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12話 ベルとお兄ちゃん

「思い出したわ! ベルニカ・ホワードって、確か2年位前に、コンカルノー王国で最難関の、国家魔具師認定試験に、史上最年少で受かったって有名になった子の名前よ!」


 ベルの名前を聞いたサーシャは、そう興奮ぎみに僕に言葉をかけてきた。それを聞いて、さらに目を丸くする僕。


「えええっ! こんなに幼い子が、国家魔具師認定試験に受かったって言うのかい!?」


 僕のその言葉に、ベルはぷぅっとほっぺたを膨らませると、プンプン怒りながらこう言葉を続けたのだった。


「幼い子とは失礼デスね! ワタクシこう見えて、14歳の立派なレディなのデスよ?」


 そう言って、精一杯胸をはり、トンと胸を叩くベル。

そんなベルの言葉に、僕は頭を下げながらこう言葉を返した。


「驚いた! 僕らと2つしか変わらないじゃないか! これは失礼なことを言ってしまったね。すまなかった」

 

「わかって下さればよいのデス。それで本題なのですが、皆さんが装備の手入れが出来ず困っていらっしゃるので、よろしければワタクシが、整備を承ろうかと思うのデスが……」


 そのベルの申し入れに、サーシャが食いぎみに言葉を返した。


「本当にいいの? 私達にとっては願ってもない話だけど、コンカルノーの国家魔具師は、民間の依頼を受けないと聞いたことがあるわ。そこの所は平気なの?」



 サーシャのその言葉に、ベルはニカッと明るく微笑むと、こう言葉を続けた。


「はい、本来ならワタクシ達は国に雇われている立場なので、民間から依頼を受けることも、お金を受け取ることも出来まセン。


 ワタクシどもの仕事はあくまで、コンカルノーに安置されている『ファートムソード』と『シクサイ』の整備・修繕と、新しい魔具技術の研究・開発でありますカラ。


 ですが、お二人は魔王討伐隊の方々でありますし、何より恩人デス。


 国家魔具師として、対魔王討伐魔具を管理するものとして、今魔具を鍛えずとして、いつ鍛えるというのでショウカ!


 それに、お代を受け取らなければ、依頼を受けた事にはなりまセン。

 これは、依頼ではなく、あくまで恩返しなので、お気になさらないで下サイ」


 最後はいたずらっ子のようにニシシと笑い、少々こじつけとも思える言い訳を口にしたベル。


 規則ギリギリの危ない橋を、僕らの為に渡ろうとしてくれるベルに、僕は感謝の気持ちでいっぱいになる。


 その気持ちをありったけ込めて、僕はベルの手を両手で握り、ありがとう! 本当に助かったよ! 君に出会えて僕は本当に幸せ者だね! とそう微笑んだのだった。


 ベルは、驚いたように目を見開くと、慌てて僕の手を振り払い、何故か顔をかぁっと赤くし、片手で顔を隠しだした。


 そうして、いっいや、そんな、めっそうもないデス! と照れたように返事を返したのだった。


 そんな僕らの様子に、サーシャは面白くなさそうに、眉をひそめると、僕のほっぺたをぎゅっとつねってきて。


 誰かれ構わず、無駄に愛想をふりまくんしゃないわよ。油断も隙もない男ね! とサーシャにそう怒られてしまったのだった。


 つねられた頬を撫でながら、サーシャってば、何を怒ってるんだろう。と一人呟く僕。


 そんな僕の言葉に、今までのやり取りを僕の肩の上で黙って見ていたラルムが、お前って、何気に女たらしだよな。と横目でそう小さく声をかけてきた。


 ラルムの言葉の意味が理解できなかった僕は、どういう事? と質問をしたけど、ラルムは、無自覚なのが手に負えねぇなぁ。とそう言って、話をはぐらかして僕で遊ぶだけで、明確な答えを言ってはくれなかったのだった。




 あのあと、装備の状態を確認する為に、ベルの工房に向かうことになった僕たち。

 工房へ向かう道中で、ベルが少し申し訳なさそうにこう口を開き始めた。


「ひとつだけ皆さんにお願いがあるのデスが……。


 ワタクシの工房にある魔具の原料は、すべて国から支給されてるものなので、お二人に使うことが出来ないのデス……。


 デスので、お二人が望む、装備のバージョンアップに必要な原料は、お二人に調達して頂く必要があるのデスが、よろしいでショウカ?」


 ベルのその言葉に、僕とサーシャはもちろんだよ! とそう言葉を返した。


「むしろ、それぐらいはさせてほしいわ」


「そうだよ、タダで整備してもらえるって言うのに、その上原料まで調達してもらうなんて申し訳無さすぎるよ。今でさえ、何のお礼も出来ないのが、心苦しいくらいなんだから」


 そうベルに言葉を返すと、僕らの言葉に、好きでやってるんですから、気になさらないで下サイ! とそう言って、笑ったのだった。


 そうして、ベルの工房へ歩みを進めていると、後方からドドドドトッという地面を蹴る音が遠くに聞こえ始めた。


 何の音かしら? というサーシャの声に、僕らもその音が気になっていたので、みんなで一斉に背後を振り向く。


 するとそこには、凄まじい砂煙をあげながら、ベルニカ~!! と叫び、僕らへ走りよってくる屈強な男がいたのだった!


「貴様らか! 私の妹を襲った輩はぁ! 成敗してくれる!」


「ちょっ……待って! グヘェ!」


「きゃあ! ちょっと、何なのよ!」


 その男は有無を言わさず、勢いよく僕にラリアットをかましてきて。


 僕はなす術もなくそのまま後ろへ倒れこむ事しかできなかったのだった。


 足元に倒れ込んだ僕たちを避けるように、サーシャは小さく悲鳴をあげながら、素早くサイドへ飛んだ。


 運悪く逃げられず、僕の下敷きになったラルムが、グェッと蛙のような鳴き声をあげたのが、背中越しに小さく聞こえる。

 

 ラルムから退こうにも、先ほどの男が僕へ馬乗りになり、胸ぐらをつかんでくるので、身動きを取ることができなかったのだった。


「にぃ! 何を勘違いしているのデスカ! この方々はワタクシを賊から助けてくれた恩人なのデス! 早くそこを退くのデス!!」


「へっ……? この者達が?」


 ベルにそう言われ、きょとんとした顔て、僕とベルを交互に見つめる男。

 やがて、静かに僕の上から退くと、僕の手を引き、立ちあがらせ、ポンポンと僕の体についた埃を払い始めたのだった。


 床にへばっていたラルムは、その隙にうまく抜け出したようで、メソメソと嘘泣きしながら、身震いして体についた砂を振り払っている。


「いやぁ、これは失敬した! メガネをかけたお下げの女の子が、賊に襲われていたと門兵達が噂をしていたのを聞いて、ベルニカに違いないと思い、慌てて駆けつけたもので……。


 どうやら、早とちりをしてしまったようだ。すまなかった!」


 そう言って、ハッハッハッと爽やかな笑い声をあげると、妹を助けてくれて感謝する! と僕に手を差し出し、男は握手を求めてきた。


 僕が彼の勢いに押され、おずおずと手を差し出すと、彼にぎゅっと力強く手を握り絞められて、ブンブンとすごい勢いで、上下に振り落とされたのだった。


「申し遅れてしまったな! 私はフレデリック・ホワード。ブレディと呼んでくれ。そこにいるベルニカの3つ上の兄だ! 君たちは?」


「僕は、セオドア・クロス。魔王討伐でエルラドより派遣された、魔法剣士の一人です。彼女は僕とパーティーを組んでくれている魔法使いで、サーシャ・テレジアと言います」


「よろしくね」


 僕に紹介されたサーシャか、手を差し出すと、彼は、こちらこそよろしく! とそう言って、これまたブンブンと上下にサーシャの手を振り回すような握手を交わしたのだった。



 ブレディに、今までの経緯を話し、ベルの工房へ向かっていることを話すと、道中が不安だから私もついていこう。とそう彼が言ったので、僕らはブレディと一緒にベルの工房へ向かう事となった。


 ブレディに対して、膨れっ面をしてこう言葉をかけるベル。


「もぅ、にぃは過保護過ぎるのデス! 大体まだ僧侶の仕事中なのでショウ? 持ち場を離れて良いのデスか?」


 そんな妹の言葉に、ブレディはハッハッハッと豪快に笑うと、ベルへこう言葉を返した。


「父さんから、母さんとベルをしっかり守るように言われているのだから、これぐらい当然の事だろう? 


 3年前に守人の職を引き継いだ父さんは、もう持ち場を離れることが許されないからな。

 ……それに、病気で亡くなった母さんにはもう何もしてやれないから。

 ……だからその分、お前だけでも守ってやりたいのさ。

 仕事の事は心配するな! 元々今日は非番だ」



「本当に、非番なのでショウね? 前もそんなことを言って、蓋を開けてみたら勝手に抜け出して来ていたじゃないデスカ!」


「全く、疑い深い妹だなお前は!」


「にぃの日頃の行動が、ワタクシにそうさせているのデス!」


 そう言って、ガヤガヤと兄妹喧嘩を始めてしまったホワード兄妹に苦笑しながら、僕たちは巻き込まれないように黙ってそのあとをついていく事しか出来なかったのだった。

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