10話 魔具の国・コンカルノー
「ようこそ、魔具の国コンカルノーへ!」
コンカルノーへ足を踏み入れた僕たちに、案内係のお姉さんは、ハキハキとした声でそう言うと、
エルラドより派遣された討伐隊の方ですね? こちらをどうぞ! と国王の印がしるされた招待状を手渡してくれた。
僕達は、お姉さんにありがとうとお礼を言い、招待状を受け取ると、通行の邪魔にならないように、道の隅へより、さっそく封を明け、中を確認したのだった。
サーシャがゴホンと咳払いをし、折り畳まれた招待状を読み始める。
「えーっと、【敬愛なる討伐隊士の諸君。ようこそ、コンカルノーへ。
今期討伐隊への、対魔王討伐魔具『ファートムソード』と『シクサイ』の贈呈者選出方法は、任務完了方式とする。
任務内容は以下の日程に、コンカルノー城・拝謁の間にて開示とする。
尚、『ファートムソード』と『シクサイ』のお披露目の儀式は、対魔王討伐魔具贈呈式と平行して執り行うものとする。
ひいてはこの書面を、コンカルノー国王・アルベルト三世の名の元に、正式な対魔王討伐魔具贈呈式への招待状とする。】
任務内容公開日は……あら、公開日まで10日程あきそうね。
ちょうど良いわ、せっかくコンカルノーに来たんだもの。その間に、任務に備えて、装備品のバージョンアップを図りましょう!」
招待状を読み終えたサーシャはそう言うと、僕へ招待状を渡し、さあ、これから忙しくなるわよ! とウキウキしたような口ぶりで、
今度は先ほど招待状と共に手渡された、コンカルノーの地図を開きはじめたのだった。
僕はサーシャから受け取った招待状をしまうと、サーシャに近づいた。一緒に地図を確認するためだ。
先程まで、楽しそうに地図を眺めていたサーシャがふと、そう言えば……とこう話しはじめた。
「慣例通りなら、『ファートムソード』と『シクサイ』のお披露目式は、1番最初に執り行われるのに、今回は贈呈者が決まった後なのね?」
「言われてみれば、確かに! どうしてなんだろう?」
サーシャは、しばらく難しい顔をしてうーんと唸っていたが、まぁ、そんなことは、どうでもいいわ! それより、装備のバージョンアップよ! とまた目線を地図に戻し始めた。
そんなサーシャへ、何だよ、自分で言い始めたくせに……。
と小さく反論してみたけれど、すっかり地図を見るのに夢中になったサーシャに、シカトされてしまったのだった。
「……お嬢ちゃんのお前に対する扱い、何気にひでぇな」
そんな僕らのやり取りを、僕の肩の上で黙って聞いていたラルムが、小さな声で僕にそう声をかけてきた。
人里だとラルムは悪目立ちするため(下手したら、僕らが魔王の手先だと怪しまれてしまう!)、サーシャに『スケルトン』の魔法をかけてもらい、人々に見えないようにしてもらっている。
ちなみに、『スケルトン』の魔法は、(かけた本人)と、(そこに魔法をかけられた対象が存在していることを、あらかじめ認識している人間)
は対象にならず、僕とサーシャには、変わらずにラルムの姿が見えている状態だ。
けれど、『スケルトン』の魔法だけでは、声までは隠せないので、ラルムには静かにしてもらうように頼んでいたんだけど……。
どうやら、先程の僕らのやり取りに、一言いわずにはいられなかったようで、ヒソヒソと僕にだけ聞こえる声でそう話しかけて来たのだった。
「あ、やっぱりそうだよね? よかった。これが日常になりすぎて、酷いなぁって思った僕がおかしいのかもって、感じ始めてたんだ」
ラルムの問いにそう答えると、すかさずサーシャは、何か言った? とギラリと睨んできた。
僕とラルムは、ピクリと肩を揺らして、声を揃えて、いっ、いえ、何でもないです……。と言葉を返したのだった。
「よし決めた! ちょっと値段は張るけど、『アイギス街』へいきましょう!」
「『アイギス街』かぁ……。僕の財布もつかなぁ……」
「それは、知らないわよ。私の資金は問題ないもの」
サーシャはそう言うと、財布の中身を心配する僕をよそに、ほらほら、さっさと歩いた! と僕の背中を押して、『アイギス街』を目指し歩き始めたのだった。
コンカルノーは、コンカルノー城を中心に円をかくように市街地か広がっている。
そして市街地には、旅人が多く訪れる正門付近を中心に、鍛冶屋や、魔具師達が店を立ち並べているのだ。
鍛冶屋街は大きく5つのブロックに別れており、鍛冶屋や、魔具師のランクによって、『ブラックスミス街』『シルバースミス街』『ゴールドスミス街』そして、最も高いランクの魔具師のみ店を出すことが許される『アイギス街』とそれぞれに通称がついているのだ。
今回僕らが立ち寄る事にしたのは、この最上級に位置する『アイギス街』で、そこで僕らが持っている、装備や武器のメンテナンスや、バージョンアップをお願いする予定だ。
それなりに料金はかかるが、これから先も旅の相棒となる装備達なのだからケチってはいられない。
特に武器は、『ファートムソード』や『シクサイ』を手に入れ後も、通常のモンスター討伐ではお世話になる代物なので、手入れが欠かせないのだ。
と言うのも、『ファートムソード』や『シクサイ』は威力もすごいが、その分魔力消費量も半端じゃないため、普段使いには向かないからだ。
僕らの旅の資金は、主にエルラド国から給付された、支援金が占めるのだが、これは魔法学校在学中の成績によって、給付の金額に差が出てくる。
と言うことは、魔法学校・魔法使い科、主席のサーシャと、魔法剣士科、最下位の僕とでは支給額に雲泥の差があるのは当然で……。
僕としては、手を出せて『ゴールドスミス街』かなぁと考えていたのだ。
けれど、そんなことを言ってしまっては、サーシャの機嫌を損ねそうだったので、
後で何とか『ゴールドスミス街』にも寄ってもらおうと思いながら、僕はサーシャに言われるがままに、『アイギス街』へと向かうしかなかったのだった。
「きゃあ! 泥棒! 泥棒なのデス~!!」
『アイギス街』へと歩みを進めていた僕たちの背後から、女の子の悲鳴が聞こえてきた!
慌てて振り返ると、そこにはペタンと地面にうつ伏せに倒れながら手を必死に伸ばす小柄な女の子と、その先に女の子の荷物とおぼしき鞄を手に持ち、高笑いをしながら走り去る、チンピラが目に映った。
「セオ! 何とかなさい!」
「何とかって……、ざっくりとした指示だなぁ」
サーシャにそう文句を垂れながらも、僕は剣の鞘を腰から抜き、目の前のチンピラの足元を目掛け放り投げた。
鞘は、目論見通りチンピラの足にうまく絡まり、チンピラは足をもつれさせそのまま前のめりに転けた。
僕はその隙に、チンピラの背に飛び乗りその手から荷物を取り上げたのだった。