13話 魔具師ベルの実力
「それでは、お二人の武器と防具をここへ置いてくだサイ」
「わかったわ」
「これでいいかい?」
工房へつくなり、ベルへそう言われて、僕たちは身に付けていた防具と、聖剣と杖を机の上に差し出した。
ベルは、それではまず、サーシャさんの装備から見させて頂きマスね。とそう言うと、大きなミクロスコープをかざして、隅から隅まで装備を確認し始めた。
「フムフム、サーシャさんの防具の初期設定は、鋼の純度を少なくし、軽さをだして動きやすくされてマスね!
しかしその分、強い衝撃は吸収出来ずに、ダメージを受けてしまうようデス。物理攻撃には弱い構造となってマスね。
また、杖はマンドラゴラの含有量を通常より多くし、膨大な魔力を込めても簡単には折れない作りになっていマス。
そのため威力の高い、高濃度の魔法攻撃を繰り出すことが可能となってマスね。
けれどその反面、簡略呪文では技を繰り出せず、正式な呪文の詠唱が必要となるため、技を発動するまでに時間がかかるのではないでショウカ?」
「さすがね、すごいわ! 全部当たってる!」
ミクロスコープで目視しただけで、サーシャの防具と、杖の特性を見抜いたベルは、サーシャに褒められて、えっへん! と得意気に胸を張ったのだった。
その横で何故か、ベルと同じように誇らしげに胸を張る、ブレディの姿が目に映り、僕は思わず吹き出してしまったのだった。
「それで、装備のバージョンアップはどのように望まれマスか?」
「そうね、防具はやはりもう少し強度をあげたいわ。難しい注文かもしれないけど、これ以上重たくならずに、強度をあげる方法はあるかしら?
あと杖はやっぱり、技の発動時間の短縮をしたいわね。技の威力もあげたいけど、一番はスピードの強化かしら」
「フムフム、防具は重さを変えずに強度をあげて、杖は発動時間の大幅な短縮と威力の微増デスね! ナルホド、ナルホド。それでは次に、セオさんの装備を見させて頂きマス」
ベルはサーシャの注文を手早くメモに取ると、今度は僕の装備を確認し始めたのだった。
防具や武器のバージョンアップは、基本的にエルラドで支給された防具と武器を雛形に鍛え直して行われる。
エルラドにも一応魔具師がおり、その魔具師達が、魔法剣士や、魔法使いの要望をそれぞれに聞いて、防具や武器はオーダーメイドで作られるのだが、
コンカルノーの職人に比べると、どうしても腕が落ちてしまうのと、魔具の原料の資源が乏しいこともあり、エルラドでは、必要最低限の機能しかつけることが出来ないのだ。
そこで、コンカルノーにたどり着いた討伐隊士達は、これから強くなるモンスターたちに備えるために、コンカルノーで装備の整備をするのがお決まりになっていたのだった。
ミクロスコープで僕の聖剣を確認していたベルは、急に顔色を変えて、聖剣を手に取り、隅々までくまなく確認し始めた。そうして、思っても見ない言葉を口にしたのたった。
「セオさん、一体どんな無茶な戦い方されたのデスか!?」
「えっ? どんなって、普通に魔力を込めただけだよ? ここに来るまで、討伐も一度しかしてないし」
「まさか! 一度の使用で、聖剣がここまでダメージを受けたということデスか!?」
「どういうことよ?」
「セオさんの聖剣はヒビが入り始めてマス。」
「「えっ!?」」
ベルはそう言うと、僕の聖剣の柄の部分を指差し、ミクロスコープをかざして僕たちに覗くように促した。
目を凝らしてみると、そこには小さなヒビが入っているのが見てとれたのだった。
「通常聖剣には、軽さ、しなり、魔力伝導のバランスの良い、アダマントという金属が使われるのですが、セオさんの聖剣には、魔力伝導によりすぐれたヒドラスが使われていマス。
そのため、セオさんの聖剣は、一般的な聖剣より、重さはでるものの、魔力耐性に優れているのデス。
どちらかと言えば剣の切れ味より、魔力による追加ダメージをメインに考えて作られている聖剣と言えマスね。
だからこそ、このように込められた魔力に耐えられずに、ヒビが入るなんてことは通常考えづらいのデスが……
このまま、使用を続けていたら、あと2~3回でこの聖剣は朽ち果てて使い物にならなくなるところでシタ」
「そんなにダメージを負っていたのか……僕の聖剣は。
となると、どんな風にバージョンアップした方がいいんだろう?
僕としては、もう少し軽く出来ないかなぁって考えていたんだけど、
今の話だと軽さを出すと、今より強度が下がってしまうわけだから、僕にあったバージョンアップじゃないような気がして」
「うーん、それでは、まずはセオさんの潜在魔力の数値が、どれくらいあるのかを計らせて頂いてよいデスカ? そこからセオさんにあった性質を持った鉱石を選別させて下サイ」
「わかった、よろしく頼むよ」
「では、こちらのアイリスクォーツに魔力を込めて下サイ」
ベルの指示通りに、渡されたアイリスクォーツへ魔力を込める。
アイリスクォーツとは、昔から潜在魔力数を計るのに使われる水晶で、通常時の色は無色透明なのだが、込められた潜在魔力数の量によって七色に変色する特色を持っているのだ。
正確な潜在魔力数を図れる優れものなのだが、貴重な水晶なのでエルラドでは使われておらず、僕自身正確な潜在魔力数をわかっていなかったのだ。
僕が魔力を込めると、アイリスクォーツは神秘的な光を放ち色を変え始めた。
「これは……スゴイ! キレイな紫色デスねぇ! ワタクシこの色に光るアイリスクォーツを初めて見まシタ!
アイリスクォーツは、潜在魔力数の低い順から、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫に色が変化しマス。
どんなに優れた方でも大体、青から藍色の変化で止まるのデスが……。
ナルホド、これじゃあ生半可な鉱石だと、セオさんの魔力に耐えられないわけデスね。
わっかりまシタ! セオさんの武器は、まず魔力耐性を第一に考えまショウ!
それにあわせて、刃先をできる限り細く鋭くすることで、軽さと切れ味を両立させたいと思いマス!
ただそうすると、どうしても物理的強度が弱くナルので、そこは黒石を混ぜて強度を出していく予定デス。
この内容でいかがでショウか?」
「すごい、バッチリだよ! それでお願いします!」
「あとは、防具デスね、これは提案デスが、ここまで潜在魔力数があるのなら、攻撃を受ける度にセオさんの魔力を自動で使い、魔法プロテクトを張れる、追加効果をつけてみてはいかがでショウ?」
「魔法プロテクト?」
「そうデス。魔法プロテクトは、攻撃受ける毎に自動で発動するので、通常の方の防具に施すと、すぐに魔力切れを起こしてしまいマス。
そのため、技術自体は昔からあるのですが、実際に防具へ引用されたケースは殆どありまセン。
けれど、セオさん程の潜在魔力なら、きっと使いこなせると思うのデスが、いかがデショウ?」
「わかった、それで防具のバージョンアップもお願いするよ。
魔法プロテクトに魔力を吸われたら、その分武器に込める魔力量の調節もしやすくなりそうだしね」
「かしこまりましタ! おまかせくだサイ! 腕がなるのデス! さて、次はサーシャさんの潜在魔力数を計らせて頂いてよいデスか?」
「セオのあとに計るのは、何だかやりづらいわね。まぁいいわ。アイリスクォーツを貸してちょうだい」
サーシャは、少し不貞腐れたようにそう言うと、僕からアイリスクォーツを受け取り魔力を込め始めた。
アイリスクォーツは、輝きをまし、やがてキレイな青色に色を変えたのだった。
「これも、スゴイ! 青色ですカ! お二人とも潜在魔力数はとても多くいらっしゃるのデスねぇ。
かしこまりましタ、サーシャさんの杖と防具に使う鉱石もあらかた絞り込めましたヨ!
早速メモにまとめますので、用意して頂けマスか?」
「わかったよ、ベル」
「任せてちょうだい!」
ベルの言葉に僕たちがそう返事を返すと、ベルはサラサラとペンを滑らし、必要な原料を書き出したのだった。