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1話 魔王討伐隊・第23班

ーエピローグー



 その昔、人々に希望を取り戻した一人の勇敢な青年がいた。


 大陸ウナヴォルタを絶望へ突き落とした、魔王シャグランを討ち取ったその青年は、人々の希望の光となり、勇者として後世まで語り継がれることとなる。


 彼が残した、『魔王との戦いは終わりではない。これが始まりなのだ』と言う言葉と共にーー。








パンパパパーン


 王宮付きの音楽隊が、華やかに音楽を奏でた。


 一糸乱れぬ隊列の向こうから、魔法国家エルラドの第五代国王、マイルスチャート王がお付きのものと共に姿を表す。


 国王陛下は、階段の頂上に備えられた椅子へ腰掛け、配下に控える、若き魔法剣士たちに視線を向けた。


 途端に、きれいな列をなして並んでいた魔法剣士たちは、国王陛下へ敬礼! という兵隊長の掛け声に合わせて、これまた一糸乱れぬ敬礼を、国王陛下へ向けたのだった。


 剣士達が身に纏う鎧が、動きに合わせてカチャカチャと、耳障りな金属音をたてる。


 二十数名分の鎧がたてた金属音は、大広間に反響し、より一層不快な音となり僕の耳へ届いたのだった。

 その音に少し顔をしかめながらも、周りの剣士にならい、僕も陛下へ敬礼を向ける。


 陛下は、コホンと小さな咳払いをして、僕達魔法剣士に向け、高らかとこう宣言をした。


「勇敢なる魔法剣士の諸君!

 諸君も知っての通り、ついに魔王シャグランが復活を遂げてしまった。

 この大陸、ウナヴォルタへ封じられし魔王は、決まって一世紀に一度復活を遂げ、再び世界に災いをもたらさんとする。


 不幸にも今まさに、厄災の時代が訪れようとしているのだ。


 だが、恐怖におののく事はない! 我々はその度に魔王を討ち取り、世界に平和を取り戻してきたのだ。


 諸君、今こそ立ち上がるときがきたのだ!

高い魔法適性を認められ、魔王討伐のため選別された、誇り高き魔法剣士達よ!


 今ここに、魔法国家エルラド、第五代国王マイルスチャートの名の元に、諸君らに魔王討伐隊の任を命ずる!


 それぞれ、各地で魔物の出現に苦しむ人々を救い、魔王の討伐を目指す旅にでるのだ!


道半ばで、死するものも現れるやも知れぬ。諸君の行く道は辛く厳しいものとなるだろう。

 

 だが、険しい旅路の末、見事魔王を討ち取りし者は、偉大なる勇者として、後世までその名を語り継がれることとなるであろう!


諸君の旅路に、始まりの勇者、アイゼンリッヒの加護があらんことを!」


 陛下がそう言い終わるや否や、剣士たちは口々に、アイゼンリッヒの名の元に! と言葉を続け、高らかに拳を突き上げるのだった。



 魔王討伐へ、たぎる同期の剣士たちの熱気に、押され気味になりながら、僕も、アイゼンリッヒの名の元に……。と口にし拳を突き上げてみる。


 けれど、僕の弱々しい声は、あっという間に回りの声にかき消され、聞こえなくなってしまった。


 ……どうしよう。もうすでに帰りたい。そもそも、僕に魔王討伐なんて無理なんだよ。魔法学校万年ビリケツで、エルラド始まって以来の落ちこぼれなんて呼ばれている、この僕にはさ。


 そこまで考え、早くも泣きべそをかきそうになる僕。

 そんな自分を奮い立たせようと、僕は観衆へ目を向け、涙で目を潤ませながら、僕の事を誇らしげに見つめる母さんの姿を見つめた。


 魔王復活の兆しが見えはじめた5年前に、至るところに現れはじめたモンスターの討伐任務で、父さんは死んでしまった。それ以来、僕の事を母さんは女手一つで育てたくれたんだ。

 母さんには魔法適性はなく、就ける職も限られていたから、父さんが死んだ後は、文字通り朝から晩まで身を粉にして働いて、僕を育ててくれた。


 そんな母さんは、僕が魔術の素質の認められ、父さんと同じ魔法剣士の職に就けた事を、自分の事のように喜んでくれたんだ。


 それに、魔王討伐に向かう魔法剣士とその家族には、充分な金額の魔法討伐支援金が支給される。

 

 だから、僕が魔王討伐に向かえば、母さんの当面の生活は補償されるし、万が一にでも魔王討伐を成し遂げることが出来れば、英雄として巨万の富を手にすることが出来る。


 それに……もし僕が旅の途中で死んだのなら、これ以上母さんの重荷になることもなくなる訳だから。


 母さんの期待に応えるためにも、母さんに楽させてあげるためにも、僕は魔王討伐を辞退することなんて出来やしないんだ。


 こうして、魔法国家エルラド最弱の魔法剣士である僕、セオドア・クロスは、魔王討伐隊第23班として、魔王討伐の旅へ出発することとなったのだった。



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