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11話 装備の手入れが出来ない!?

「ありがとうございました! お二人は恩人なのデス! 」


 僕が取り返した荷物を返してあげると、持ち主の女の子は、そう言って、すごい勢いで何度も頭を下げ始めた。


 彼女の頭の上下に合わし、女の子の腰の高さまである2つに結ばれたおさげが、ブンブンと宙を舞う。



「そんなに、お礼を言われるようなことじゃないわよ。当たり前のことをしただけだもの」


 そう言って、女の子に顔をあげるように促すサーシャ。


 そんなサーシャへ、君は何もしてないじゃないか……。と小さく反論するけど、ギッとサーシャに睨まれ、僕はヒィっと身をすくめた。


「そんなことはないのデス! 

 ……この荷物の中には、母の形見の首飾りが入っていたんデス。


 いつもは肌身離さず身につけていたのですが、今日は運悪く、金具が外れてしまって、後でなおそうと鞄に入れてしまっていたんデス。


 だから取り返して頂けて、感謝しても仕切れまセン! 本当にありがとうございますなのデス! よろしければお名前をお聞きしても良いデスか?」


 頭を下げた反動でずれた大きな丸眼鏡を、手の甲で持ち上げながら、女の子のはそう言って微笑んだのだった。


「私は、サーシャ。それで、横でボケッと突っ立っている、見掛けだおしのヘボ剣士が、セオドアよ。セオでいいわ」


「ちょっと、ヘボ剣士は酷いじゃないか! ちゃんと紹介しておくれよ!」


「何よ! 間違えてないでしょ」


 「セオさん、サーシャさんデスね! ステキなお名前なのデス! 是非とも恩返しをさせて下サイ! 何かワタクシに出来ることはありますカ?」

 女の子のその言葉にサーシャは、ピコンとひらめいたような顔をして、それならお願いがあるんだけど? とニタリと含み笑いを見せたのだった。



「ここが『アイギス街』の入り口なのデス。


 これは地元の人間しか知らないことですが、『アイギス街』内でも魔具師のランクは3つに別れておりマス。

 

 けれど、お客さんから受け取れる代金の上限額は、国で決められているので、どの店を選んでも支払う金額に変わりはありまセン。

 皆さんが装備品の手入れをされたいのなら、向かって右側のあちらの通りのお店から選ぶとよいデス。

 あちらの通りの職人さんは、腕の良い者たちばかりデスから」


 そう言って、スタスタと僕らの先を歩きながら、女の子は地元の人間ならではのウンチクを披露していく。


 サーシャは、いやぁ、ここであの子と出会えて良かったわ! と満足そうに微笑みながら、女の子の後についていったのだった。




 サーシャが、彼女へお願いした内容は、鍛冶屋街の道案内だった。


 ワタクシで良ければ喜んで! とサーシャの申し出を快く引き受けてくれた女の子は、楽しそうに僕らを先導し、鍛冶屋を慣れた足取りで歩いていく。


「でも、サーシャ。何であの子に道案内を頼んだの?」


 女の子の後をついていきながら、僕はそうサーシャへ尋ねた。

 僕の問いにサーシャは、フフンと得意気に笑いながら、こう答えたのだった。


「コンカルノーの魔具師は、同じブロックでも職人の腕に差があるって話を聞いたことがあったのよ。

 けど、どの魔具師が良いのかまでは、調べることが出来なくて。

 だから地元の子なら何か知ってるんじゃないかと思って、声をかけてみたら、ビンゴだったわ! 

 これで心配なく装備品の手入れが出来るってもんよ」


「なるほど! サーシャ頭いい!」


「もっと褒め称えなさい!」


 そうして、ルンルン気分で歩みを進めていた僕たち。


 けれど、いざ鍛冶屋へ言ってみると、僕たちに思ってもみない結果が待ち受けていたのだった。



「ちょっと! 私達の装備品の手入れは出来ないってどういうことよ!」


「そうデス! どうしてそんな意地悪をされるのデスか!」


 バシンと、机を叩き、店の店主に向かい、そうすごむサーシャと女の子。

 すごまれた店主は、そう言われましてもねぇ。となんとも煮え切らない態度で、こう言葉を続けたのだった。


「申し訳ないんですがねぇ、『セオドア・クロス率いる魔王討伐隊の装備は全て受付をするな』と言う御触れか出ているもんでねぇ。

 先程見せてもらった、エルラド魔王討伐隊の証明書にその名前がのってたもんだから。そういうわけだから、他当たってくんな」


「他って……! もう10件近く断られてるのよ! 誰よ? そんな御触れを出して回ってる奴は!」


「やぁ、これはこれは。誰かと思えば、へっぽこ剣士君じゃないか」


「ゲッ、その声は……!」


 声のした方を振り向くと、そこには嫌みったらしい笑みを浮かべたロイドと、そのすこし後ろに、伏し目がちにアリーが立っていた。


 ロイドは、腰に差していた聖剣を取り出すと、机の上に乗せながら、僕たちへこう言葉をかけてきた。


「店先で何を騒いでいるんだい? あぁ、もしかして装備品の手入れを断られてしまったのかな? 装備品の手入れが出来ないんじゃあ、この先討伐を続けることなんて出来やしないだろうねぇ、可哀想に」


 そう言うや否や、僕を肩で押し退けると、ロイドは鍛冶屋の店主に親しげにこう話しかけたのだった。


「やぁ、ドリー。元気にしていたかい? 早速だけど、僕らの装備品の整備をお願いできるかな?」


「これは、ロイドお坊っちゃま! いらっしゃいまし。無事にコンカルノーまでたどりつけたようで、何よりです。かしこまりました、お預かりさせていただきます」


「ちょっと! 私たちの時とは態度がまるで違うじゃない! どういう事よ!」



 店主の態度にサーシャがそう噛みつくと、ロイドは鼻につく笑い声をあげこう言葉を返したのだった。


「僕達アーガイル家はね、民間の魔具職人の殆どが加入している、コンカルノー・魔具師連盟に多額の資金援助をさせてもらっているのさ。


 だから、ここの魔具職人達は、僕の言うことを尊重してくれるんだ。


 ハッハッハッ! 残念だねぇ、サーシャ君。


 ついてくる魔法剣士を間違えてしまったために、君は初期装備のまま武器のグレードアップが出来ないのだから!


 でもまぁ、僕は寛大な人間だからね。君が考え直して、僕と一緒に行くと言うなら、君の装備は手入れをしてもらえるように頼んでもいいんだよ?」



 ロイドそう言われたサーシャは、無言でロイドに近寄ると、


「私、こんなみみっちい嫌がらせする男、キライ」


 とそう言って僕の手を引き、サーシャはロイドの方を振り替えることもなく、店を後にしたのだった。



「なっ! ……みみっちいだって!? どこまでもコケにしてくれるじゃないか! どこにでも行くといいさ! どうせどこの鍛冶屋も、君たちの装備を預かっちゃくれないだろうけどね!」



 去り際に、そうロイドが叫ぶ声が後ろから聞こえる。僕はサーシャに、本当にいいの? とそう声をかけた。


「どういう意味よ」


「今からでも、君だけでもロイドについていった方がいいんじゃないかって思ってさ」


「バカなこと言わないで! あんな意地の悪い男、こっちから願い下げよ」


「そうは言っても、初期装備のままじゃあ、この先強くなるモンスターを倒すことなんて出来やしないよ」



「それは……そうだけど……」



 僕の問いにサーシャは、そう言って悔しそうに口をつぐんでしまった。


 そんな僕らのやり取りを黙って聞いていた女の子が、あのー。とそう言って話に割って入ってきた。

 女の子の方へ、目線を向ける僕とサーシャ。


「もしよろしければ、ワタクシが装備を整備しましょうカ?」


「どういう事?」


「君が装備を手入れしてくれるって?」


 僕らの問いに彼女はニッコリと笑うと、トンと胸を叩き、こう言葉を続けたのだった。


「申し遅れまシタ! ワタクシ、ベルニカ・ホワードと申しマス。こう見えて、国家魔具師をさせて頂いてマス。どうぞ気軽にベルとお呼び下さいまし」


「「えええっ! 国家魔具師!!」」


彼女の言葉に僕とサーシャは、驚きのあまり声を揃えて、叫び出したのだった。


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