今はそんな言い合いしてる場合じゃないだろう? 早くウィリー商会の荷車を探さなきゃ」
僕の言葉に、二人はしぶしぶ言い争うのをやめたが、ほっとくとまた言い合いを始めそうなので、僕は不服そうに暴れるラルムを腕に抱え、ウィリー商会の荷車を探すことにしたのだった。
「ところでラルム。今のうちに聞いておきたいんだけど、今回の相手、火燕の弱点はあるの?」
僕の問いに、ラルムはあぁ、あるぞ。と返事を返し、こう言葉を続けた。
「火燕はな、翼を高速で羽ばたかせることにより、羽どうしで摩擦を起こし、その摩擦熱を炎に変えて攻撃をしかける。だからあいつらは超帯電体質なのさ。と言うことは……?」
そう片眉を釣り上げニタリと笑うと、僕たちに問いかけるラルム。ラルムの問いに僕とサーシャは声を揃えてこう返事を返した。
「「電気に弱い!」」
僕らの答えに、ラルムは満足そうにカカカと笑うと、言葉を続ける。
「その通り! あいつらを倒したければ、雷系の魔法で応戦しな。あと、物理攻撃もそれなりに効くが、縦横無尽に空を飛び回るから、下手したらでんきねずみの時より攻撃を当てづらいぞ。心してかかるんだな」
「わかったよ! ありがとうラルム。大丈夫、僕に考えがあるんだ。初めての試みだから上手くいくかはわかんないけどね。二対の聖剣だからできることだと思うから、試してみたくて」
そういって、僕はサーシャとラルムに考えた作戦を伝えた。
「ほう、そりゃ楽しみだな。期待してるぜ、セオ」
「……まぁ、セオにしては中々いい作戦なんじゃないの?」
僕が作戦を伝え終わると、サーシャとラルムはそういって、作戦へ同意してくれたのだった。
「でも、本当にラルムの情報はありがたいや。お陰でモンスターと戦う前に、対策を打てるもの。ラルム、ついてきてくれて本当にありがとう」
僕がそう改めてお礼を言うと、ラルムはよせよ、照れるだろうが! と照れ臭そうに、それでいて少し嬉しそうにそう返事を返した。
「まぁ、そうね。アンタのその知識だけは認めるわ」
ラルムへ素直にお礼を言うのが嫌だったのか、サーシャは唇を尖らせながらそう言葉を返してきて。
そんなサーシャに、ラルムは、はぁーっと溜め息をつくとこう言ったのだった。
「相変わらず、可愛げのねぇお嬢ちゃんだな」
「何ですって!?」
「コラコラ、やめなさいってば!」
また言い合いをはじめた二人を仲裁しながらも、僕達は荷車を探し歩みを進めて行った。
「ほら、あそこじゃないかな? 木々の間から煙が昇ってるのが見えるよ! 焚き火の跡か何かじゃない?」
「本当ね、行ってみましょう」
「それじゃラルム、すまないけどウィリー商会の人達と合流したら、また少し静かにしててくれるかい?」
僕の言葉に、ラルムはえぇーまたかよぉ。と膨れっ面をしたものの、最後はわかったよと返事を返してくれた。
草木を掻き分け、煙の昇っている方向へ進むと、思った通りそこには大きな荷車と、疲れたような顔つきで携帯食料を口にする、数人の若者たちが居たのだった。
カサカサと葉音を音をたてながら、僕らが彼らに近寄ろうとすると、若者たちは顔を強ばらせて、一斉に僕らの方を向き、クロスボウや、剣、槍などの武器を手に取り身構え始める。
そんな若者たちに、僕とサーシャは慌ててこう言葉をかけた。
「わっ……ちょっと、待って! 僕らはモンスターじゃないよ! ウィリー商会の依頼を受けて、君達の護衛に来た魔王討伐隊の者です!」
「そうよ、私たちがあなた達をコンカルノーまで送り届けるから。もう安心よ」
僕らの言葉に彼らはほっと顔を綻ばせ、助かったぁと口々に歓声をあげはじめた。
……きっと彼らは、いつモンスターに襲われるのか、不安にさいなまれながら肩を寄せ合い、長い夜を過ごしたのだろう。
彼らを早くコンカルノーへ帰してあげなければと、僕は彼らの姿を見て、改めてそう決意を固めたのだった。