表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小噺たち 1

作者: 神水たゆら

内乱

紛争

戦争

残虐


そんな言葉は

歴史教科書の最後のページに

少し書いてあるかないかぐらいだ。


無謀な戦いは

昔に終わった。


世界の神は1つと

決定されたからだ。


どの神が正しいとか

神のお告げで戦えとおっしゃったとか

神を冒涜するものに罰をとか

昔の話しすぎて

今では笑い話になってしまうかもしれない。


神が統一することによって

世界も統一され

平和に向かっている。

神の統一には国々の妥協が

必要で結局

聖地は天となった。

神は私たちの

平和と愛の象徴である、と。




無機質な箱からは

音声と映像が流れていた。

妹はそれをただ見つめていた。

箱の中の女性は

現在どのような状況なのかを

オブラートに包みながら話している。

映像は人間同士の醜い血肉の争いを

鮮明に映している。


空を舞う鉛球。

重々しい噴煙。

幼子の泣き声。


妹はふいに自分に聞いた。

何故神が統一された世界なのに

こんなことが起こるのか?と



自分は当たり前のことを聞かれたので

当たり前のように応えた。






神様が人殺しを好きだからじゃない?







end



駅のホームからは沢山の人々がでてくる。

彼らはしきりに携帯電話で通話をしている。

笑いながら話をする者もあれば、

憤怒に話す者もいる。

または、号泣し泣き崩れる人を見るのも、

そう珍しいことではない。


しきりに人々は通話をしている。

ホームから家路に帰る間の孤独な公衆電話の利用者を

最後に見たのはいつの日か。

ただ、只在るだけの存在の理由しかない。


人々の通話は途切れることを知らない。

彼らに誰と話しているのかと聞けば、

彼らの受着信履歴を見せてもらえば

納得がいくだろう。


全てが同じ相手。

まぁ、それが当たり前なのだ。


彼らが先ほどから通話をしているのは、

『明日の自分』である。

もちろん。

明日、自分が死ぬとかそういう

劇的な話はタブーである。

ただ、『明日の自分』が『今日の自分』へ

明日の助言をしているだけだ。


そして彼らはひとしきり

『明日の自分』から助言を受けた後。

『今日の自分』が『昨日の自分』へ

電話を入れることになる。






これが人々の日課だ。

end



私は時たま、自分の土地と相手の土地との狭間で戦争を行うのが趣味である。


私の味方も、敵方の味方も量は同じだ。

あとはお互いの思考能力と技術の争いとなることが多い。


私を守るのは、名も知らぬ駒が大勢。

前に進み出ては戦地を血色に染め上げていく。

それを上から眺めるのが私のもう一つの趣味でもあった。

敵方に殺され、なぎ倒される私の駒。

味方が殺し、わけもわからない形になりながら倒れ逝く敵方の駒。

私はたった今、敵方の駒を排除した。


私の信頼を置ける騎士団は、戦場を飛び跳ね前へと進み行く。

しかし、騎士団で相手の王を捕らえることは今の私の技術では難しい。

何しろ、騎士団は扱いづらい。

私の話を聞く前に相手の騎士との一騎打ちになることもしばしばあるのだ。

そこで我が軍が勝つか、敵軍が負けるかはわからない。

只、馬もろとも戦場で死なれると足場が悪いうえに血なまぐさい。

これはたまったものではない。


今までの話を聞けば、私は自分の家臣どもを戦場に送り込んでいるように見えてしまうのは仕方の無いことだ。

しかし、彼らよりももっとも使える駒があることをここで紹介しておこうと思う。

それは、我が隣に居る妃の存在である。

女故に戦うのは不備かと思われるが、結構やるときは女も恐いものである。

私よりも多く動くことができるし、なにしろ有能だ。

敵国の妃を殺しに行くことだってできる。

女同士の戦いとは観ていて面白いものを感じる。

髪を振り乱しながら、可笑しくなったように暴れる二人の女の姿は滑稽である。

斜めから刃先が入り、手持ちの杖で敵国の女を撲殺している我が妃。

さすがであった。


さて、ここで今日の決着は付いたようだ。

敵は無意味に血を流しすぎたようだ。

生きている駒など、これっぽっちも居ない。哀れだ。

敵国の死に逝った駒は、戦場の外に積み重なっていた。

不快な色と香りをかもし出す駒。

しかし、これが私の勝利の証となるのだ。






なに?もう一度やらないか、だと?

また、私に挑むとは・・・・

それでは兵士を元に戻せ。



私は自分の隣に、先ほど敵国を撲殺した妃を従えた。





さぁ、チェスを始めようか。

end


今、私は緊張している。

これほど緊張したのはいつ以来だろうか・・・

手のひらには汗を掻くほどだ。


午前中の役所というのは、どうも人が多いものである。

私は自分の目的に値する科の前にいる。

そこもやはり人が混雑している。

朝一番に来たつもりが、自分の手に握られている番号は『32』という途方もない数字だった。

しかし、この途方もない数字に私にとって最大の価値になるのだ。


私はこれまで世界に反して生きようなど、これっぽっちも思っていなかった。

難しい学校に勉強して入り、世界で一番難しいという資格を取り、今の私がここにいる。

私の家族もそうだ。

この手順を、父も母も姉も弟もそして、代々の先祖もそうであったと歴史書が残されている。

このことに反するのは一族で私くらいだろう。


しかし私は決意してこの場に座っている。

先ほどから私を襲う、手足の振るえや手汗は体自体が納得していないところからだと思われる。

だが、関係は無い。

父、母そして姉弟。代々の偉大な先祖たちが形成してきた輪が一族の恥となり、体かそれを拒絶していようと私の意志で今日ここにいるのだ。


私の目の前の電光掲示板の数字が変わった、

『32』という数字を表している。

私はすぐに席を立ち、開いている窓口に座った。

目の前にいるのは30代後半くらいの女性だった。

書類に目を通しながら不備が無いかを念入りに点検しているらしい。

女性は口を開いて、もうこの資格を取ることは禁止されます。そして今の職業に就けなくなりますがそれでも本当によろしいのですか?

私は自信を持って、私が自分自身の意思で決めたものです。覚悟はできています。とはっきり言った。

目の前の女性は安心したように、にこりと笑いかけ私の経歴やら写真やらの書類に大きな判子を押した。

最後におめでとうございます。と言われた。


二重の自動ドアを潜り抜けると、先ほどとは違うすがすがしい空気が私の肺を満たす。

血液には新しい酸素が供給され体が活性化しているように感じた。

顔を上げれば真っ青な空に、一本の白い飛行機雲。

深呼吸をして、息をゆっくりと吐く。

こんな気持ちは生まれて初めてだ。




はれて私は

人間という職業を辞めることができたのだ。

end


上司に呼び出されて、その口から出された言葉に驚かされた。


私はこの企業に入って2回目の昇進を遂げたのだ。

今までの努力が実り、周りに認められ、良い部下たちも

私についてきて仕事をよくやっていてくれている。

それで私は安心して仕事ができている。


家へ帰れば妻子が待っている。

子供は上が女児下が男児。

理想な兄弟である。

妻とは恋愛結婚で、2年の交際を経ての結婚である。

家はローンで買ってしまったが、玄関まで迎えに来てくれる子供たちをみれば、そんなのなんの苦でもない。

暖かい食事、一家団欒のとき。

風呂に入って、妻と少々色々話し、子供の成長を喜び合い。

そして寝る。



理想な生活だ。



これほど幸せなことは、世界にはありえないだろう。


幸せ。

幸せ・・・・

幸せ?






『シュミレーション終了。シュミレーション終了。このプログラムを自動で廃棄します。お疲れ様でした。』



白衣の二人の研究員の頭の上にあるスピーカーは、機械的な女性の声を発し言った。

研究員たちは互いに、液晶画面を眺め眉間に皺を寄せている。


「やはり、うまくいきませんね。これで本日4回目の廃棄だ。」


若い方の研究員は、受話器をとりどこかに連絡を取っている。

数分後、ビニール製の上着に身を包み、ゴーグルとマスクをした人たちが何人か部屋に入ってきた。

若い研究員は事情を話すと、上着を着た人々に椅子に座ってピクリとも動かない男性を廃棄するよう命じた。


「なにが、いけないのかね。理論上の間違いは無いはずだが。」

「しかし教授。このグラフを見てください。これは今までにありません」

「そうか、ここがいけないのか。」

「そうかも知れません。いま、代わりを手配しますので。」


若い研究員は先ほどと同じ受話器を取り、何かを話している。


一方初老の研究員は、液晶画面に食い入るように観ている。

そしてカチャカチャとキーボードを操作する。

時たま顎鬚に手を伸ばし掻いている。


「教授!新しい実験体が届きました!」

「うむ。では電波を調べてから、実験開始だ。」

「はい!」


若い研究員は実験体と呼ばれた少女に電線をつないでいく。

そしてしばらく操作をしてから初老の研究員を呼んだ。


「これで、次は完璧です。」

「そうか。では始めよう。」

「成功すれば、世界は安定です。」

「あぁ、早く見つけよう。幸せの単位を。」





『シュミレーションNo,1564 只今より実行いたします。離れていてください。』



先ほどの機械音が研究員たちの頭の上を過ぎて行った。

end


【とある、男の話】


私は今日、とある場所から地下へもぐる。

暗く明かりも少ない地下は埃臭さとゴムの焼けるような

嫌な臭いで充満していた。

周りには数えきれないほどの人が押し寄せ、私と同じように

地下に潜り続けている。


場所の雰囲気は決していいものはいえない。

乾燥した空気が大きな地下のトンネルの中に吸い込まれ、

まるで口を開けこの世のすべてを飲みこもうとしているのではないかと錯覚を起こすようだ。

トンネルの奥は暗くて何もみえず、何も聞こえない。

ただ空気を吸い込み呼吸をしているような音だけが、

恐ろしく轟いている。


外部からの通信も閉ざされ、私はポツンと壁際によるのだ。

人間の衝動だが、はたまた日本人の衝動だか分かりはしないが、

何故か壁などに密着した場所だと落ち着くのだ。

それはこの場所の虚しさかのせいなのであろうか…


時間が経てば経つほどに人はあふれかえってくる。

その人たちも自分と同じ目的でここにいるのだろうか。

何を願ってここに来たのか。

あるいは来なければいけなかったのか。

今から起こることは苦であるのか楽であるのかさえ個人差が生まれる。


私は大きく背伸びをした。

地下から抜け出した場所は、入った場所とまったく違う場所だったのだ。

しかし、驚きはしない。

驚いたらおかしいのだ。











私はただ単に地下鉄の話をしていただけなのだから。

end


【身代わり殺人】






ほら、だってさ。

身代わり人形ってあるじゃないか。

あれと一緒だよ。



私は、私に似ている言動をする人を酷く恨む。

その言動が過去の私に似ていれば似ているほど、その人の存在を否定したくなる。

それは、私が過去の私を否定していることと同じことだと思う。

過去は嫌でも変えられないのだ。

過ぎ去った時間を戻ることができれば、平気で私は過去の私を抹消市に行くだろう。

しかし、叶うことはない。


だから身代わり殺人を夜な夜な行う。


今日は、ある女性である。

私と同じ年代である。

8年前の私も今の彼女と同じような事にはまりこんでいた。

今思えばくだらない。

あんなことにいくらお金と時間をつぎ込んでしまったのだろう。


今、彼女は『×××××』を夢中で行っている。

昔、私は『×××××』を夢中で行っていた。



嫌だ。過去の自分は目の前に存在してしまっている。

なんて気持ちの悪い存在なのだろうか。

吐き気がする。喉が痒い。自分が醜く汚い。




目の前にいる『×××××』に没頭していた女性。

つまり過去の私には今、身体の臓器が機能していない状態にある。

それは私は過去の自分と別れるために抹消していく。

ひとつひとつのパーツに切り刻んだ後は、

少々の水と肉片をミキサーに入れて粉砕する。

部位によって変化する水の色は私の醜い色だ。

それをバケツに入れて、川に流していく。

粉々になった小さな人片は魚の餌となっていくだろう。




長く長く続く真っ赤な帯を、暗がりの中見ながら

私は過去の私を殺していくのだ。











end



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ