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第0章

 ふと気が付くと図書館のエントランスにいた。


 図書館といっても昔ながらの図書館ではなく、新しい近代的な図書館だ。エントランスには談笑できるスペースがあり、入館ゲートまで完備されている。入館ゲートをくぐれば左右にガラス張りの自動ドアがあり、図書館の中をうかがえる。

 本を読んだり、勉強したりすることにはうってつけである。


『ここは…どこかに似ている』


 ただならない違和感が私を襲ってきた。


 ここには人っ子一人いない、私一人。

 人の気配を一切感じない。


 とりあえず私は椅子に座り、落ち着くことにした。


『いったいどういうことだ?』


 自分の中で答えを出そうとしても一切答えが見つからない。

 全く身に覚えがないのだ。

 必死になっている私に突然、聞き覚えのない声が降りかかってきた。


「髙橋様、これはあなた様の夢の中でございます。」


 誰もいなかったはずのエントランスの中央に灰色のスーツを着た男が立っていた。端正な顔立ちで、年齢は40代ぐらいだろうか、落ち着きがある独特な空気をまとっていた。


「あなた…は誰ですか?」


 自分がなぜここにいるのか、そもそもここはどこなのか…聞きたいことは山ほどあったが、咄嗟に私の口から出たのは、目の前の男に関する質問であった。


「私の名前は(ワタリ)と申します。突然のことで混乱なさられているとは思いますが、どうか私の話を聴いてくださいませんか?」


 そういうと亘は私の目の前の椅子に座った。


「あなたはこの図書館の閲覧人に選ばれました。この図書館の中にある本に目を通すだけでよいのです。すべての本を読む必要はありませんし、二三冊でかまいません。読み終わった感想などもいりません。ただ気になった本を読んでくださればそれでよいのです。」


 亘の口から説明された内容はとても急で意味不明な物だった、しかしそれ以上に興味深くもあった。

 夢の中なのだから支離滅裂でもよいのだ、面白ければ…


「面白そうですね…ぜひ読んでみたい。」


 私がどうこたえるかを知っていたかのように、亘はにやりと笑った。


「さすが髙橋様です。それではこちらから中に入りましょう。」


 亘に促されるがまま、私はガラスでできた自動ドアを通る。

『たかが夢だ。怖がることはない。』




 図書館の中に入ると、きれいで洒落た空間が広がっていた。

 図書について相談できるカウンター、図書の検索や貸し出しを行うことのできるパソコン。

 どこか私の頭の中をくすぐるような感覚。私の中の何かが反応しているのだ。

 亘が口を開いた。


「ここは、髙橋様がお通いになった大学の図書館の記憶を基に再現させていただきました。」


 そう言われてみれば確かによく似ている。最初に感じた既視感の正体がついにわかった。


「確か…高橋様はあちらの席で試験のお勉強をされていましたね。」


 亘が指し示す席、そこは日当たりもよく電子機器の充電が可能な席で、私は必ずそこの席を選んでいた。


『なぜそんなこと知っている?』


 大学時代のことを知っているなんて妙だ。明らかにおかしい。この図書館に覚えはあれど、亘に関しては一切の記憶もない。


「夢の中でございますから。」


 私の心の中を読めるのであろうか、言葉に発出してもいないのに亘は答えた。夢の中だから何もかもお見通し?そんなことあっていいのだろうか…


 するとまた亘が「夢の中でございますから…」と答えた。やはり見透かされている。疑念は確信に変わった。




「それではお好きな本をお取りください。」

 亘にそう急かされ私は一番奥にある列の棚にある一冊の本を手にした。背表紙には何も書かれておらず、表紙には黒い太い綺麗な字でこう書かれていた。


【大野美穂】





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